屋根裏のトコノマ

小説を作っています。お笑い/大道芸/ボードゲーム/ストーリー性のある歌詞/命のやりとり…

屋根裏のトコノマ

小説を作っています。お笑い/大道芸/ボードゲーム/ストーリー性のある歌詞/命のやりとりのある洋画が好きです。羊文学賞にて最終候補まで辿り着かせて頂きました↓ https://monogatary.com/episode/160157

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

同窓会にコブラ

「言ってなかったけど、この前、福井から福岡へ引っ越した」と Aが言った。「事後報告でごめん、秋に双子が産まれた」とBが言った。「実はこの前、世界をクルージングしてきた」とCが言った。おめでとうとみんなは言った。私もそう言った。 「初めて言うけど、半年前事故に遭った」とDが言った。「わざわざ言うことじゃないと思ってたから言わなかったんだけど、父親が体を壊したから一緒に住み始めた」とEが言った。「黙ってたけど、いま、へそに小さなコブラが噛みついてる」とFが言った。それは大変だと

    • 側溝のうえの麺と貝をまたいだ

       側溝の上の麺と貝をまたいだとき、暑い、といまさら思った。でもこの暑さが空気の持ちものなのか通行人大勢の持ちものなのか解らなかった。今日は何日か続いたお祭りの最終日だ。その夜だ。もうすぐお祭りが終わろうというタイミングだ、が、往来は途切れない。  会場には、香ばしいとも形容しがたい、ほのかに腐ったような甘いにおいが満ちており(本来は香ばしいだけのにおいをマスクが変換しているのか)、かつ、運営者の最後のあいさつが響いている。わたしはスーパーを目指しているので、あいさつは聞かな

      • ファイナルデッドブリッジを観て

        中学のころ、ファイナルデッドブリッジを観た。この映画の冒頭では橋が落ちる。大勢死ぬけれども、数名が助かる。でもその数名も次々死んでいく。なぜなら、死からは逃れられないので。つまり、“死”から逃れたあとも、“死”から追いかけられ続ける、という構図。 私はそういう映画を観るのにはまっていて、勉強も部活も二の次になった。疲労骨折と偽って、陸上部の、長距離走の大会を休んだ。そのようにふまじめな部員だったので、体力はつかなかった。 就職後、上司が私に、駅伝大会に出ようと言った。私は

        • 親が喧嘩して離婚し、私は母と兄と三人で暮らすことになった。 ある日、母がリビングで携帯をいじりながら、「1980年ころ、お兄ちゃんを妊娠してたとき、わたしは大学四年生だったわけだけど、めちゃくちゃ熱が出て大変だったの。調べたら、Dっていう感染症でね。結局大事には到らなかったけど、どこでうつったんだろうってすごく怖かった。自分が人混みに出たせいかもなって罪悪感に苛まれもした。でもいまなんとなく調べてみたら、Dって主に唾液で感染するんだって。てことはあいつのせいだわ」と元夫、つ

        • 固定された記事

        同窓会にコブラ

        マガジン

        • このまえの話
          24本

        記事

          ワクチン接種

          何度も電話したがいつまでも予約が取れず、しかしどうにか予約が取れ、そしてワクチン接種の日になった。車に乗り込んだ。それから自分の便意に気づいたが、予約の時間が近づいていたので、発進した。 会場に着いた。トイレに行く時間はなさそうだった。受付に問診票を差し出すと、受付のひとはパソコンを触って、「あなたの予約は入っていません」と言った。私は脇によけた。携帯で予約を確かめると、会場を間違えていたことが解った。北の会場に来てしまったが、南のほうだったらしい。 そのとき強い風が吹い

          バス停から叫び

          私は道を歩いていた。気づくと左に男子学生三人組がいて、つまり私は彼らとしばらく前から併走しているというわけだが、いま、学生のうちのひとりが、「あ、バス停あるじゃん、じゃあ俺バスで帰るわ、じゃあな」と残りの学生ふたりに告げ、バス停のそばに立ち止まった。だから私は今後、バス停に留まった以外のふたりと併走していくことになる。 少し歩いたとき、背後から声がした。「おーい」。おそらく、バス停に留まった学生の声だった。大声だ。つまり、彼と我々の距離はすでにかなり空いているわけだ。 「

          バス停から叫び

          ライン通話

           家で昼寝をしているとライン電話がきた。Aだった。出てみると電話のなかから、「ひさしぶり」と声がした。こんな声だったろうか。電話口の声は、電話会社によって作られた声だとよくいう。だから変に感じるのは自然だが、それにしても、変な声だった。いやに高い。こんな声だったろうか。彼とは高校時代同じ部活だったが、それ以降は年に一度飲み会で会う程度で、特別な関わりがない。  黙っているとAが、論文の執筆に協力してほしい、と言った。彼は大学で社会学を学んでいるという。私は大学に進まず、コン

          あなたが掃除をするとき思い出すべきたったひとつのこと

           友人Aが小学生の頃、同級生にダンサーがおり、すべてのダンサーが高飛車だと相場が決まっているわけではない、しかしそのダンサーは高飛車だったから、「あのダンサーは高飛車だ」ということで、クラスメイトから疎まれていた。  ある日、大掃除があって、それは机から椅子まですべて裏返し、机の底から椅子の足まですべて拭き切るという日だ。Aは『机拭き係』だったから、机を拭いた。順調に拭き進め、ダンサーの机をひっくり返したのだが、そこにあったのは、無数の、尾を引く彗星を思わせる、鮮やかな痕だ

          あなたが掃除をするとき思い出すべきたったひとつのこと

          夫婦別姓を選ばなかった方に

           先日、Aは飲み会に参加したのだが、そのなかにひとり、最近結婚した者がいて、それをBとしよう。Bはみんなからお祝いの言葉をかけられ、終始幸福そうだったらしいのだが、あるとき突然、「わたしって今まで五文字。苗字と名前合わせて五文字だったけど、結婚したらねえ、四文字に減っちゃうんだよ」と言った。みんなが笑った。別に笑うほどのことではない。大したことは言っていない。だから反発したくなったのか、Aが、 「三文字にしたいときはどうする? ああ、苗字が一文字の人と結婚すればいいんだね」

          夫婦別姓を選ばなかった方に

          あなたがアニメに詳しくなれた理由

           友達のお母さんには友達がいないから、休みの日はずっと家にいる。だが、友達がいないことも休みの日ずっと家にいることも、お母さんからすれば「普通のこと」であり、「別に悲しくはない」。  休みの日、お母さんはずっとパズルを解いている。周りの数字を頼りに、色鉛筆でマス目を塗っていき、完成すると絵柄が出る。  お母さんが買っているパズル雑誌はいろいろあるが、その中には、アニメのキャラクターばかりが答えになっているものがある。選択肢には、たとえば、「①江戸川コナン ②毛利蘭 ③服部

          あなたがアニメに詳しくなれた理由

          なぜ人は詐欺に引っ掛かるのか

          夜、ファミレスの駐車場に入ると、暗くて線がよく見えなかった。目印となる車も近くにない。停車したあと、脇を見やると、私の車が同じ列のほかの車より少しズレているのが解った。しかし車はまばらだから、このままエンジンを切るがいい。私は外に出た。ファミレスに入った。 隣の席に若い男がいた。ふたり。先輩後輩らしかった。 先輩が、「そして、順番に電話を掛けていってくれるかな。そう、そのLINEの友達の、上のほうからひとりずつ全員に」 後輩は頷いていた。私はスパゲティを頼んだ。 「電

          なぜ人は詐欺に引っ掛かるのか

          なぜあなたは他人の口調に敏感なのか

          「こんなこと言いたくないけど」と前置きする上司は大抵人間ではないのだが、時折自分も「ほんとは言いたくないけど…」と保身していることがあり、はっとする。 自分だけならまだしも、好きな芸人や歌手が「悪い意味じゃないけど」などと言っているとき、私は、「あれ?」と思う。「好きだったけど、この歌手ってほんとは小さい人間だったのか」と勝手に幻滅してしまう。 むかしからそんなことが多かったな、とぼんやり考えているとき、ひとつ記憶がよみがえった。 むかし職場で、嫌な言いかたをされた記憶

          なぜあなたは他人の口調に敏感なのか

          なぜあなたは本当に善良な人を見抜けないのか

          残念だけど仕事には嫌な思い出しかないし、嫌いな上司と同僚ばかりだ。厳しい人は当然好きになれないし、優しげな人が優しく接してきても、なにか裏があるのではと勘繰ってしまう。 じゃあどうすれば本当に優しい人を見つけられるんだろう? むかし仕事の飲み会で、苛烈な人は苛烈で嫌なことを喚き、穏やかな人は嘘まみれのおためごかしを飛ばしていた。私はその中で精神をすり減らしていた。「具合悪いの? 大丈夫?」と言われても、その優しさを素直に受け止められず警戒した。 真っ暗な帰り道、ひとりで

          なぜあなたは本当に善良な人を見抜けないのか

          嘘のすべらない話

          これ友達から聞いた話なんですけど、その友達の安田君っていうのが、先日引っ越しをしたんですよ。電気とかガスとか全部止めて、部屋とかトイレとか掃除して、新居に移って。でも、あとアパートの管理会社との立ち合いだけ残ってるみたいな状況で。 いろいろ事情があって立ち合いだけは別日に設定しちゃったんで、立ち合いの日、立ち合いのためだけに、リュックひとつだけ担いで新居から昔のアパートに戻ったらしいんですけど。敷金たくさん戻ってくるといいなーなんて期待しながら。 でアパートに着いて中入っ

          嘘のすべらない話

          なぜあなたは家族と解り合えないのか

          両親が離婚寸前となっている。別にそれはどうでもいいのだが、父のほうは離散を防ごうと躍起になっているらしい。 父がある日、父と姉と私のグループラインに、悩みを吐露した。「何も迷惑かけてないのに、(母は)何が不満なんだよ」という内容を。 父親が子供に不安や不満を打ち明けることに、なんら問題はない。よその父親がよその子供に不安や不満を打ち明けていた場合、私はその家族を、「風通しのいい、いい家族」と判断するはずだ。しかし、自分の家族となるとよく解らない。私は父の悩みを聞いてやりた

          なぜあなたは家族と解り合えないのか

          なぜあなたは他人の結婚を祝えないのか

          結婚はすばらしい。なぜなら、楽しいという感情を、私に与えるため。 先日、中学時代の部活のラインがひさしぶりに動き、誰から言い出したのだったか、オンラインで飲み会を開くことになったのだが、私は不参加であるため、「今から始めるよ」「これちゃんと招待できてる?」「しっかり〜笑」といったやりとりを、プッシュ通知で眺めることとなり、とても楽しかった。 しばらくしてプッシュ通知はなくなり、ビデオ通話が始まったようだ。会話は不明になり、私は風呂に入ったり、テレビを見たりした。何時間かし

          なぜあなたは他人の結婚を祝えないのか