「水族館を水で浸して、いっそのこと、水族館そのものを水槽にしちゃえばいいのにね、それでたくさんの人が溺れ死んでも、間違ってはいない気がするんだよ」 女の子は言っ…
スマートフォンの充電が二十パーセントを切り そこからさらに加速度的に減っていくのを見ていると 思うのだ 自分の命も このまま静かに終わっていってくれないだろうかと …
ずっと幻のなかで生きてきた これからもずっと幻のなかだろう そよ風だけが ぼくの友だち
ゆれ動いてよいのです 幻となって消えてもよいのです あなたのその体は透き通り 誰にも見つけられない胸の疼きだけが 一枚の萎びた花びらとなってこびりついている 消え…
コーラの空き缶を捨てる場所を探していた。空き缶にも適切な捨て場所があるんじゃないかと思ったからだ。といっても、なにも今日突然そう思いついたわけじゃない。かねて…
〈だってさ、知らなかったんだ〉と鏡のなかの僕は言った。〈イチゴが苦手だなんて。てっきり僕は、女の子なら誰でもイチゴが好きだと思ってたんだよ。高を括ってたんだね。…
時間はいつになったら凍りつくと 新しい空気の層の底で 繰り返し繰り返し ぼやいた いや ぼやいてなんて なかったのかもしれない すべて記憶違いなのかも それでも 凍りつ…
遠い遠い 果ての舞台 この世のどこにも ないところ 夢見ていたのは 冷たい道路があったから 本当は 気づいていた 自分のいる この場所が この世のどこにもないところ …
死体がしくしく泣いていました 粉雪は大地をなぐさめ 冷気が記憶の末尾を凍結しています 彼女の血管 そこを幾たびも 親しい輪廻の脈動が ここだよ、と笹舟の揺らめきを見…
思い出がひとつ増えるたび 夜空にひとつ星を浮かべる それらを繋ぎ合わせて星座をつくろう よい思い出だけにしよう 素敵な思い出だけでつくられた星座たち 僕は遠い遠い空…
はらはらと枯れ葉落ち はらはらと涙落ち はらはらとある思いが落ちる なにが落ちたのかわからぬままに 都会の雑踏はドミノ 最初の冷酷な一撃はどこから 「さあ」「そして…
ねえ、と言った彼女の口角 よお、と言った彼のまなざし どこへ行った 遠い遠い十代の光のつぶ 散乱したそれらは いまになってあのころの暗闇を無下にして輝く 教室は夢のな…
藤水隼
2020年12月19日 19:03
「水族館を水で浸して、いっそのこと、水族館そのものを水槽にしちゃえばいいのにね、それでたくさんの人が溺れ死んでも、間違ってはいない気がするんだよ」女の子は言った。全人類の哀しみを湛え、それが水面上には決して表れないような微笑を浮かべて。「じゃあ、地球も水で浸して、いっそのこと、地球そのものを海にしちゃえばいいのかもね、それで人類が全員溺れ死んでも、間違いではない気がする」ぼくが言っ
2024年3月17日 16:53
スマートフォンの充電が二十パーセントを切りそこからさらに加速度的に減っていくのを見ていると思うのだ自分の命もこのまま静かに終わっていってくれないだろうかと手のひらのなかで熱を帯びてくるとまるでこの科学の結晶のなかにも血が流れているみたいにあたたかい今日も誰かが不倫をしていることだろうそれは大層いけないことだろうだがぼくのこの血がどこにも行けず体の中に留まっていることのほう
2024年3月12日 21:01
ずっと幻のなかで生きてきたこれからもずっと幻のなかだろうそよ風だけがぼくの友だち
2024年3月10日 18:45
ゆれ動いてよいのです幻となって消えてもよいのですあなたのその体は透き通り誰にも見つけられない胸の疼きだけが一枚の萎びた花びらとなってこびりついている消えてもよいのです泣いてもよいのです春の光が心を気持ちよく通りすぎてゆくようにそんなふうに透明になれるならそこにいるだけで皮膚があるだけで傷んでいるだけでよいのですあなただけのやさしさが小さいけれどつよいつよいやさし
2024年2月25日 20:12
コーラの空き缶を捨てる場所を探していた。空き缶にも適切な捨て場所があるんじゃないかと思ったからだ。といっても、なにも今日突然そう思いついたわけじゃない。かねてから俺は、公園のゴミ箱やホームの下に、泥で汚れたり潰されたりして捨てられている空き缶を見ては、なんだかわけもなく感傷的な気分になったものだった。憐れみ? どうだろうな。そういう尊大な感情では空き缶に対して失礼だろう。もっとこう、シンパシーみ
2024年2月25日 16:12
〈だってさ、知らなかったんだ〉と鏡のなかの僕は言った。〈イチゴが苦手だなんて。てっきり僕は、女の子なら誰でもイチゴが好きだと思ってたんだよ。高を括ってたんだね。まったく油断した。もっとちゃんと調べておけばよかったよ〉 彼は悔しそうに、でも幸福そうに顔を歪めた。カップにそそいだコーヒーをすすり、小皿に盛ったマシュマロをひとつつまんで口に放り入れた。香ばしい湯気がこちらの鼻先まで届いた。〈女の子は
2024年2月21日 21:01
時間はいつになったら凍りつくと新しい空気の層の底で繰り返し繰り返しぼやいたいやぼやいてなんてなかったのかもしれないすべて記憶違いなのかもそれでも凍りついてほしいという願いのつぶてがわたしの小腸を疾駆しとめどない滅びの校歌を歌うまた咲きましたねまた白く 赤く生命におめかしをするのですね赤ん坊の手のひらみたいに新しい時間のほころびを冴え冴えと鮮やかに導くのなら
2024年2月15日 17:02
遠い遠い 果ての舞台この世のどこにも ないところ夢見ていたのは冷たい道路があったから本当は 気づいていた自分のいる この場所がこの世のどこにもないところつまりはそれが夢の十字路吹き飛ばせ 吹き飛ばせ私のすべての 思惑をそうして戻ってこい涙とともに私の温度よ
2023年10月23日 17:07
死体がしくしく泣いていました粉雪は大地をなぐさめ冷気が記憶の末尾を凍結しています彼女の血管 そこを幾たびも親しい輪廻の脈動がここだよ、と笹舟の揺らめきを見せ揺蕩っている街角の希望売りはこことはなんの縁もなくすべすべしたほっぺを明かりに潤ませろうそくの火をろうそくに移している死体がしくしく泣いています茫とした土の広がり吐息 小石 影 ららら彼女はもう「彼女」でもない
2023年10月18日 16:50
思い出がひとつ増えるたび夜空にひとつ星を浮かべるそれらを繋ぎ合わせて星座をつくろうよい思い出だけにしよう素敵な思い出だけでつくられた星座たち僕は遠い遠い空の下 丘の上に寝ころび星空を眺め 静かに息をし 目に涙をためてきれいな白い骨になって死んでゆきたい
2023年10月17日 17:06
はらはらと枯れ葉落ちはらはらと涙落ちはらはらとある思いが落ちるなにが落ちたのかわからぬままに都会の雑踏はドミノ最初の冷酷な一撃はどこから「さあ」「そして」「だから」「けれど」道は続く 音に乗って音に乗って 誰かが死ぬああ渋谷の交差点の真ん中にひとつ墓を建てようそこに花を手向け 手を合わせよう誰の? 誰の墓?ああ空が青いはらはらと枯れ葉落ちはらはらと涙落ちは
2023年10月16日 21:05
ねえ、と言った彼女の口角よお、と言った彼のまなざしどこへ行った遠い遠い十代の光のつぶ散乱したそれらはいまになってあのころの暗闇を無下にして輝く教室は夢のなかでシャボン玉焦慮があった 怒りがあった握るしかない拳の吐息があった影はいつもベンチの下で泣いていた私はいまそこに座り溶け出したアイスクリームのごとく陽を受けるきらきらと私は輝いているが、真に輝いているのは太陽のほうだ