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初秋の風

ねえ、と言った彼女の口角
よお、と言った彼のまなざし
どこへ行った
遠い遠い十代の光のつぶ
散乱したそれらは
いまになってあのころの暗闇を無下にして輝く
教室は夢のなかでシャボン玉
焦慮があった 怒りがあった
握るしかない拳の吐息があった
影はいつもベンチの下で泣いていた
私はいまそこに座り
溶け出したアイスクリームのごとく
陽を受ける
きらきらと私は輝いている
が、真に輝いているのは太陽のほうだ
いまはいまで幸せがある
素直に幸せと呼びたくないときがあるだけで
知らない人たちが右に左に歩いていく
秋風がさらった塵のひとつに
そよそよ混じっている私



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