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中沢新一著『レンマ学』『精神の考古学』『構造の奥』などを読む

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中沢新一氏の著作『レンマ学』『精神の考古学』『構造の奥』などを読み解きます。
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#人文学

「何も生まない空」と「生産性を持った空」ー中沢新一著『レンマ学』を精読する(13)

(このnoteは有料に設定していますが、全文無料で公開しています) ◇ 中沢新一氏の『レンマ学』を精読する連続note。本編に続く「付録」を読んでみる。付録と言っても100ページくらいある。 第一の付録「物と心の統一」に次の一節がある。 「言語学をモデルとしてつくられた構造主義が、そのことによって文化的なものと自然過程に属するものとを分離してしまい、物質過程とこころ過程の統一的理解を、逆に阻んでしまっているように思われた。」(中沢新一『レンマ学』p.340) 言語と

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意味分節理論とは(4) 中間的第三項を象徴するモノたち -中沢新一著『アースダイバー神社編』を読む

(本記事は有料に設定していますが、全文「立ち読み」できます!) ◇ 中沢新一氏の『アースダイバー神社編』を引き続き読む。 (前回、前前回の続きですが、今回だけでお楽しみいただけるはずです) 『アースダイバー神社編』には、諏訪大社、大神神社、出雲大社、そして伊勢神宮といった極めて古い歴史を持つ神社が登場する。 中沢氏はこれらの神社に今日にまで伝わる神話や儀礼やシンボル(象徴)たちを媒にして、その信仰の「古層」へと「ダイブ」する。 そうしていにしえの日本列島に暮らした

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『ホモ・デウス』×『レンマ学』を読む−「知能」と「意識」と「知性」。進化するシンボル体系=意味発生装置の場所

(このnoteは有料に設定していますが、最後まで無料でご覧いただけます) 『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、この本を通じて一貫して、人類の歴史における「虚構」の力に注目をしている。サピエンスの歴史は、虚構の使い方の歴史と言い換えてもよいくらいである。 虚構の力というのは、私たちが、目の前に存在しないもののことを想像・創造し、それについて言葉でしゃべったり、イメージを描いたり=物質化したりして、仲間と共有することができる力である。 そうして共有された虚構

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ソシュールからチョムスキーまで「相即相入」で、ことばの不思議を解明する -中沢新一著『レンマ学』を精読する(10)

中沢新一氏の『レンマ学』を読む連続note、今回は276ページからの第十一章「レンマ派言語学」を読んでみる。 言語、ことば個人的に、この第十一章は『レンマ学』の中でも一番盛り上がるところである。 何がおもしろいかと言えば、言語ということ、それも「言葉が意味する」ということを、ソシュールからチョムスキーまでの一見相反することを主張しているかのように見える理論を華厳的に相即相入させて、レンマ学の”論理”で統一してしまうところである。 ※ 言葉はことば、「こと」の「は」であ

無意識-言語-脳をつなぐ「アーラヤ織」 ー中沢新一著『レンマ学』を精読する(8)

中沢新一氏の著書『レンマ学』を読む連続読書note、今回は第七章「対称性無意識」を読んでみる。 これまでのところで「生命」や「言語」が、レンマ学の概念の組み合わせを通して捉え直されてきた。そして第六章、第七章、第八章では「無意識」の概念がレンマ学の概念たちのペアからなる構造に写像され、新たにレンマ学的な対象として浮かび上がることになる。 無意識という概念の発見、あるいはフロイトによるその深化は、「近代」から「現代」への切り替えポイントであるとも言える。 無意識の発見が、

「生命」と「言語」をレンマ学的に理解する ー中沢新一著『レンマ学』を精読する(7)

中沢新一氏の著書『レンマ学』を読む連続読書noteである。 今回は107ページから、第五章「現代に甦るレンマ学」を読んでみよう。 レンマ学は、仏教の華厳の思想を考え方のモデルとして、人間の存在をロゴス的知性とレンマ的知性がハイブリッドになったシステムの運動として記述してみようという試みである。 私たちが日常いろいろと考えたり感じたりしているときの意識は「ロゴス的知性」の働きが前面に際立っている。ロゴス的知性は事物を区別して並べる働きをする。私たちは世界を互いに区別された

レンマ×ロゴスのハイブリッドは「脳」から始まる −中沢新一著『レンマ学』を精読する(6)

中沢新一氏の『レンマ学』を読む連続noteも6回目である。 前回の記事はこちらであり、締めくくりに次のように書いた。 私たち人間が、区別と差別で煩悩に苛まれるのは「生滅心」の働きのせいなのだけれども、人間の心は実は生滅心だけでなく、生滅心と心真如との「和合」によって成り立っている。ここに人間が煩悩に苛まれつつそこから脱する道がある。 人間はロゴス的知性によって、ものごとを整然と分けることができる(できてしまう)だけでなく、同時にレンマ的知性によって、ロゴスが区別するもの

アーラヤ識とは? −中沢新一著『レンマ学』を精読する(5)

ひきつづき、中沢新一氏の『レンマ学』を読む。今回は88ページの「大乗起信論による補填」を紐解いてみよう。この節は「レンマ学」の構想の核心部分であると思われる。 今回のキーワードはアーラヤ識である。 アーラヤ識とは何だろうか? アーラヤ識アーラヤ識とは、人間の心の構造、運動のパターンが形成される場である。アーラヤ識という言葉を用いて、人間の心の不思議に探りを入れることができるのである。 人間の心、私たちが日常的に実感として経験している人間である自分自身の心とは、次のよう

「レンマ」とは −中沢新一著『レンマ学』を精読する(4)

中沢新一の『レンマ学』を引き続き読んでいる。今回は50ページから80ページあたりまでを読んでみたい。 『レンマ学』で中沢新一氏はロゴス的な知性とは異なる「レンマ的な知性」の姿を描き出す。 知性というとロゴス的な知性とイコールで考えられることが多いようである。ロゴスを超えたところ、ロゴスの「外」に知性などあるのだろうか?というわけだ。 ここで出てくるのが「粘菌」である。粘菌は脳を持たないし、ロゴス的な言語も喋らないが、しかし栄養源を見つけそこに向かって集合体となって移動し

中沢新一著『レンマ学』を精読する(2)ー「縁起の論理」より、私は他者であり、他者は私である

中沢新一氏の『レンマ学』を読む。 互いにはっきりと区別された物事を、並べて積み上げたものとして世界を理解するのが「ロゴス」的な知性である。通常「知性」というと、明確に定義され互いにはっきりと区別された言葉を理路整然と積み重ねていくことのように思われているが、ロゴスはまさにそうした知性のあり方である。 ◎私は私であって他の誰でもないし、他の誰かは私ではない。 ◎私と他者は最初から、完全に分かれており、別々である。 その別々のところから初めて、つながりであるとか絆であるとか

中沢新一著『レンマ学』を精読する(1)

中沢新一氏の『レンマ学』は「考える」きっかけが無数に織り込まれた一冊である。これを丁寧に読んでみたい。 まずは第一章「レンマ学の発端」である。 中沢氏はレンマ学で試みることを次のように明示する。 「レンマ学は、大乗仏教の縁起の論理を土台として、新しい「学」を構築しようとする試みである。かつて鈴木大拙や井筒俊彦によっても、このような「学」が構想されたことはあったが、いずれの試みも未完成に終わっている」p.14 この一節だけでも、幾人もの偉大な思考の先達とその言葉たちが、

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反復するリズムが増殖する"過剰な意味"を"日常の意味"へと媒介する −読書メモ:中沢新一 山極寿一著『未来のルーシー』

『レンマ学』の中沢新一氏と山極寿一氏の対談共著である『未来のルーシー』。300万年前の人類の祖先の化石に付けられた「ルーシー」という名前を媒介に、次々と話題が絡み合っていく。 地球の生命のひとつとしての人類について、生命の歴史の中で今日の姿に「なった」人類について、人類が他の生命から飛び抜けた力を持ててしまったことについて、縦横無尽にヒントがつながっていく一冊である。 その二回目の読書メモである。ちなみに第一回目はこちら↓である。 『未来のルーシー』77ページで、中沢氏

リズムを反復し同期させる −読書メモ:中沢新一 山極寿一著『未来のルーシー』を読む

昨年2019年に読んだ文献の中でもっともエキサイティングだったのは、中沢新一氏の『レンマ学』である。その中沢氏の新刊、山極寿一氏との対談共著が『未来のルーシー』である。 ルーシーというのは、322万年〜318万年前ごろの「猿人」につけられた名前である。ルーシーは1974年にエチオピアで化石として発見された。 ルーシーは二足歩行に適した骨格をもち、脳のサイズもそれ以前の猿人に比べて大きい。 ルーシーはいわゆるサルの類いが、我々人類ホモサピエンスへと進化する途上にあった30

中沢新一『レンマ学』×ユング『元型論』を読む −レンマ的知性がアーラヤ識に映し出す影としての「元型」

中沢新一氏の『レンマ学』を読んでいる。 レンマとは何か? レンマはロゴスと並ぶ、もう一つの「知性」の姿である。 ロゴスとはロゴスの知性というのは、言語やニューロンの信号処理や最近のAIがそうであるように、互いに区別される複数の項を順番に並べていくという動き方をする。区別されたものを並べる。数える。配置する。私たちの理路整然とした言葉や「数」の観念は、そういう知性によって動いている。 レンマとはそれに対してレンマ的な知性は、ロゴス的知性とは異質な姿をしている。 レンマ

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