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#図書館
8.わたしたちの一冊、彼女だけの一生:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
そんな不気味なまでに丁寧な文章で始まる手紙を受け取ったのは、今から6年前の冬だった。冬がいっそう深まるちょうどこの頃、1月の終わりだ。
実際のところその手紙は、かなり不気味だった。わたしが喫茶「ロンリイ」で時間働きをしていたのは手紙を受け取る10年以上も前のことで、たしかにお店でわたしに声をかけてくる男の人はたくさんいたけれど(手紙とか、寮の電話番号とか、いろんな贈り物とかをもらったっけ)、お店
5.彼女の噂、わたしの寒さ:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
南国なんて言われちゃう宮崎にだって、秋もあれば冬もある。12月になれば室内でもカーディガンやセーターを着るし、最近ずっとテーケツアツ気味なわたしは何を着ていても寒い。
寒い、寒い、寒い。きっともう、わたしの人生はこれからずっと寒いんだ。
「ねぇ、寒くないと?」
この合宿で同室の堀ちゃんに訊いてみるけれど、ウォークマンで聴いている音楽に夢中なのか反応しない。漏れ出る音から『CAN YOU CE
4.まだ十六、もう十六:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
A1出口を出ると、神保町のビル風が冷たく堪えた。もうカーディガンだけじゃ寒さに耐えられない。冬なのだ。
さっきまでは地下鉄の中にいたし頭に血がのぼっていたしでカッカと暑かったけれど、いつもの「わたしの場所」へ行くまでに随分身体が冷えてしまいそう。もう、全てがあのおじさんのせいに思えてくる。地下鉄で目の前に立って人のことをじっと見つめてくる変態なんて、はじめて会った。しかもきっと、あの変態はわたし
3.硬い吊り革、柔らかい砂浜:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
高校卒業から24年。ジェームズ・ディーンの人生一回分の時間を、黒木充は東京で暮らしてきた。
ラッシュアワーに人の心は存在しない。横でも前でも後ろでも、どこを見るでもなくただ眼を閉じ、目的地まで耐え抜く無心の境地が必要とされる。そうして無心で満員電車に揺られていると、彼は生まれてから18まで育った宮崎のことを無意識のままに思い出す。愛すべき故郷というのでもない、帰りたい場所というのでもない。ひたす
2.薄いカーディガン、分厚い双眼鏡:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
あの日買うことができなかった薄手のカーディガンがそろそろ必要になってきた。
夏休みが終わり2週間が経とうとしている。夕暮れは空を染めるのを焦り、わたし達は急かされるように日々を畳んでいく。みんなが狭い出口に向かって押しかけているみたいな感覚をおぼえながらも「どこか」「何か」に向かわなければならないと言われるがままに日々を処理していく。
それでも、わたしだけの夏はまだ終わっていない。いやむしろ、
1.古い手紙、新しい輪ゴム:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
「捨てるようなもんはまとめといて、後から見てもらった方がいい?」
「いらん。うち捨てとけ」
「そう、わかった」
久々に開けた実家の箪笥から、長年そこに蓄積されたのであろう空気の塊がのろりと出てきた。溜めこまれた衣類の入れ替えもなされていないようで、もう使わないものたちが最後に行き着く墓場みたいな扱いになってしまっている。総ケヤキの重厚な箪笥は独り身の父が用いるにはあまりに重くて大きくて、中身を整
ショートストーリー集「好きなページはありますか。」はじめます!
宮崎本大賞実行委員の小宮山剛(椎葉村図書館「ぶん文Bun」所属)です。
この度「第4回宮崎本大賞」のnote運用担当を拝命しましたので、この記事にてご挨拶申し上げます。そしてこのnoteで始めるショートストーリー集「好きなページはありますか。」の文章創作をこれから頑張っていきますので「スキ」やシェアでの応援をよろしくお願いいたします!
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私が宮崎本大賞の実行委員に加入したのは「第3