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文学。多様性とあいすること。

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短編から中編小説を公開。
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記事一覧

アイオライトの果て(短編小説)

アイオライトの果て(短編小説)

 ぼくはねむっているとき、いつでも宇宙にいけます。いちばんはしっこの銀河のはてにもいけます。鉱物みたいにきらきらしているところで、ぼくはすきです。でも、ママはあぶないからいっちゃだめといいます。鉱物は、宝石になるまえのきれいな石で、石じゃないのもあります。パパとママはいっしょにけんきゅうをしています。パパは全もうなので、ぼくがみえません。でも、ぜったいにぼくがわかり、ぼくはうれしいです。このまえ、

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まっしろなブルー(短編小説)

まっしろなブルー(短編小説)

 目尻のしわ。加齢による劣化は多少なりとも覚悟していたはずだが、いざみつけてしまうと動揺するものだなと、他人事のように考える。左右非対称なのが忌々しい。右と左でまるで顔が違うのだ。しわが目立っているのは、左側。人間の美というものは、いかにシンメトリーに近づけるかである。お隣の奥さんは完璧なほどそれに近いというのに、私は。
 たどっていくと、ほくろがある。泣きぼくろともいえない中途半端な位置。ここで

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透明なあした(短編映画原作)

透明なあした(短編映画原作)

 こちらは、宮田ダイキ監督のオムニバス短編映画『透明なあした』の原作小説です。どうぞお楽しみください!

【あだけじゃん】

 あきとは友だちを部屋に招いたことがない。こだわりのある自分の部屋を物色されるのがいやだったからだ。しかしなぜか不本意ながら、本日初、招き入れることとなった。クラスメイトのあつしである。眼鏡でおとなしそうなやつだから、きっと部屋のものに触れたり馬鹿にしたりはしないだろうとい

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勘違いの仕組み(掌小説)

勘違いの仕組み(掌小説)

 光がみえる。よく目を凝らすと、細い糸が垂れ下がっている。一面は闇。ぼんやりと、その光は浮きあがっていて、ぼくのこころを照らしている。細い糸の先には、みえはしないけれど脊髄。中枢から中枢をたどり、ぼくは呼吸をする。深く、長く。するとさっきまでビリビリしていたからだが楽になり、ようやく、歩きだせる。深く、長く。呼吸をする。光から指令を受けて、ぼくはぼくの生命を感じる。それがぼくの人間のイメージ。から

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雪のかげは青い

雪のかげは青い

「すっげーまっさおだなぁ」
 嬉しそうに叫ぶ転入生に、なにいってんだこいつと本気で思った。誰がどうみても、どこからどうみても、一面まっしろだ。俺にとっては、ただまっしろな、代わり映えない雪景色。晴れの日の帰り道。家の方向が同じというだけで、半ば強引に俺は転入生のお世話係に任命された。昨日の天気とは一変、うそみたいに晴れ渡った空が広がっている。まっさおなのは空のことかと、例えば夏なら納得ができるのだ

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きっと太陽でいたかった(短編小説)

きっと太陽でいたかった(短編小説)

「すごく綺麗なんだ」
 なにが?
 ひょんなことから仲よくなったクラスメイトの、脈絡のない話におれは問う。仲よく、なったのかは正直わからないが、客観的にはそうみえるらしい。高梨とおれは、窓辺でひとり本を読む陰キャと教室の中心でバカ騒ぎする陽キャというちぐはぐ具合なのだが、確実に距離は近づいた。ここ数日、一番連んでいるのはこいつなのだ。開放された屋上はこいつの名のとおり快晴。退屈なほど、のどかだ。

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新婚アレルギー(太宰治の皮膚と心)

新婚アレルギー(太宰治の皮膚と心)

 なんだこれは。小豆みたいな吹出物が、右乳首のちょうど下にある。よく見ると、その吹出物のまわりにも、プツプツ小さい赤い吹出物が霧を噴きかけられたように一面に散点していて、「キモッ」と思わず声が出た。そのときは痛くも痒くもなかった。なんともなかった。せっかくの休日。大好きな銭湯で羽をのばしていたのに、なんという仕打ち。憎らしくなってお風呂セットの中からボディタオルを引っ張り出し、ゴシゴシと掻いた。刺

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(どっちでもいいよ)

(どっちでもいいよ)

 脳みそ、やっべ。ぐわんぐわんする。
 どうした? 俺の煙草吸ったせい?
 ううん。ちがう。
 じゃあなに。激しくしすぎた?
 ……そうかも。
 まじ?
 なんか、煙草吸ったときみたいに痺れてるんだけど、そのさらにうえ。世界がまわってる感じ。うああ、頭。つーか、脳みそいってー。
 俺のからだは気持ちよくなかったか。
 気持ちよかったから、今、その反動。なんだと思う。
 え?
 きもちよすぎると脳み

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となりの鼓動を抱きしめる

となりの鼓動を抱きしめる

 ぼくたちは歩いていました。細く、長い一本道を歩いていました。周りの景色はみえません。遠くもみえません。どこに続いているのかわからないのです。懐中電灯が手もとにありましたが、壊れてしまっているようでつけることができません。どうしようかとぼくたちは迷いましたが、この道を進むことに決めました。なにもみえず、そもそも道なのかもわからない、得体の知れないこの先を、ぼくたちは進むことに決めました。五感はとっ

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愛についての記録、世界(太宰治の美男子と煙草)

愛についての記録、世界(太宰治の美男子と煙草)

 うさんくさい男だと思った。カメラを向けてくる無遠慮なマスコミどもにまぎれて、その男はうわっつらの笑みをこちらに投げかけてくるのだ。格好からして、社会のごみを撮りたがるやつらの一員ではないということはうかがえた。そいつが輪の中心にいるのは確かだったけれど。芸能人かといわれると華がないし、キャスターにしては品がない。
「きみ、煙草はよくないよ」
 煙を燻らせる、似たような連中がいるなか、男はおれだけ

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ぐるぐると

常世田 美穂

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自主製作えほん
猫とおなかのなかにいるぐるぐるのおはなし。
ものがたりはいつだって、自分との対話。