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#エッセイ

短編小説『時代遅れ』

短編小説『時代遅れ』

結婚式の司会の仕事をしている方に聞いたが、近頃は新郎新婦の馴れ初めが「マッチングアプリ」ということが実に多いらしい。41歳の私は「マッチングアプリ」といえば、何やらいかがわしいものと思ってしまうが、10歳も下になると、もっとカジュアルに捉えているものらしい。そのうち、人と人がお付き合いをするためには、いきなり直接話しをすることのほうが「はしたない」と言われるような時代が来るのかもしれない。


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別れと花

「別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。」

川端康成の小説の有名な一節。
私が初めてこの言葉を知ったのは高校生のとき。なんておしゃれな考え方なんだろう、なんて呑気な感想を抱いた事を今でも忘れない。当時はきちんとした恋愛なんてしたこともなく、この一文は私にとって、紙の上の空想の世界の言葉でしかなかったから。

そんな私は今、大好きな人に振られる為に出かける準備をしている

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恋してないけど愛してる

恋してないけど愛してる

付き合っている男性のことは、便宜上「恋人」と呼んでいる。けれど、彼への気持ちは、恋ではないと思う。

最初は、紛れもなく恋だった。付き合う前と、付き合い始めてすぐの頃。メールが来るだけで飛び上がるくらい嬉しくて、にやにやしながら何時間もかけて返事を書いた。待ち合わせ場所には必ず私の方が早く着き、どきどきして彼を待っていた。服を自分で買い始めたのもこの頃だ。ジーンズばかり履いていた私が、大慌てでスカ

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揺らしたい

揺らしたい

はじめてのデートは泊まりだった。

友達に、「絶対やめた方がいい。おかしいよ」と言われた。

でも、私は行くことにした。

それまで友達関係だった彼には、一度告白して振られていた。
それでも、諦めきれずにいた。

振られた後も、どうしても彼の言動を目で追ってしまう私の姿を、友達は「痛々しくて見てられない」と言っていた。

そんな日々を送っているなか突然、彼の方から「付き合ってくれませんか?」と言わ

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ショートショート『ヨシダは死にました』

ショートショート『ヨシダは死にました』

「ヨシダはいねぇのか、ヨシダを出せコラ!」
「ヨシダは、死にました。」
「…………!!!!」

人が、言葉を失った瞬間にはじめて出会った。



どこにでも、物申したいひとはいる。

不満を解消したいわけじゃない。怒ってるわけじゃない。何かを得たいわけじゃない。

ずっと、言い続けたい。そんなひと。

コールセンターに長く勤めていると、嫌でもひとの嫌な面を見る。たとえどんなに素晴らしい商品でも、

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おとなのわるだくみ

おとなのわるだくみ

「甘いものを頼もうと思うんだけど、」と言われて、バッと視線を上げた。

甘いものを頼む!
そんなことが許されていいのだろうか!



友だちの部屋を訪れたとき、「今日は甘いものないんだよね〜」と言われた。
べつに構わない、と思った。
そりゃあ、あなたと食べる甘いものは魅力的だけど、そのために来ているわけではない。
玄関が開いて、「おつかれ」とか「ただいま」とか言った瞬間に、わたしはもう満足してい

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ねぇ、きみの嘘なんてだいたいお見通しなんだよ

ねぇ、きみの嘘なんてだいたいお見通しなんだよ

無駄なセックスをした朝は、コーラが飲みたくなる。
自嘲気味に話すと、「え、なんで」と笑われた。
本当につまらない男だな。そう思った。

今、私はいわゆる二股をしている。二人の男、どちらと恋仲になるか天秤にかけているのだ。

一人は、メーカーで働く優しい男。
もう一人は、テレビ業界で働く面白い男。

前者を「あんしんくん」、後者を「おもしろくん」とニックネームをつけるようになっていた。

神様はきっ

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