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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その90


90.   存在の耐えられるだけの軽さ


今思い出した。
存在が軽すぎてすっかり忘れていた。
私と優さんで達成感を共有していたその時の事、
竹内が勢いよくお店に入ってきた。


おや?
いつになく、めかしこんでるではないか。
ちょっと小綺麗にしている竹内。
私は目を細めてから聞いた。


「竹内。どうしてん、その格好?デートか?」

「いや、お店にお金払いに来たんだよ。」

「貰いに、じゃなくて、払いにか?なんのお金や?」

「え、いや、学費が足りなくなるから不足分払えってさ。真田くんもでしょ?真田くんはもう払ったの?」

「おー。なんやお前もか。俺はたった今払った!今しがた完納よ。感無量の完納よ。気持ちいいわー。そうか、竹内も支払いに来たんかー、お前も【12万6400円】か・・・・って!!竹内!!おまえ!!なんや!お前も学校辞めるんか?んでここ辞めるんか?」

「うん辞めるんだよ。知らなかったの?飲み過ぎで覚えてないだけじゃない。?」

「いやいや、はよ言えよ。」

「真田くんも俺に言ってないじゃん。」


本当だった。
もう知ってるだろうからと思って言わなかったのだ。
失礼だったのかもしれない。
こう逆に知らされると寂しさを感じた。


私は【辞めてどうするんだ】という質問を
無言の態度で全身から出した。
察知した竹内。


「辞めてとりあえず実家帰るよ。お金足りなかったからさ、さっき実家に行って借りて来たんだ。」

「実家近くて金持ちやからええな。」

「うん。」

「そうか。辞めるんか。」

「真田くんが辞めるって聞いてさ。なんか『俺も!』って思っちゃったんだよねー。無理に歯を食いしばって頑張るほど建築士になりたかったわけでもないしさ。」

「軽いな。まるで・・・俺みたいなふわふわ感・・・」

「自分で言ってるよ、この人。ごめんごめん。茨城帰ったら俺、ギター頑張るよ。」

「そっちか!そうかギターは持って行くんか!残念や。それが一番残念や!」

「もちろん!もうすっかり相棒だよ。ギター教えてくれてありがとね真田くん。」


ニコッと笑う竹内の顔を見ていよいよ、
みんなやこの場所とお別れの日が近いことを
実感した。


「今日で俺、最後だけどさ。明日から寝坊しないでよ。もう誰も起こさないよ。」

「えっ!最後!しかも今日で最後だと!!」

「うん。もうすっかり部屋片付けたよ。真田くん最近昼間いなかったでしょ?その隙に荷物運び出したよ。だんれも手伝ってくんなかったよ。」


そうだったのか。最後の最後まで軽いなぁ竹内は。


「じゃあ友達を表に待たせてるから、行くね。」

「写真とろっか?」

「いいよ!」

「じゃあここに立ってピースして・・」

「いや、だからいいって!」

「どっちの『いい』やねん。もうええやん!撮るで!はいこれや!」

カバンに忍ばせていた最近買った写ルンですを取り出した。
強引にピースさせた。
ちょうど優子さんが奥に見えたので声を掛けた。


「あっ!優子さん!すいません!ちょっといいですか?」

「えっ!なに?真田くん?」

「竹内が行っちゃうんです!」

「えっ?なに?竹内もう行っちゃうの?なに私に黙って行こうとしてんのよ!竹内!もう!」

「ごめんごめん。」

「優子さんも一緒に写真を・・・お!ちょうど良いところに篠原先輩が!」

「なんだお前ら盛り上がってんな。」

「すいませんけど、シャッター押してもらえませんか?」

「ん?いいぞ。何だこのカメラちっちぇーな。ボタンが小さすぎて押しにくいぞ、これ。」

みんなでカメラを見た。
明らかに先輩の指のほうがデカいだけだった。


「じゃあ、撮りましょう!はい!チーズ!」


竹内が逃げる前にと急いで声をかけた私。


「おい、それは俺の言う掛け声だろ?おし、撮るぞ!おい竹内!もうちょっと優子さんの方に寄れ。」

「えー。」

「早く!もっとこっち来なよ!」


優子さんが竹内を引っ張り寄せた。


「うわっ!」


竹内が勢いよくこちらに来たので
優子さんがよろけて私までよろけた。


「はい!チーズ!」


三人とも斜めのままピースサインした。
パシャリ。


そういえば今まで写真なんて撮ってなかった。
優子さんと一緒に写ってる唯一の写真が出来た。
後で竹内の部分だけ切り取るとしようか。
焼き回してこの写真を竹内にあげたらきっと、
竹内も同じ事をするんだろうな。
私の部分を切り取って。


「篠ピー先輩も入って下さい!次僕がシャッターを・・・」

「おい、【ピー】になってんぞ。まあいいけど俺は写真はいいよ。」

「あ、すんません。」


いつの間にか居なくなっている竹内を
私と優子さんで追いかけた。


友達の車に乗り込んで去っていく竹内が
消えていったのを優子さんと二人で見届けていた。


車はもう見えないのに
まだその方向を見つめたままの私達。
優子さんが口を開いた。


「あー。行っちゃったねー。もうすぐ真田くんも居なくなるんだねー。今年は濃いメンバーが多かったなぁ。なんか寂しくなるなぁ。真田くんが居なくなるのが一番現実感あるなぁ。」


その意味がどういう意味か分からないまま、
私はずっと黙って道路の先を見つめ続けていた。
信号機が何回も赤と青を点滅させていた。


私は自分が去ってばかりで気付かなかったのだ。
去られるのがこんなにも寂しいなんて知らなかった。
竹内を乗せた車が忘れ物を取りに
戻ってくることは、やはり無かった。

今晩は良い詩がたっぷり書けそうだ。

〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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