素粒社

2020年に創業した出版社です|連載、ためし読み、書評等|【新刊】古賀及子『おくれ毛で…

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2020年に創業した出版社です|連載、ためし読み、書評等|【新刊】古賀及子『おくれ毛で風を切れ』|川井俊夫『金は払う、冒険は愉快だ』、古賀及子『ちょっと踊ったりすぐにかけだす 』、高遠弘美編『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』… https://soryusha.co.jp/

マガジン

  • 【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」

    いま日記シーンで注目の書き手である古賀及子さんによる、これからの読者のための『富士日記』への入り口。戦後日記文学の白眉とも称される武田百合子『富士日記』のきらめく一節を味読しながら、そこから枝分かれするように生まれてくる著者自身の日記的時間をつづります。

  • 【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』

    関西某所のとある古道具店。その店主は、かつてブログが登場する以前のインターネットで多くの読者を魅了した伝説のテキストサイトの著者だった――中卒、アングラ水商売、アルコール依存症、ホームレスなど破格の経歴をもつ道具屋店主による、金と汗と汚物と愛にまみれた“冒険”の数々を唯一無二の文体で綴った痛快私小説。

  • 【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」

    素粒社刊『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』(高遠弘美編)について、俳人の小津夜景さん、翻訳家の斎藤真理子さん、書評家の渡辺祐真さんに書評をご執筆いただきました。

ストア

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    『ロバの耳 冬野虹画集』(特典つき)

    【ポストカード特典つき】冬野虹による素描を掲載したポストカードがつきます(限定300)芸術|美術|画集【内容紹介】絵画、俳句、自由詩、短歌、歌詞、散文などさまざまな形式ですぐれた表現を達成し、中西夏之(画家)、吉岡実(詩人)、永田耕衣(俳人)、塚本邦雄(歌人)ら第一級の芸術家たちが才能を認めた作家、冬野虹(1943-2002)による、美術作品をあつめた画集がついに刊行。1980年代から2001年にかけて制作された素描326点に、若き日の油彩6点、カリグラフィー1点を収める。冬野虹の文学作品を収集した『冬野虹作品集成』(書誌山田、2015年)と対になる書籍であり、両者によって芸術家・冬野虹の全貌が展観される。俳人であり夫であった四ッ谷龍による冬野虹素描論「素描について」、人間・冬野虹を語った「冬野虹 人と作品」を併録。【著者紹介】冬野 虹(ふゆの にじ)1943年大阪府泉北郡福泉町(現 堺市)生まれ。1965年頃から絵のレッスンを受け始める。春陽会展に油彩作品を応募し、1967年から5年連続入選。1977年から「冬野虹」のペンネームで俳句の創作を始め、1979年、「ニューヨーク俳句会」フェミナ賞、1981年、鷹俳句会「鷹新人賞」を受賞。1987年、四ッ谷龍とともに文芸誌「むしめがね」を創刊、俳句や文章のほか毎号挿画を発表。1992年から短歌、1995年から自由詩の創作に取り組む。1997年、日・仏・英3か国語のウェブサイト「インターネットむしめがね」を開設、以後海外の書籍や雑誌に挿画を提供。2002年、自宅にて急逝、享年59。没後、2012年に冬野と四ッ谷の作品をフランス語で紹介し批評した『Les herbes m’appellent(草によばれぬ)』(仏・リロリ社)刊行、2015年に『冬野虹作品集成』(書肆山田)刊行、2018年にミルクホール鎌倉にて「冬野虹素描展」開催。【仕様】B5判264ページ上製カバー装ISBN978-4-910413-14-3
    ¥3,300
    素粒社
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    『編棒を火の色に替えてから 冬野虹詩文集』四ッ谷龍【編】(特典つき)

    【ポストカード特典つき】冬野虹による素描を掲載したポストカードがつきます(限定300)文芸|詩歌|随筆【内容紹介】俳句・詩・短歌・童話・歌詞・絵画など多様な形式でのきわめてすぐれた表現を達成し、吉岡実(詩人)、中西夏之(美術家)、永田耕衣(俳人)ら第一級の芸術家たちが才能をみとめた作家、冬野虹(1943-2002)による珠玉の作品群および散文をあつめた詩文集がついに刊行。2015年刊行の『冬野虹作品集成』(四ッ谷龍編、書肆山田)より主要な作品を抄出し、同書未収録であった詩歌や散文および著者自身による挿画を掲載。巻末には俳人であり夫である四ッ谷龍による冬野虹論「あけぼののために」と回想録「冬野虹との二十年」を併録。【推薦】冬野虹! その名はふしぎな想像界への扉をひらく合言葉だ。見よ、彼女の手が触れると、あらゆる事物は本来のポエジーを取り戻し、未知の出会いに向けて軽やかに浮遊し始める。――野崎歓(フランス文学者・翻訳家)【著者紹介】冬野 虹(ふゆの にじ)1943年大阪府泉北郡福泉町(現 堺市)生まれ。1977年より俳句の創作を始め、「冬野虹」の筆名を使用する。1987年、俳人で夫の四ッ谷龍とともに二人文芸誌「むしめがね」を創刊。1988年、句集『雪予報』(沖積舎)刊行。1992年より短歌、1995年からは自由詩の創作を始める。1997年、日・仏・英3か国語のウェブサイト「インターネットむしめがね」を開設。以降、海外で刊行された俳句のアンソロジーなどに編集、翻訳、作品・表紙画提供で関わる。2002年2月、自宅にて急逝、享年59。没後、2015年に『冬野虹作品集成』(四ッ谷龍編、書肆山田)が刊行された。【編者紹介】四ッ谷 龍(よつや りゅう)1958年北海道札幌市生まれ。1972年より俳句の創作を始め、1974~86年俳句雑誌「鷹」に参加。1983年第2回現代俳句評論賞受賞。1987年文芸誌「むしめがね」を創刊。2010~19年田中裕明賞選考委員。著書に、句集『慈愛』(蜘蛛出版社)、『セレクション俳人・四ッ谷龍集』(邑書林)、『大いなる項目』(ふらんす堂)、『夢想の大地におがたまの花が降る』(書肆山田)、エッセイ集『田中裕明の思い出』(ふらんす堂)ほか。【仕様】四六判376ページ並製カバー装ISBN978-4-910413-15-0装丁:川名潤
    ¥2,200
    素粒社

記事一覧

【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」③

いま日記シーンで注目の書き手である古賀及子さんによる、これからの読者のための『富士日記』への入り口。戦後日記文学の白眉とも称される武田百合子『富士日記』のきらめ…

素粒社
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【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」②

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【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」①

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」③/渡辺祐真

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ただあなただから愛したい、そんな日記 ~古賀及子×花田菜々子 『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』 刊行記念トークイベント@蟹…

この日記は短歌や詩に近いかもしれない 花田 古賀さんの『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』を読むと、やっぱり「無さの美しさ」がいいですよね。何も起こらない。  遠…

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」②/斎藤真理子

絢爛たる細部、あるいはチョコチップクッキー  読みはじめて2行めで、門司港で積荷をする起重機の様子が「ジラフが大きな稲荷寿司を啣え込むよう」と描写されていて、い…

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』③

 宅配便屋の倉庫の仕事は日銭を稼ぐのに一番簡単な方法だ。俺のような得体の知れないおっさんでも、電話をして、倉庫へ行って、なにか書類を二枚くらい書けば、その日のう…

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」①/小津夜景

理知と無心  すばらしい紀行文だ。著者の市河晴子は1896年、法学博士穂積陳重と渋沢栄一の長女で歌人の渋沢歌子との間に東京で生まれた。19歳で英語学者市河三喜と結婚。…

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』②

 店の扉を開けて、誰か入ってくる気配がした。すみませんね、ご主人……いるかな? しゃがれた爺さんの声だ。 「ハイハイ、ここにいるよ」  そう言って入り口からでも見…

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』①

 朝の7時30分に携帯電話が鳴る。番号は登録してあるやつだったから、画面には数字ではなく俺が自分で入力した名前が出る。相手は「茶道具がたくさん、早口でうるさいジジ…

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/③醬油

醬油  「刺身なんて醬油の味しかしない」とか「刺身は醬油のためにある」という言い方がある。  そこには、バーバリズムというかマウンティングというか、既存の価値の引…

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/②定義

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/①鳥たち

鳥たち  誰もいない昼間の町で、カーブミラーの上に止まっているカラスの様子が変だと思ったのと、その下の地面に、もう一羽のカラスの死体があると気づいたのが、ほぼ同…

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上田信治著『成分表』取扱店(2022/2/15更新)

上田信治著『成分表』取扱店をまとめました。 弊社が出荷確認をしている店舗のみですので、在庫状況等につきましては各書店にお問い合わせください。 北海道 紀伊國屋書…

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【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒍旅行の約束

2020年7月に創業したばかりの出版社、素粒社です。素粒社のはじめての本となる、小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』が刊行されました。フランス、ニース在…

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【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒌はじめに傷があった

2020年7月に創業したばかりの出版社、素粒社です。素粒社のはじめての本となる、小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』が刊行されました。フランス、ニース在…

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【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」③

【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」③

いま日記シーンで注目の書き手である古賀及子さんによる、これからの読者のための『富士日記』への入り口。戦後日記文学の白眉とも称される武田百合子『富士日記』のきらめく一節を味読しながら、そこから枝分かれするように生まれてくる著者自身の日記的時間をつづります。

▼武田百合子著『富士日記』
夫で作家の武田泰淳と過ごした富士山麓、山梨県鳴沢村の山荘での13年間のくらしを記録した日記。昭和39年(1964年

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【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」②

【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」②

いま日記シーンで注目の書き手である古賀及子さんによる、これからの読者のための『富士日記』への入り口。戦後日記文学の白眉とも称される武田百合子『富士日記』のきらめく一節を味読しながら、そこから枝分かれするように生まれてくる著者自身の日記的時間をつづります。

▼武田百合子著『富士日記』
夫で作家の武田泰淳と過ごした富士山麓、山梨県鳴沢村の山荘での13年間のくらしを記録した日記。昭和39年(1964年

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【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」①

【連載】古賀及子「おかわりは急に嫌 私と『富士日記』」①

いま日記シーンで注目の書き手である古賀及子さんによる、これからの読者のための『富士日記』への入り口。戦後日記文学の白眉とも称される武田百合子『富士日記』のきらめく一節を味読しながら、そこから枝分かれするように生まれてくる著者自身の日記的時間をつづります。

▼武田百合子著『富士日記』
夫で作家の武田泰淳と過ごした富士山麓、山梨県鳴沢村の山荘での13年間のくらしを記録した日記。昭和39年(1964年

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」③/渡辺祐真

【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」③/渡辺祐真

文人学者・高遠弘美に導かれ、名文に出会う

はじめに

 戦後を代表する文芸評論家・中村眞一郎による高遠弘美氏に対する賛辞である。この度そんな美の探究者の手によって発掘された最高の秘宝が『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』である。
 本稿では、本書について、その編者である高遠氏から考えることを主眼としている。訳者としても編者としても黒子に徹される高遠氏には、いささか申し訳ないと思いながら、さりとて私に

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ただあなただから愛したい、そんな日記 ~古賀及子×花田菜々子 『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』 刊行記念トークイベント@蟹ブックス ~【ダイジェスト】

ただあなただから愛したい、そんな日記 ~古賀及子×花田菜々子 『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』 刊行記念トークイベント@蟹ブックス ~【ダイジェスト】

この日記は短歌や詩に近いかもしれない

花田 古賀さんの『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』を読むと、やっぱり「無さの美しさ」がいいですよね。何も起こらない。
 遠くから見ると、ほのぼの平和で楽しいおうちって見えるんですけど、美学というか、美しさがあって。それがなんなのかっていうと、やっぱり観察眼によるもので。輝く一文に魅力がある日記です。

古賀 ありがとうございます。うれしいな。とくに意識せず、

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」②/斎藤真理子

【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」②/斎藤真理子

絢爛たる細部、あるいはチョコチップクッキー

 読みはじめて2行めで、門司港で積荷をする起重機の様子が「ジラフが大きな稲荷寿司を啣え込むよう」と描写されていて、いきなり痺れる。8か月にもわたる長旅の、まだ、たった2行めでしかないのに。

 でも、晴子さんの旅行記を読むには、こんなところで驚いていては身がもたないのだった。この描写力と表現力で、歴史、風土、文化、人情、国際情勢までが縦横無尽に書きつく

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』③

【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』③

 宅配便屋の倉庫の仕事は日銭を稼ぐのに一番簡単な方法だ。俺のような得体の知れないおっさんでも、電話をして、倉庫へ行って、なにか書類を二枚くらい書けば、その日のうちに働ける。

 ベルトコンベアに載って、荷物が次々と流れてくる。荷札を確認して、自分の担当エリアのやつを降ろし、そいつを足下に積み上げながら、隙を見てトラックの荷台に積んでいく。作業自体は単純だが、赤いビニールテープを巻いた棒切れを持って

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【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」①/小津夜景

【書評シリーズ】「『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』を旅する」①/小津夜景

理知と無心
 すばらしい紀行文だ。著者の市河晴子は1896年、法学博士穂積陳重と渋沢栄一の長女で歌人の渋沢歌子との間に東京で生まれた。19歳で英語学者市河三喜と結婚。本書は1931年3月、日本人初の東京帝国大学英文科教授として活躍していた夫・三喜が欧米諸国の実情視察の旅に出た折、それに同行して各国のようすを夫と共著で描いた『欧米の隅々』と、1937年、日米親善の民間外交を託され単身渡米した際のでき

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』②

【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』②

 店の扉を開けて、誰か入ってくる気配がした。すみませんね、ご主人……いるかな? しゃがれた爺さんの声だ。
「ハイハイ、ここにいるよ」
 そう言って入り口からでも見えるように店の奥で座ったまま手を挙げる。
「ああよかった。入っていいかな。そっちかい? お願いがあるんだ。頼みごとってやつさ。聞いちゃくれないか?」
 体格のいいジジイだ。少し足を引きずっているが、背筋もしゃんとしてるし、年寄りにしては身

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【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』①

【ためし読み】川井俊夫著『金は払う、冒険は愉快だ』①

 朝の7時30分に携帯電話が鳴る。番号は登録してあるやつだったから、画面には数字ではなく俺が自分で入力した名前が出る。相手は「茶道具がたくさん、早口でうるさいジジイ」だ。登録してあるということは、当然過去にこのジジイから連絡があり、依頼を受けて仕事をしたことがあるということだ。記憶を辿る必要はない。すぐに思い出した。最初の依頼は6月だ。クソ暑い中、とんでもない量の茶道具を買取るハメになった。

 

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/③醬油

【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/③醬油

醬油

 「刺身なんて醬油の味しかしない」とか「刺身は醬油のためにある」という言い方がある。
 そこには、バーバリズムというかマウンティングというか、既存の価値の引き下げによる優位性の誇示があるのだけれど、たしかに、その言葉を念頭に置いた状態で刺身を食べると、美味しさのどこまでが醬油の味か分からなくなる。
 醬油というのはそれほど暴力的に美味いもので、あんなに血の味に似た調味料はない。日本人はみな

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/②定義

【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/②定義

定義

 『幸福論』で知られるアランのプロポ(断章)は、便箋二枚に書かれた、日本語で千五百字に満たない短いコラムだ。
 彼はそれを一日一つ、生涯で五千篇以上を書いた。
 まったくの一発書きで、推敲どころか書きながらの訂正すらしなかったそうなので、試みに『幸福論』冒頭の一篇を、自分なりに推敲してみたら、九百字前後になった。それは、ほぼこの「成分表」の分量だ。知らずに、だいぶ影響を受けていたかもしれな

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【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/①鳥たち

【ためし読み】上田信治[著]『成分表』/①鳥たち

鳥たち

 誰もいない昼間の町で、カーブミラーの上に止まっているカラスの様子が変だと思ったのと、その下の地面に、もう一羽のカラスの死体があると気づいたのが、ほぼ同時だった。
 下のカラスは、車にぶつかりでもしたか、どう見ても、分かりやすく事切れている。
 上のカラスは、ただならぬ様子というのか、あわただしく脚を踏み替えながら、聞いたことのないような声で「あああああ、あああああ」と鳴いていた。
 カ

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上田信治著『成分表』取扱店(2022/2/15更新)

上田信治著『成分表』取扱店(2022/2/15更新)

上田信治著『成分表』取扱店をまとめました。
弊社が出荷確認をしている店舗のみですので、在庫状況等につきましては各書店にお問い合わせください。

北海道

紀伊國屋書店 札幌本店
MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店

宮城

曲線
ボタン
丸善 仙台アエル店

山形

くまざわ書店 鶴岡店
くまざわ書店 山形店

福島

ジュンク堂書店 郡山店

栃木

喜久屋書店 宇都宮店

群馬

戸田

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【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒍旅行の約束

【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒍旅行の約束

2020年7月に創業したばかりの出版社、素粒社です。素粒社のはじめての本となる、小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』が刊行されました。フランス、ニース在住の俳人・小津夜景さんがつづる漢詩のある日々の暮らしーー杜甫や李賀、白居易といった古典はもちろんのこと、新井白石のそばの詩や夏目漱石の菜の花の詩、幸徳秋水の獄中詩といった日本の漢詩人たちの作品も多めに入っていて、中国近代の詩人である王国

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【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒌はじめに傷があった

【ためし読み】小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』/⒌はじめに傷があった

2020年7月に創業したばかりの出版社、素粒社です。素粒社のはじめての本となる、小津夜景著『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』が刊行されました。フランス、ニース在住の俳人・小津夜景さんがつづる漢詩のある日々の暮らしーー杜甫や李賀、白居易といった古典はもちろんのこと、新井白石のそばの詩や夏目漱石の菜の花の詩、幸徳秋水の獄中詩といった日本の漢詩人たちの作品も多めに入っていて、中国近代の詩人である王国

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