マガジンのカバー画像

ロボットと哲学

6
「SFにおけるロボット」という観点から「人間という存在」について哲学的な考察を試みました。小説を中心としたロボットに関するSF作品の紹介と哲学思想の概説が中心です。SF好きも哲学… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

ロボットと哲学⑦決定論と自由意志・終わりに(ロボットと哲学と人間)

ロボットと哲学⑦決定論と自由意志・終わりに(ロボットと哲学と人間)

前回は構造主義の立場から、換言すれば私たちの外側から人間やロボットについて考えた。今回は自由意志に対して懐疑的な立場を取る理論を通してロボットと人間について考察する。

ニュートン力学 初期条件が与えられれば、それ以降の運動は方程式によって一意的に決定付けることができると考えられる。現在の状態が分かっていれば将来を完全に予測することができるという事であり、このような考えを決定論と呼ぶ。
決定論を最

もっとみる
ロボットと哲学⑥構造主義と労働(Robota)

ロボットと哲学⑥構造主義と労働(Robota)

前回

 19世紀から、フィールドワークによって様々な民族の社会や文明を研究する文化人類学が発達した。文化人類学者であるレヴィ=ストロース(1908-2009)は、ソシュールの考え方などからの影響を受け、「主体の思考や行動は構造(社会)によって規定される」と考えた。このような考えは構造主義と呼ばれる。第2回で触れたサルトルの「実存は本質に先立つ」という実存主義的な考えとは対照的である。

アルチュ

もっとみる
ロボットと哲学④人間の行動規範

ロボットと哲学④人間の行動規範

「三原則」と人間 前回はアイザック・アシモフの小説に登場する「ロボット工学の三原則」を取り上げたが、ここで人間の思考や意思を制約するものは存在するのかという問題に突き当たった。ここで再び「ロボット工学の三原則」を参照しよう。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなけ

もっとみる
ロボットと哲学③ロボット工学の三原則

ロボットと哲学③ロボット工学の三原則

前回

 皆さんはアイザック・アシモフという人物をご存知だろうか。彼はアメリカの科学者兼作家であり、SF界のビッグスリーの一角をなす人物である。その中でも今回特に着目すべきは、彼の小説内に出て来る「ロボット工学の三原則」である。なお、ロボット工学(robotics)と言う語はアシモフの小説が初出である。

ロボット工学の三原則ロボット工学の三原則
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。ま

もっとみる
ロボットと哲学②道徳と実存

ロボットと哲学②道徳と実存

前回は「ロボット」という語の語源について紹介し、四原因説に従って人間とロボットについて考察したが、今回は「目的性」について別の角度から論考することにより、人間とロボットの存在について再度考察する。

カントの目的論 イマニュエル・カントは人間の理性を「純粋理性」と「実践理性」に分けて考えた。前者は合理的思考能力、後者は善や道徳に関する理性である。純粋理性に関する問題は、量子論や脳科学との関係性から

もっとみる
ロボットと哲学①語源と目的性

ロボットと哲学①語源と目的性

SF(サイエンスフィクション、スペースファンタジ-)は、映画・小説の中でも人気ジャンルであろう。SFは私たちに近未来の空想を与え、好奇心を刺激してくれる。しかし、SFが持つ力はそれだけにとどまらない。現実を現在の構造から外したり、ある部分を誇張したりすることで、我々の常識や価値観に疑いを向けさせたり、哲学的な命題を投げかけて来るのである。例えば、映画『猿の惑星』のような人類の文明が滅びた設定はお馴

もっとみる