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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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#SF

パラレル・ユニフォーム

 おりこうにしていると予定より早く世間に出られることになった。久しぶりに歩く街はまるで未来社会のように感じられる。世の中の動きにすっかり乗り遅れてしまったようである。おじさんがサッカーの試合につれていってくれた。今は2021年だった。

チャカチャンチャンチャン♪

「えっ? なんでオリンピックなの? 奇数年なのに」
「黙ってみんかい」
「なんでなんでちゃんと説明してよ」
「何もわかっとらんようだ

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人生レポート(ゆらぎ星)

 誰にでもできる簡単な作業だった。単純な謎解きと確認。軽くレポートを書き上げるくらいのこと。ちょっと行って帰るくらいのこと。
 ほとんどは予想の範囲を超えるものはないだろう。当たり前のことを当たり前に報告するまでだ。ある意味これはつまらない仕事だった。つまらないとわかったものを、つまらないと確かめるだけなのだから。
 レポートは順調だ。時々、ペンの運びが重く感じられる。この星の重力に少し戸惑いを覚

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スーパー・リバー・サイド

 ちょうど先客の会計が終わるところだった。最高のタイミングで僕はレジへとたどり着いた。そう思った瞬間、大きな声に前進を阻まれた。
「お客様! 先にお待ちの方々が……」
 まさかと思い振り返ると川が流れていて、小舟に乗って近づいてくる人の姿があった。列は川の向こうにあるようだった。早合点した自分が恥ずかしくなった。
(大人150円)
 橋を渡るのにも金がいるのか。

 橋の上の診療所は大変混んでいた

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一夏のアルマゲドン

 荒れ狂う夏が破壊者を降らせた。商業施設は化け物たちによって踏みつぶされ、学校、図書館、劇場等はすべて宇宙人たちに占拠されてしまった。地上にも地下にも安全と言える場所はどこにもなかった。

「もしかしてあそこなら……」

 微かな望みではあったがあきらめる前に試す価値はある。私たちは40人1組となり揃いのスーツで身を固めた。団長を先頭に立たせ『選手団』の旗を持たせた。
 迷いや自信のない素振りは疑

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地球帰還ミッション

地球帰還ミッション

 あのグデングデンの楽しい酔っぱらいたちはどこに行ってしまったのだ。夜の街を流れた素麺はどこに行ってしまったのだ。俺が俺がと突き進む生粋のドリブラー、スタジアムを埋め尽くす熱いサポーター。16ビートで踊り出すピチピチの魚たちは、みんなどこに行ってしまったのだ。

 何もかもが変わってしまった。
(何もかもがもう面倒になった)

 せっかくここまでたどり着いたけど、やっぱり帰るのはやめにしよう。ここ

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スパイ角(ルーツ&ツール)

スパイ角(ルーツ&ツール)

 この肩の痛みはどこからくるのだろう。
 腕? 首? 頭?
 そう単純なものとも考えにくい。それはもっと複雑な痛みのように思えた。他人の体から、遠い街から、白い雲から、夏の向こうから、癒えぬ悲しみから……。ここからは見えないところから、それは日に日に強さを増しながらやってくる。
 いったいどこから?
 それがわかれば、いくらでも手を打てるのに。

 今度は胸の真ん中にまた違う痛みが襲ってくる。
 

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タッチパネル(宇宙回転寿司)

タッチパネル(宇宙回転寿司)

「言うほど大きくないね」
「いや、見た目の大きさじゃない」
「えっ? じゃあ……」
「よく味わって食べなきゃね」
「うん。何か今まで食べたのと違う」
「そりゃそうさ。スケールが違う」
「へー」

「今、ここにたどり着いたのは300年前に職人が握った寿司だ」
「えーっ! 大丈夫なの」
「ここの回転寿司は1つの銀河になっている」
「わーっ、何か吸い込まれそう」
「大丈夫。僕たちも宇宙の一部だよ」

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時代対局 ~こんな対局あったらしいな

時代対局 ~こんな対局あったらしいな

 屈んだ拍子にワイシャツのポケットから鉛筆が落ちた。おかしなことに畳の隙間に挟まって抜けなくなった。無理に引くと逆に引き込まれ深い穴の中に落ちてしまった。 
 気がついた時にはもう対局が始まっていた。
 タブレットがない!
 机の上には対局時計と記録用紙、それに鉛筆と消しゴムだ。
「指したよ」
「あっ、すみません!」
 僕は慌てて棋譜に4三銀と書き込んだ。
(先生?)
 棋士の先生は2人とも30年

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パートタイム・ストーリー

パートタイム・ストーリー

 仮の母が朗読を止めた。
 オフタイマーが働いたのだ。
 静寂に目を閉じているのは耐え難かった。復活した秒針がチクチクと空気を伝わって突き刺してくるのだ。
 やっぱり無理だ。
 もう一度、仮の母を起動してオフタイマーをセットする。(これで何度目だろう……)
…… 45分 ……
 前より長くセットしておく。
 もしも、僕が先に眠ったら、消えてもいいよ。

 それというにもそれにはそれなりのそれがあっ

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天空の正座(IFの未来)

天空の正座(IFの未来)

 情報は突然私を呑み込んで、虚無へと突き落とそうとするようだ。私は不安の中を歩いている。「手を読む」ということは、ただ直線的に先を読むということではない。種々の可能性について枝を広げながら、時に疑い深く、内なる声に耳を傾け、道を歩いて行くことだ。
 どれだけ行っても、見えているのは私の周りのほんの一部のような気がする。いくら読んでも、私は私自身を見ることができない。対局というルールの中では、私は外

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【小説】ずっと知らない体

~いつ知ったのか

 当時としては私の知る限りでお話をしていたわけですから、私の心にうそはなかったということはご理解いただきたい。私は何も知らなかったわけですし、知らない方がいいことを知っていたからこそ、知ろうとすることを知らなかったとも言えるわけであります。ことある毎に知らない知らないと言っているわけでありますから、これはもうどう考えてもそのまま突き進む以外はないのであります。
 一度知ってしま

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ラスト・コーヒー(盗まれた街)

ラスト・コーヒー(盗まれた街)

 大事な話がある(君だけに)。
 親友に呼び出されて私は喫茶店の中にいた。
 ここのコーヒーはこの街で一番だ。

「僕はこの星の生まれじゃない」
 話は前置きもなく始まった。彼はどこか疲れた様子だった。
「お母さんは?」
 私は素朴な疑問をぶつけながら探りを入れた。
「おじいさんは?」
 みんなそうだと言う。家族ぐるみで宇宙人ということか。
「わかったか」
 彼の状態は相当悪そうだった。

「隣人

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教えて!総理

教えて!総理

「それでは未来の総理、答えられる範囲でお願いします」
「どうぞお手柔らかに」

「もしも無人島に持っていくとしたら?」
「そうだな。炬燵とみかん、ポメラ、ラジオ、プレイステーションかな」
「総理、1つだけ」
「えっ、1つなの。じゃあラジオだ」

「明日の天気予報は聞かれましたか?」
「それは聞いてない。晴れるといいね」
「もしも雨が降ったら、その時は傘をさされますか?」
「どうだろう。少しくらいの

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