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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024
妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。
(一)
妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた
美弱あつめ001 「光る産毛」 ※創作大賞応募作
草木の蕾や実にびっしりと生えた産毛につい目がいってしまう。
五月初旬のある日、近所の公園で、淡いピンクのバラの花を囲むように、先がツンと尖った固い蕾がいくつもついているのを見た。その様子がまるで、気高く美しいお姫様をお守りする兵士のように思える。
しかしよく見れば、頑強そうな蕾たちには微細な産毛が生えている。勇敢な兵士であっても、思わず立ちすくんだり、体が震えるような恐怖に襲われたりすること
「おはよう、私」①(短編連作小説 & 音楽)第1話
第1話・瑠璃
朝。
遠く聞こえるアラームの音が意識をたたく。
細く開いたカーテンの隙間から、細い光がこぼれている。
ああよかった今日はいい天気なんだなと、ぼんやりした頭で反射的に考える。
「よかった」と思ったのは仕事で人に会いに行く予定があるからで、晴れていれば移動がらくだからだ。雨ならば広がってしまう細いくせ毛も、今日はきっと大人しく、肩で揺れてくれるだろう。
ほとんど無意識に
齢八十八、指揮者にないもの
身を包む空気には、風もなく、濁りもなく、熱もなく、湿気もなく。
無駄なもののない空間だ。
壁越しに耳に入ってくるのは一定の振動数を保つ長い弦の音、遊び吹かれる木管の音階、弾むような金管の鼓笛。それらが雑多に入り混じる、「まだ」混沌状態のものたち。
「マエストロ、そろそろです」
瞼を開ける。
私の前の鏡には、顔に深い皺が刻まれた老人が一人座って映っている。同じく皺だらけの手が、台の上に