さなみ 七恵

「美弱」を届ける物書きです。人の弱さにある美しさをつづることで、その人がより自分らしく…

さなみ 七恵

「美弱」を届ける物書きです。人の弱さにある美しさをつづることで、その人がより自分らしく生きるお手伝いをします。神社&カフェ巡りが大好き。出雲が心のふるさと。

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美弱あつめ001 「光る産毛」 ※創作大賞応募作

草木の蕾や実にびっしりと生えた産毛につい目がいってしまう。 五月初旬のある日、近所の公園で、淡いピンクのバラの花を囲むように、先がツンと尖った固い蕾がいくつもついているのを見た。その様子がまるで、気高く美しいお姫様をお守りする兵士のように思える。 しかしよく見れば、頑強そうな蕾たちには微細な産毛が生えている。勇敢な兵士であっても、思わず立ちすくんだり、体が震えるような恐怖に襲われたりすることもあるのだろうか。産毛は、鎧の中に秘めておいたはずの弱さが顕れたものかもしれない

    • 美弱あつめ010 「『書けない』を味わいつくす」

      「もう文章を書けないかもしれない」と沈んだことは何度かあるはずなのだけれど、それがいつ、どんな状況だったのかが思い出せない。能天気なのかしら……!心の中心部ではあまり大ごとだと思ってないのかもしれない。中心部の周りで感情がざわわと波立つのをひたすら味わうと、また自然と書けるようになるから。 で、まさに今、人生で何度目か分からない「もう文章を書けないかもしれない」タイミングなのだ。「書いてるやん」とツッコミが来そう。たしかに書けないことはない。でも「お腹すいた」とか「下半期が

      • 美弱あつめ009 「人に頼るのが怖い」

        「あぁ、私が熱で苦しんでるのに、随分嬉しそうだなぁ」 まだコロナが流行っていなかった五年半前、風邪かインフルエンザで高熱が出て、数日間うなされた。夫の転職で神奈川から兵庫に突然移住することになり、慌ただしく引越しを終えた直後だった。張り詰めていた糸が切れて、心身の疲れがどっと押し寄せたのだと思う。 「七恵、苺買ってきたから枕元に置いておくよ。蜂蜜とレモンも買ったから、あとでホットレモネード作るね。今飲みたければ遠慮なく言って。食欲ありそうなら、おうどんも作るから」 夫は

        • 美弱あつめ008 「眩い枯葉」

          かつては「五十歳でぽっくり死にたい」と心底思っていた。子どもがいないし、ペットも飼っていない。一心に守り育て、成長を見届けたい存在がいないのに、長生きする意味などないと思っていた。私が死んでも悲しむ人なんて誰もいないと、ちょっとやさぐれた考えもあった。ごめんなさい。 でも今は、長生きしても、事故や病気で明日突然死んでしまっても、どちらでも構わないなぁと思う。私は今、自分の人生を全力で楽しんでいる。飛び跳ねるほどの喜びも、隠れてこっそり涙する悲しみも、色々な感情を味わい尽くし

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        美弱あつめ001 「光る産毛」 ※創作大賞応募作

          美弱あつめ007 「ずっと伸ばせなかった髪」

          たくさんの「〜してはいけない」「〜であるべき」を、自らに課して生きてきた。「髪を伸ばしてはいけない」「母の好みの髪型にするべき」もそうだった。 私が幼稚園を卒園する頃まで、母は肩につくくらいのミディアムヘアだった。古くて重たいアルバムを開くと、パーマをかけて毛先がくるんと巻いた母と、母の足にしがみつくおかっぱ頭の私の写真が残っている。入園式だったのか、母はコサージュのついたジャケットと、光沢のあるきれいなスカートを着て、ローズ色の口紅をきっちり塗って微笑んでいる。その姿が私

          美弱あつめ007 「ずっと伸ばせなかった髪」

          美弱あつめ006 「100%愛する存在の文章を書けない」

          昨秋から今年の春にかけて、とあるWebメディアでエッセイを連載させてもらっていた。『会いたいから食べるのだ』という連載タイトルで、カフェ巡りが好きな私が出会った美味しいスイーツと、そのスイーツの周りで生まれた交流を紡ぐエッセイだった。 「書きたい!」というワクワクよりも「書かねば」という焦りが強くなってしまったから、今は連載をお休みさせてもらっているのだけれど、これまでに公開した八つのエッセイは全てとても大切な作品だ。でも、一つだけ心残りがある。100%愛するお店のことを書

          美弱あつめ006 「100%愛する存在の文章を書けない」

          美弱あつめ005 「顔の周りの小さな虫」

          子どもの頃から、顔の周りを小さな虫が飛ぶのが恐ろしかった。「自分は臭い」というコンプレックスをずっと抱えていたから、虫が飛ぶと「お前は本当に臭いんだぞ」と証拠を突きつけられている気がした。遠い昔、クラスメイトに「あいつ臭いから虫がたかってるぞ」とニヤニヤ笑われたこともある。虫が来ると、お願いだから早くどこかに行ってくださいと必死に祈っていた。 ところが、最近は顔の周りを虫が飛ぶと「あぁぁぁ、ありがとうございます」と心から感謝するようになった。なんなら虫に対して親愛の情まで生

          美弱あつめ005 「顔の周りの小さな虫」

          美弱あつめ004 「理解しきれない同じ話」

          先月、四十歳の誕生日に新潟をひとり旅した。昨秋に初めて訪れた「カーブドッチ トラヴィーニュ」というワイナリー併設のホテルがとても素晴らしい場所だったので、節目の日に必ず再訪しようと思っていたのだ。 前回のひとり旅と同様、まずは新潟の神社で一番有名であろう彌彦神社にお参りし、周辺を散策してからタクシーでホテルに向かうことにした。 彌彦神社がある弥彦地区は山の麓で、駅前にタクシーが待機していないし、流しのタクシーももちろん走っていない。前回は電話で配車を頼んで十五分ほど待った。

          美弱あつめ004 「理解しきれない同じ話」

          美弱あつめ003 「半目の写真」

          二十四歳のとき、急に思い立ち、小学校からそれまでにデジカメや「写ルンです」で撮った写真と、みっちりと隙間なく貼ったプリクラ帳を捨てた。自分のぶさいくな顔を目にするのは鏡だけで十分だったし、自分が辿ってきた痕跡を消したら、過去の自分とさよならして真新しい自分になれる気がしたのだ。大量の写真を紙袋とゴミ袋で二重に封印し、こっそり処分してからは、できるだけ自分の顔がこの世に残らないように気をつけてきた。 物心ついた頃から写真を撮られるのが苦痛で仕方なかった。またぶさいくに写るのか

          美弱あつめ003 「半目の写真」

          美弱あつめ002 「すぐにバレる嘘」

          多くの人は「甘えてる」「現実逃避してる」と思うかもしれないけれど、約二十年前、私はろくに就活をしなかった。面接で自分の考えを話すのが怖かったし、その結果、お祈りされるのも辛かった。かと言って、面接の練習をしたり、自己分析や業界分析をしたりすることもなかった。努力が実らなかったときに「本気じゃなかったから仕方ない」と自分に言い訳できるように、だと思う。 一方で「自分の手で何かを生み出したい」「自己表現したい」という気持ちは強かった。どんな手段で何を創造したいのかもわからないく

          美弱あつめ002 「すぐにバレる嘘」

          やりたいことだけをやる幸せな人生に導いてくれた「青」の話

          (※この記事はプロモーションを含みます) ぶさいくだった私がたった1年で美しく「ななちゃん、ほんっとに明るくなったよね。前までと別人だよ」 「お世辞じゃなくて、めちゃくちゃきれいになった」 昔からの私を知る家族や友人は、2023年初夏から突然、しかも急激に変わっていった私の姿にとても驚いている。私自身も毎日鏡を見るたびに「どんどん美しくなっていく……!」とすごく嬉しくなる。「よく自分で美しいなんて書けるね」と思われるかもしれない。でも実際にそうだから、堂々と書きたい!

          やりたいことだけをやる幸せな人生に導いてくれた「青」の話

          4月25日 時間やお金の概念はない

          うはぁぁぁ、友だちのトークライブに行き、タイトルどおりの話を聞いた。面白かった。今の私には言語化できないなぁぁ。そこをなんとか、かいつまんで書いてみる。あ、やっぱり無理かも。 時間が伸び縮みしたり、ないはずのところからお金が生まれたりすることは、ある。「そんなこと起こるはずない」という意識から解放されれば。 私も大いに思い当たる節があるので、引き続きその世界線で生きてゆきたい。別に私や友だちに特殊能力があるわけではなく、誰もが「そうありたい」と思えばいける世界なんだって!

          4月25日 時間やお金の概念はない

          4月24日 「ある」に満たされきる

          紗織ちゃんという年下の友だちが「七恵さん、どこか1日、全くお金を使わずに、今あるもの、手に入ってるもので、思いつく限り自分が心地いいと感じることをしながら、自分を甘やかして愛しながら、豊かさ感じる日をつくってみてください〜🥰」とアドバイスをくれた。 私、今自分に「ない」ものばかりにフォーカスしてしまっていたから「わ、紗織ちゃんにはお見通しなんだな!」とギクリとしました。 「ない」に意識を向けると、どんどん「ない!ない!」となってしまうから、「ある」に満たされきる日をつくっ

          4月24日 「ある」に満たされきる

          4月23日 ハナミズキのくるんくるん

          思い立って日記を始めてみますっ。 好き勝手書くので、読みにくかったらごめんなさい。 会社を辞めて、フリーランスになりました……と言うと聞こえがよいね。無職になりました。完全に無職!わあ! 毎日何をするとか決まっておらず、でも晴れていたら朝に散歩するようにしています。住宅街にも自然はたくさんあり、その様子を見ながら歩いてるだけでとても楽しい!!植物の成長が早くて、たった1日で景色が、世界がガラッと変わるので驚く。 今日は団地の塀の中に植っている白のハナミズキの様子をしげし

          4月23日 ハナミズキのくるんくるん

          きらいだから楽しくて作る

          連載エッセイの7話目が公開されました🎉 これまでで一番楽しく書けた!!!大好きな文章!! 頭で言葉をこねくり回すのではなく、胸のあたりから自然と言葉が生まれる感覚を初めて得た!! この感覚を忘れないでいようと思う。 きらいがテーマなのに、自分の中にたくさんの大好きが生まれたことが嬉しい。店主さんやお店を大好きになったし、松江も旅することも書くこともより大好きになった。

          きらいだから楽しくて作る

          日御碕の海がおしゃべりにする『神様の近くのタクシー運転手さん #02』

          昨年の夏から、およそ月イチで出雲をひとり旅している。毎回、出雲大社を中心に、ピンときたところ(たいていは神社)を巡る。バスや電車で行くには不便な場所ばかりなうえにペーパードライバーなので、タクシーを利用することが多い。 タクシーを捕まえる直前は、毎回緊張する。数十分、長いときは2、3時間、狭い空間で運転手さんと二人きりになるのだ。もし感じの悪い人に当たったらどうしよう……と少し不安になってしまう。でもそれは運転手さんも同じだよな。というか運転手さんはこの巡り合わせを毎日毎日

          日御碕の海がおしゃべりにする『神様の近くのタクシー運転手さん #02』