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美弱あつめ001 「光る産毛」 ※創作大賞応募作
草木の蕾や実にびっしりと生えた産毛につい目がいってしまう。
五月初旬のある日、近所の公園で、淡いピンクのバラの花を囲むように、先がツンと尖った固い蕾がいくつもついているのを見た。その様子がまるで、気高く美しいお姫様をお守りする兵士のように思える。
しかしよく見れば、頑強そうな蕾たちには微細な産毛が生えている。勇敢な兵士であっても、思わず立ちすくんだり、体が震えるような恐怖に襲われたりすること
美弱あつめ009 「愛を失った人に吹くやさしい風」
散歩がてら近所の神社にお参りするのが毎日の楽しみだ。住宅街を数十分歩くだけだけど、先日は「とびきりおしゃれして出かけよう」と思った。「花嫁さんかよ」と夫によくからかわれるサテンの白いロングスカートを履き、繊細なフィレンツェ彫りのリングをつけ、足元は四十歳の誕生日に買ったばかりのシルバーのバレエシューズ。家に一人きりの平日の午前、鏡に映る自分に「すごいねぇ、可愛いねぇ、おしゃれだねぇ!」と拍手してか
もっとみる美弱あつめ008 「眩い枯葉」
かつては「五十歳でぽっくり死にたい」と心底思っていた。子どもがいないし、ペットも飼っていない。一心に守り育て、成長を見届けたい存在がいないのに、長生きする意味などないと思っていた。私が死んでも悲しむ人なんて誰もいないと、ちょっとやさぐれた考えもあった。ごめんなさい。
でも今は、長生きしても、事故や病気で明日突然死んでしまっても、どちらでも構わないなぁと思う。私は今、自分の人生を全力で楽しんでいる
美弱あつめ007 「ずっと伸ばせなかった髪」
たくさんの「〜してはいけない」「〜であるべき」を、自らに課して生きてきた。「髪を伸ばしてはいけない」「母の好みの髪型にするべき」もそうだった。
私が幼稚園を卒園する頃まで、母は肩につくくらいのミディアムヘアだった。古くて重たいアルバムを開くと、パーマをかけて毛先がくるんと巻いた母と、母の足にしがみつくおかっぱ頭の私の写真が残っている。入園式だったのか、母はコサージュのついたジャケットと、光沢のあ
美弱あつめ006 「100%愛する存在の文章を書けない」
昨秋から今年の春にかけて、とあるWebメディアでエッセイを連載させてもらっていた。『会いたいから食べるのだ』という連載タイトルで、カフェ巡りが好きな私が出会った美味しいスイーツと、そのスイーツの周りで生まれた交流を紡ぐエッセイだった。
「書きたい!」というワクワクよりも「書かねば」という焦りが強くなってしまったから、今は連載をお休みさせてもらっているのだけれど、これまでに公開した八つのエッセイは
美弱あつめ005 「顔の周りの小さな虫」
子どもの頃から、顔の周りを小さな虫が飛ぶのが恐ろしかった。「自分は臭い」というコンプレックスをずっと抱えていたから、虫が飛ぶと「お前は本当に臭いんだぞ」と証拠を突きつけられている気がした。遠い昔、クラスメイトに「あいつ臭いから虫がたかってるぞ」とニヤニヤ笑われたこともある。虫が来ると、お願いだから早くどこかに行ってくださいと必死に祈っていた。
ところが、最近は顔の周りを虫が飛ぶと「あぁぁぁ、あり
美弱あつめ004 「理解しきれない同じ話」
先月、四十歳の誕生日に新潟をひとり旅した。昨秋に初めて訪れた「カーブドッチ トラヴィーニュ」というワイナリー併設のホテルがとても素晴らしい場所だったので、節目の日に必ず再訪しようと思っていたのだ。
前回のひとり旅と同様、まずは新潟の神社で一番有名であろう彌彦神社にお参りし、周辺を散策してからタクシーでホテルに向かうことにした。
彌彦神社がある弥彦地区は山の麓で、駅前にタクシーが待機していないし、
美弱あつめ003 「半目の写真」
二十四歳のとき、急に思い立ち、小学校からそれまでにデジカメや「写ルンです」で撮った写真と、みっちりと隙間なく貼ったプリクラ帳を捨てた。自分のぶさいくな顔を目にするのは鏡だけで十分だったし、自分が辿ってきた痕跡を消したら、過去の自分とさよならして真新しい自分になれる気がしたのだ。大量の写真を紙袋とゴミ袋で二重に封印し、こっそり処分してからは、できるだけ自分の顔がこの世に残らないように気をつけてきた。
もっとみる美弱あつめ002 「すぐにバレる嘘」
多くの人は「甘えてる」「現実逃避してる」と思うかもしれないけれど、約二十年前、私はろくに就活をしなかった。面接で自分の考えを話すのが怖かったし、その結果、お祈りされるのも辛かった。かと言って、面接の練習をしたり、自己分析や業界分析をしたりすることもなかった。努力が実らなかったときに「本気じゃなかったから仕方ない」と自分に言い訳できるように、だと思う。
一方で「自分の手で何かを生み出したい」「自己
4月25日 時間やお金の概念はない
うはぁぁぁ、友だちのトークライブに行き、タイトルどおりの話を聞いた。面白かった。今の私には言語化できないなぁぁ。そこをなんとか、かいつまんで書いてみる。あ、やっぱり無理かも。
時間が伸び縮みしたり、ないはずのところからお金が生まれたりすることは、ある。「そんなこと起こるはずない」という意識から解放されれば。
私も大いに思い当たる節があるので、引き続きその世界線で生きてゆきたい。別に私や友だちに
4月24日 「ある」に満たされきる
紗織ちゃんという年下の友だちが「七恵さん、どこか1日、全くお金を使わずに、今あるもの、手に入ってるもので、思いつく限り自分が心地いいと感じることをしながら、自分を甘やかして愛しながら、豊かさ感じる日をつくってみてください〜🥰」とアドバイスをくれた。
私、今自分に「ない」ものばかりにフォーカスしてしまっていたから「わ、紗織ちゃんにはお見通しなんだな!」とギクリとしました。
「ない」に意識を向け
4月23日 ハナミズキのくるんくるん
思い立って日記を始めてみますっ。
好き勝手書くので、読みにくかったらごめんなさい。
会社を辞めて、フリーランスになりました……と言うと聞こえがよいね。無職になりました。完全に無職!わあ!
毎日何をするとか決まっておらず、でも晴れていたら朝に散歩するようにしています。住宅街にも自然はたくさんあり、その様子を見ながら歩いてるだけでとても楽しい!!植物の成長が早くて、たった1日で景色が、世界がガラッ
きらいだから楽しくて作る
連載エッセイの7話目が公開されました🎉
これまでで一番楽しく書けた!!!大好きな文章!!
頭で言葉をこねくり回すのではなく、胸のあたりから自然と言葉が生まれる感覚を初めて得た!!
この感覚を忘れないでいようと思う。
きらいがテーマなのに、自分の中にたくさんの大好きが生まれたことが嬉しい。店主さんやお店を大好きになったし、松江も旅することも書くこともより大好きになった。
日御碕の海がおしゃべりにする『神様の近くのタクシー運転手さん #02』
昨年の夏から、およそ月イチで出雲をひとり旅している。毎回、出雲大社を中心に、ピンときたところ(たいていは神社)を巡る。バスや電車で行くには不便な場所ばかりなうえにペーパードライバーなので、タクシーを利用することが多い。
タクシーを捕まえる直前は、毎回緊張する。数十分、長いときは2、3時間、狭い空間で運転手さんと二人きりになるのだ。もし感じの悪い人に当たったらどうしよう……と少し不安になってしまう
27年間に650台のアップルパイを焼いた母の「続けるリズム」
CORECOLORでの連載エッセイの第5回が公開されました(うおおお、5回…嬉しい…)
お時間あれば、読んでいただけると嬉しいです。
数年前にも母のアップルパイの話を書いたのですが、今思えば、その文章は「自分の人生のままならなさ」を母のせいにしていたなぁぁ。そのままの私なら、「書き続ける人生」を諦めることになってたかもしれない。