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ソーのnote好きな小説まとめ

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とりあえず、分野にこだわらず、好きな物を集めた
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#小説

【小説】遠いみち①

【小説】遠いみち①

昭和29年春――。

 このところ、お向かいの寺の桜が盛んに散ったから、狭い路地のあちらこちらが桃色に染まっている。時折り渡る風も随分、温かくなった。次の雨できっと、残りの花も散ってしまうのだろう。枝からは、わずかに緑の新芽が顔を出していた。

「和ちゃん、ちょっと⋯⋯」

 表を掃いていた私は、姉さんに呼ばれて「はい」と返事をした。

 箒と塵取りを手にしたままお勝手に回ると、「こっちぃ、おいで

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【1話完結小説】休日の洗濯物

【1話完結小説】休日の洗濯物

晴れた休日の朝。
光の中で揺れる洗濯物を見るのが好きだ。

汚れと一緒に慌ただしい平日のしがらみもすっきり洗い落とされたかのようなブラウスやスカートやタオル。
時おり気持ちいい風が吹き抜けて、踊るようにゆらゆら揺れる。
柔軟剤のいい香りがあたりにふわふわ漂う。
今週も一週間お疲れ様。
やっと楽しい休日が始まるよ。
思い切り羽を伸ばそうね。
…それはそうと柔軟剤、変えたのかな?
僕は先週までのフロー

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水鏡の向こう側

水鏡の向こう側



 豪雨が山間の温泉街を襲った翌日、私は大きな水溜まりの前で感嘆の声をあげた。

 剥げたオレンジ色の屋根の喫茶店は、前に大きな窪地があり、大雨が降ると、いつも直径が何メートルもの大きな水溜まりができる。

 空を見上げると綿あめのような高積雲。それは、水溜まりが作る水鏡に映り込み、店の屋根と仲良く並んで、退屈な街の景観を補ってくれる。水がそよ風に揺れ、微かに歪んだ雲と、その空とは異なる色彩は

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視線の先|#夏ピリカ応募

視線の先|#夏ピリカ応募

 山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。

 一番前の席で彼女は、僕が黒板の前で行った自己紹介には目もくれず、折り畳み式の手鏡を持ち、真剣な顔で前髪を直していた。そのことが気になって、彼女の様子を観察してみる。休み時間になる度、彼女は不器用そうに手鏡を開く。自分の顔と向き合い、たまに前髪を直す。何度か鏡の中の彼女と目が合ったような気がする。鋭い目つきで少し怖い。隣の席の

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聴く短編小説「似ている二人」

聴く短編小説「似ている二人」

 個人営業の仕事をしていると、お客の名前がわからなくなることもある。うっかり忘れたり、まったく思い出せなかったり、いろいろだ。以前、同時期に「タカハシ」様が四人かぶってしまった。違う「タカハシ」様のことを、タカハシ様に話していた。しかし、幸いなことに気づいていないようだった。

 そのころ、私が通勤しているロードサイドの支店は、駅から歩いて20分のところにあった。少し早めに行って、支店の前のファス

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小説|人だからさ

小説|人だからさ

 十年ぶりに彼女は町へ帰ります。知らない土地に思えました。古い建物の屋根は焼け落ちており、土壁には銃痕。支援金で建てられた新しい家々には知らない人々が住んでいます。夜に沈む町は変わりました。そして彼女も。

 十年前。彼女と病弱な幼い弟は、町の飯屋で無口な店主から軍人の残飯をもらいました。姉弟が急いで食べるかたわら、店主の腹が鳴ります。店主の痩けた頬を見て「なぜ、くれるの?」と彼女。店主は答えませ

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雨と宝石の魔法使い 第四話 リリーフ街の秘密

武藤響(むとう ひびき)は仕事からの帰り道、いつも一つ手前の駅で降り、自宅まで歩いている。40歳を越え、体力の衰えと、腹の出た中年の身体を憂慮して始めた習慣だった。

自宅の最寄り駅の手前にある武蔵橋駅には、小さな商店街「リリーフ街」が駅のロータリーから直結しており、夕方は地元客で結構な賑わいを見せていた。

今日も武蔵橋で降りるとそのまま大通りを通って自宅へ向かおうとしたが、花粉症の薬が切れてい

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勝手にオススメ

勝手にオススメ

あふれる思い、受け取りました。
面白かった。

イラスト使ってもらいました。素敵なお話です。
こちらのお題は、Sheafさんの『ストーリーの種13』からだそうです。

【1話完結小説】文化祭(午後原茶太郎シリーズ)

【1話完結小説】文化祭(午後原茶太郎シリーズ)

高校生活最後の文化祭。俺はベタながらお化け屋敷をやりたかった。男子はほとんど俺の味方をしてくれたけど、女子の大半が「メイドカフェをやりたい」と譲らない。

「文化祭と言ったらお化け屋敷だろ!」
「そんな暗いしキモチワルイの絶対イヤ!」
「メイドカフェ、一回くらいやってみたいし!」
「そんなもん女子しか盛り上がんねーだろ!」

意見は平行線で、出し物は永遠に決まらず、明日、改めて仕切り直すことになっ

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【1話完結小説】冬恋

【1話完結小説】冬恋



寒い寒い寒い!
膝掛けをして背中とお腹にカイロを貼っても意味がない。真冬の教室は凍てつく寒さだ。
「その膝掛け百均のでしょ?」
隣の席のキザ山がめざとく見つけて声をかけてくる。
「…だからなんなのよ」
「百均の膝掛けってペラッペラだから全然あったかくないんだよね」
知った風な口を聞かれてイラっとしたけれど…それは図星だった。
「うっさいな、あんたに関係ないじゃん」
「俺のダウンさ、いいヤツだか

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鏡顔|#毎週ショートショートnote |1分

鏡顔|#毎週ショートショートnote |1分

 妹のアンナの表情は、いつも僕と同じになる。まるで鏡の中の顔のように。

 兄妹で遊んでいる時には笑顔。だけど、僕が足の小指を本棚にぶつけると、自分が痛いわけでもないのにアンナは今にも泣きだしそうな顔になる。

 やはり母さんがいなくなってから共感力が強くなったのだろうか。一人で僕らを育ててきた母さんが不慮の事故で亡くなったあの日、何も分かっていないであろうアンナが僕をじっと見て、わっと泣き出した

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短編小説?|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|#創作大賞2022

短編小説?|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|#創作大賞2022

■ 目次(本投稿)

■ 第1話:開始|2分

■ 第2話:次戦|3分

■ 第3話:望み|3分

■ 第4話:最終|2分

■ 第5話:道のり|4分

■ 第6話:俺の行方|2分

noteの長編小説読んでみた。

noteの長編小説読んでみた。




noteの長編もの、今まで読んでいませんでしたが、新聞小説を読む感じで面白いです。ぜひ。

イラスト使ってもらいました。