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聴く短編小説「似ている二人」

 個人営業の仕事をしていると、お客の名前がわからなくなることもある。うっかり忘れたり、まったく思い出せなかったり、いろいろだ。以前、同時期に「タカハシ」様が四人かぶってしまった。違う「タカハシ」様のことを、タカハシ様に話していた。しかし、幸いなことに気づいていないようだった。

 そのころ、私が通勤しているロードサイドの支店は、駅から歩いて20分のところにあった。少し早めに行って、支店の前のファストフード店で、主にコーヒーを飲むのがルーティンだった。仕事が忙しそうな日は、簡単な朝食を取ることもあった。

 ほぼ毎日、お店に通っているので、店員さんをなんとなく覚えた。その中に自信のなさそうな店員がいた。オーダーを何回か間違えられたこともあった。でも、そんなことは関係ない。出されたものを食べればいいだけだ。どれが食べたいということはない。毎日来ているのだから。

 通いはじめたころのある日、カウンターでチョコレートシェイクを頼んだ。すごく感じのいい店員だった。次の日は、バニラシェイクを頼んだ。同じ店員だった。ただし、少し変な感じがした。名札には「サトウ」と書いてあった。

 休みを挟んで、その日はストロベリーシェイクを頼んだ。名札には「サイトウ」と書かれていた。私は彼女を見た。帽子とマスクのあいだからの視線に射抜かれた。そう、この店にはサトウさんとサイトウさんがいる。

 私は似ている二人のファンになった。どちらかといえば、サイトウさんのほうがサバサバしていたが、そこが良かった。どちらがどう違うかを考えていたら、どちらがどっちかわからなくなってきた。

 その日は珍しく、サトウさんとサイトウさんが一緒に働いていた。カウンター近くのテーブル席に腰かけながら、私は同時に二人の女を愛することができるのか考えていた。それから、もし私が若かったら、どちらと付き合いたいかを考えた。いずれにしても、どちらも付き合ってくれそうになかった。

 ロードサイド店だけあって、車で訪れる人びとが多かった。駐車場に停めてある車の窓から犬が二匹、頭を出していた。その隣の車からピンクのワンピースをまとった女性が降りてきた。着丈は短かった。だから、どうということはないけれど、膝上だった。

 気持ち良さそうな、柔らかい風に吹かれながら、その女性と一緒に、いかにも仕事ができそうな男が入ってきた。イケメン過ぎて、嫉妬さえ覚えない。タイトなスーツが似合っていた。同じものを着たとしても、ああはならない。

「ええと」と彼は言った。「チョコレートシェイクとストロベリーシェイクをお願いします」
 イケメンはサトウさんとサイトウさんの顔を見て言った。「おふたり、似ていますね。姉妹ですか?」
 ええ、そうです、とおそらく微笑みながら、彼女たちは言った。