吉村うにうに

はじめまして。小説を書いております。猫が主人公の長編小説や不思議でコミカルな短編を書き…

吉村うにうに

はじめまして。小説を書いております。猫が主人公の長編小説や不思議でコミカルな短編を書きます。 ショートショートnote杯に参加したくて登録しました。 飼い猫はノルウェージャンフォレストキャットで、毛玉の天使です。 https://twitter.com/NFCnozomi0419

マガジン

  • 毎日ちょっとだけ連載小説|水深800メートルのシューベルト

    連載で小説を始めてみました。一話をかなり短く(200文字くらい)毎日ほんの少しずつ進める予定です。 読んで頂けると嬉しいです。

  • ちょっと嬉しかったこと(つぶやき中心)

    記事を採用して頂いたこと、ちょっとしたラッキーなことを載せていきます。

  • 自分語り・小説の書き方

    ここでは、自分の来歴、小説執筆のスタイル、これまでに学んだこと、作品の解説、受賞コメントなどを載せています。自分語りもちょいちょい混ざっております。

  • 月イチ純文学風掌編

    毎月一度「純文学風」の掌編小説を乗せるつもりです。 オチなし、文体にこだわる、心理描写減らす、会話文の最後に〇をつけるスタイルです。

  • 転調

    創作大賞2024応募用する猫小説です。

最近の記事

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石造りの迷宮 第一話

          あらすじ  これは、君に起きた物語。  日雇いバイトで生計を立て、ネットカフェに暮らす君は、夕食を買っていこうと石造りの百貨店の地下へと向かう。  そこは一度入れば出られない迷宮百貨店だった。  やむなくそこに泊まり、翌日から百貨店で働くことになり、次の日も、また次の日も、そこから出られないが、親切な上司、優しい恋人、可愛いペット、何不自由のない生活を味わううちに、外の世界へ出る意義を見出せなくなる。  そしてある日、恋人が失踪したことをきっかけに、百

    • 水深800メートルのシューベルト|第1013話

      「お前、ベッドを見つけられたか?」 「いや、誰が使用しているのかわからないから、魚雷格納庫で寝たよ」  すると、彼は済まなさそうに言った。 「悪かったな。でも、空いているベッドなら気にしなくていいんだぜ。もっとも下士官のはやめておいた方がいいと思うがな」  それからフォークでソーセージを突き、口に運ばないままで言った。 「眠れねえんだよ。当番終えて八時過ぎにベッドに入ったけど、やっとさっき一二時間うとうとできたところだ」      第1012話へ戻る          

      • 水深800メートルのシューベルト|第1012話

        僕は厨房の手前に行くと、トレーに皿とフォークを載せ、トマトやレーズン、それに仔羊の肉といったものを適当に盛りつけた。そして後ろを見ると四人掛けのテーブルに居た士官たちが一斉に立ち上がったので、その空いた席にトレーを置いた。すると、音波探知機係二人がそそくさとトレーを持って向かいに座って来たところに、横からは大柄の男が体を押しつけてきた。ロバートだった。 「おお、アシェル、ここ空いているよな?」  彼が寝室を開けなかった事に抗議しようかと思ったが、やめた。しかし、彼の方からそ

        • 水深800メートルのシューベルト|第1011話

           少し不安だからといって、あれを飲んでいたら、眠くて仕方がない。あの手の薬はリラックスできる代わりに意識がぼんやりとするのだ。だから彼の勧めるように、勤務前には鶏肉とトマトだけは食べなければ。食堂にひしめくテーブルは十八時からの勤務組なのか、十二時に勤務を終えた連中なのか、下士官や水兵達でひしめき合っていた。  大の男が小さなテーブルで身を縮こませていた。談笑している者もいたが、多くは寝起きか僕と同じように眠れずにいた連中らしく、ぼんやりとした顔で黙々とフォークで肉を突いて

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        石造りの迷宮 第一話

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          10本
        • 転調
          5本
        • 都市と激情
          8本

        記事

          夏祭りと豪雨

          夏祭りと豪雨

          水深800メートルのシューベルト|第1010話

           寝心地はやはり最悪だった。背中に痛みを感じる度に、ロバートを恨めしく思った。うとうと眠っては痛みに目が覚める、その繰り返しにすぐにうんざりしてしまった。座ったり寝転んだりを繰り返して時間を潰した挙句、怠くて重い体を引きずるようにしてラッタルを昇った。少し早いが食堂に向かって、そこでゆっくりと食べよう。食欲はなかったが、食べずに勤務をして倒れると、ゲイル先生に叱られるのは目に見えていたからだ。あの人は心配症だ。僕が過換気を起こさないかしょっちゅう目を向けていて、 「ザナックス

          水深800メートルのシューベルト|第1010話

          水深800メートルのシューベルト|第1009話

           こんな時の都合の良い場所として存在する下層の格納庫には、二三の寝床にありつけなかった乗組員が、大きな鼠のように気配を殺して小さく丸まっていた。僕は、人から離れた場所を選び、支給品の毛布を魚雷の載せられていないラックに敷いたが、床の硬さはどうしようもなかった。その上に上着をかけて寝たが、すぐに背中が痛くなった。  ロバートは食事もしないで勤務に就くつもりか、と訝しんだが、すぐに他人の事情はどうでもよく、問題は僕に厄災が降りかかってくるかどうかだと思い直した。      第

          水深800メートルのシューベルト|第1009話

          水深800メートルのシューベルト|第1008話

               (49)   体を鎮めるような眠気と意識の揺り戻しの間で無限の間揺れ動いていた。緑の魚雷格納庫の隙間に毛布を敷いて寝たのが間違いだとわかっていた。  勤務前に食堂に行くのが水兵の習慣なので、そろそろ動いてもいいはずだ。しかし、彼はベッドに横向きに寝転がって、携帯ゲーム機をやはり横向きにしたまま、ぼんやりとそれを見つめ、口をポカンと開けたまま、指だけは半ば機械的な正確さと激しさでボタンを押し続けている。その表情は不機嫌というより、魂を失ったように生気が出ていなかった

          水深800メートルのシューベルト|第1008話

          水深800メートルのシューベルト|第1007話

               (49)   体を鎮めるような眠気と意識の揺り戻しの間で無限の間揺れ動いていた。緑の魚雷格納庫の隙間に毛布を敷いて寝たのが間違いだとわかっていた。 僕のベッドを共有しているロバートが、イヤホンを耳に携帯ゲームをしていて、動こうともしなかったのだ。彼の目に入るように近づいてもだ。彼は眉を吊り上げ、下から睨むようにして、イヤホンを片方だけ外して言った。 「ベッドは探せば空きがあるんだから、他で寝ろよ」  彼の勤務は始まりが近いはずだが、動こうとはしなかった。後三十分

          水深800メートルのシューベルト|第1007話

          水深800メートルのシューベルト|第1006話

          「ま、艦長の性質がわかったからといって、私の仕事は変わらないがね」  僕が黙って曖昧に頷いていると、照れたように笑った。  艦長の良くない噂を耳にした事を思い出した。護衛艦の勤務時代に、事故を起こしそうになって地上勤務に回されたというものだ。リクルートキャンプがそれかもしれない。この士官なら事情を知っているかもしれないが、知ったところで意味をなさないだろう。もう逃げられない空間に一緒なのだから。  大尉は振り向いて、箱をひとつ取ると僕に手渡した。 「スロープが戻ったら、ド

          水深800メートルのシューベルト|第1006話

          水深800メートルのシューベルト|第1005話

          「そんな機会が訪れるでしょうか?」  大尉がここまで海軍の話をするのは珍しい。とはいってもバリオローガン地区のミルバスというタコスがお勧めだの、ノースパークのクラフトビールを一度は飲むべきだといった、グルメや酒の話はよくするので、人と話すのは嫌いではないだろう。彼は僕の問いに手を振って微笑んだ。 「平穏無事に任務を終える可能性の方が圧倒的に高いでしょう。ただ、荒っぽい航海にはなりそうですが。私だって、あの地位に昇っていれば、将軍を夢見ていたかもしれません。決して艦長の資質を

          水深800メートルのシューベルト|第1005話

          水深800メートルのシューベルト|第1004話

           それは准将への昇進の事だと気づくのにたっぷり三秒はかかった。大尉は、にやりと笑った。 「しかも、大佐のままでは退役は間近です。昇進すれば、退役を先延ばしできますからね。ただし、昇進は簡単にはいかないと思いますよ。将官というのはハードルが高いですからねえ」  大尉はパイプを握って備品庫に入り、そこにあるつくりつけの小さなテーブルに腰かけると、疲れを吐き出すかのように息をついた。 「しかし、ここで何らかの成果が挙げられたら話は別です。成果といっても、わざわざ魚雷をぶっ放す必要

          水深800メートルのシューベルト|第1004話

          水深800メートルのシューベルト|第1003話

          「でも……、いくら久し振りの海だからといっても……」  その時、グラッと足元が揺れた。全部のバラストに海水が注入されたのだ。大尉の予言通り、ここは上り坂になった。よろめきそうになったが、心の準備ができていたので、足を後ろに一歩踏み込むだけで体を支えられた。早い段階で後方まで通り抜けておいて良かったと思った。もっとも、艦の大きさからして、それほど長いスロープにはならないので、ロバートのような筋肉自慢の男が見たら、坂があろうとなかろうと大差ないと笑うだろう。  僕と大尉は備品こ

          水深800メートルのシューベルト|第1003話

          水深800メートルのシューベルト|第1002話

          「海に出たい人間が……、実戦部隊に行きたい人間が、地上勤務に就くというのは、何かあったのかもしれません。軽はずみな憶測は控えますが。しかし、意にそぐわない配置は鬱憤を溜めるでしょう。今度艦に乗ったら、あれをやりたい、これもやりたい、と」 「つまり、危険を冒しがちだと?」  僕はそう言ったが、まさか艦長が戦闘をしたがっているようにはとても思えなかった。 「まさか」大尉は、歯を見せて笑い、続けて言った。 「しかし、何かの実績を残したがるでしょうね。自ら危ない橋を渡るようなこと

          水深800メートルのシューベルト|第1002話

          水深800メートルのシューベルト|第1001話

          「艦長は、艦隊勤務希望なんでしょうか?」 「そうでしょうね。経歴の多くが攻撃的な艦の任務で占められています。その中で教官職は自身の希望にそぐわなかったのでしょう。そんな陸上勤務が明けて、潜水艦を指揮する立場になる。久し振りの海での勤務です」  退屈から逃れられるという意味だろうか? 彼は理解できたかを確認するようにじっと見つめてきた。目を合わせるのも見栄を張っているように思われそうなので、ほんの少し視線をずらし彼の尖ったデビルのような耳を見て黙っていた。彼は数秒経つと再び口

          水深800メートルのシューベルト|第1001話

          水深800メートルのシューベルト|第1000話

          あそこで同僚にはギャング呼ばわりをされ、教官には散々怒鳴りつけられながら、延々と続く体力強化と基礎訓練に明け暮れた日々……。どうして学費のためにあんな所を選んだのだろう。しかし、パパのように食肉解体のような危ない仕事や、お婆ちゃんのようにハンバーガーのレジに立つこともなく、ユースレスの僕でも給料が貰える仕事に就けているのは、あの辛さがあったからだと、思い直した。 「教官には、海上勤務者の誰かが就かなければ意味がない。それは事実です」  大尉は続けて言った。 「しかし、海軍に

          水深800メートルのシューベルト|第1000話