新下彗

新下彗(しんしたけい)と申します。主にショートショートや短編小説を書いています。◆日本…

新下彗

新下彗(しんしたけい)と申します。主にショートショートや短編小説を書いています。◆日本証券業協会×note公式コンテスト「#お金について考えていること」入賞(ショートショート)◆ショートショートnote杯は2作が最終選考まで◆夏ピリカ"すまスパ賞"

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  • 短編小説?|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方

    #創作大賞2022に応募するものです。

  • ショートショートnote杯

    ショートショートnote杯に応募したものをまとめています。

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視線の先|#夏ピリカ応募

 山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。  一番前の席で彼女は、僕が黒板の前で行った自己紹介には目もくれず、折り畳み式の手鏡を持ち、真剣な顔で前髪を直していた。そのことが気になって、彼女の様子を観察してみる。休み時間になる度、彼女は不器用そうに手鏡を開く。自分の顔と向き合い、たまに前髪を直す。何度か鏡の中の彼女と目が合ったような気がする。鋭い目つきで少し怖い。隣の席のクラスメイトに「彼女はいつも手鏡を見てるのか」と訊くと、バツが悪そうに「分からな

    • 登録者数のためなら|#2000字のホラー

      風呂上り。仕事で疲れた身体にミネラルウォーターが染みわたる。 キャップを閉めてから、惰性でテレビを付ける。 隣県で起きた殺人事件を報じるアナウンサーが映った。 容疑者は今も逃走中らしく、コメンテーターが表情をことさら曇らせ、出頭を促している。 ――明日も仕事なのに…… 自分とは無関係の事件と分かっていても、やはり気分が落ち込む。 テレビというものは、油断していると、こちらが嫌な感情になる情報を次々と放り込んでくる。そして、いつの間にか仕事で消耗したエネルギーの残量が全てな

      • カミングアウトコンビニ|#毎週ショートショートnote|408字

        「あれ? 今、窃盗事件の取調べ中じゃないんですか?」 廊下ですれ違った警部補に、刑事が訊いた。 「あぁ、なかなか自白しないから、少し外してCCに行ってたんだ」 警部補が掲げたレジ袋には、CCのロゴが入っていた。 ◆ CC 独自路線で急速に拡大している、コンビニチェーン 誰にも知られていない秘密をコンビニ内の端末に入力することで、最大100万円分のポイントが貯まるという企画を打ち出して話題となった ◆ 本件に関わる秘密が入力されている可能性も否定できないが、そこま

        • ぴえん充電|#毎週ショートショートnote|1分

          娘が自分の部屋に居る間、耳を澄ますことが多くなった。 プレゼントした充電器がその理由だ。 スマホを子どもに持たせている親に人気がある充電器だった。というのも、充電時、SNSの使い過ぎや書き込んだ内容の悪さを読み取り、良くない使い方をしていた場合には、「ぴえん」という音が鳴る。「ぴえん」は親の気持ちを表しているのだ。 音も可愛いし、速い充電もできる商品だったので、娘の受けも悪くはなかった。 まだ「ぴえん」は一度も聞いていない。娘の部屋の中で、充電器に目を落として感慨にふける

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        視線の先|#夏ピリカ応募

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        • 短編小説?|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方
          7本
        • ショートショートnote杯
          15本

        記事

          読書石けん|#毎週ショートショートnote |1分

           ページが捲られる。ぼくが魔物に出会う。  また捲られる。ぼくが魔物を倒す。  石けんの良い香りがする手でページが捲られる度、ぼくは勇者として成長していく。  だが、魔王を倒しに行く直前で、本が閉じられる。  ――もう夜だから続きは明日かな?  と思っていたら、再び、本が開かれた。  お風呂上りの温かい手。  石けんの良い香りが、手だけじゃなくて、きみの全身から放たれて、ぼくを包み込む。  きみのおかげで、ぼくはとうとう魔王を倒す。  そして、最後のページまで捲ら

          読書石けん|#毎週ショートショートnote |1分

          【ピリカ文庫】ルーキー水入らず|4分

          ――お前は期待の大型ルーキーだ。その泳ぎでみんなを驚かしてやれ。ファイト!  その小さく波打つ水面を見たとき、俺は高校一年の春のことを思い出した。  すでに身長が百八十センチあり、体格もがっしりしていた俺は、体育会系の部活に引く手あまたであった。色々な部活から勧誘を受けたが、結局、水泳部に入ることに決めた。それまでに大した水泳経験があったわけではない。単に部長の勧誘がしつこく、断るのも面倒だったからだ。その当時、俺の身体は他の新入部員と比べて一回りも二回りも大きかった。ま

          【ピリカ文庫】ルーキー水入らず|4分

          自己紹介草|#毎週ショートショートnote|1分

           磯の香りが漂う場違いな空間の中で、その草は勇気を振り絞った。 「はじめまして。草です。よろしくお願いします」  しかし、誰もその自己紹介に返答しない。それどころか、何も言わずに、その場から次々といなくなる。そして、ついに残ったのが草だけとなった。 ――みんな海に帰ったのかな? 無事に着くと良いな。  魚たちの安全を祈念した直後、草のいたプラスチック容器は閉じられ、高いところから落とされた。真っ暗闇の中、そこで草はただひたすらに新たな出会いを待った。  それから数日が経

          自己紹介草|#毎週ショートショートnote|1分

          鏡顔|#毎週ショートショートnote |1分

           妹のアンナの表情は、いつも僕と同じになる。まるで鏡の中の顔のように。  兄妹で遊んでいる時には笑顔。だけど、僕が足の小指を本棚にぶつけると、自分が痛いわけでもないのにアンナは今にも泣きだしそうな顔になる。  やはり母さんがいなくなってから共感力が強くなったのだろうか。一人で僕らを育ててきた母さんが不慮の事故で亡くなったあの日、何も分かっていないであろうアンナが僕をじっと見て、わっと泣き出したのが始まりだった。そんな姿を目の当たりにし、僕はどんな手段を使ってもアンナを守ろ

          鏡顔|#毎週ショートショートnote |1分

          笛注意報|#毎週ショートショートnote |1分

           太陽が昇り切ったころ、俺は彼の自宅に望遠鏡を向けた。口の中のフエラムネを「ピー」と鳴らして、カーテンの隙間から室内の様子を窺う。彼は家族で昼食を楽しんでいるようだ。この様子はメモに残しておく。  まだ安心することはできない。自宅から出てきた彼を追いかける。すると、駅の改札内で、彼は誰かに因縁をつけられていた。激しく言い争いをしており、駆け付けた駅員に仲裁を受けている。俺が、この様子をメモしようと思った、そのときだった。 「ピー」  フエラムネが意図せず鳴ってしまったのだ。

          笛注意報|#毎週ショートショートnote |1分

          報告|日本証券業協会×note公式コンテスト「#お金について考えていること」に入賞しました

           こんにちは。新下彗と申します。  タイトルのとおり、本日、日本証券業協会×note公式コンテスト「#お金について考えていること」の審査結果が発表されたところ、私のショートショートが入賞作品に選ばれました。  上記発表によれば、3,063もの作品の中から選んでいただいたとのことでして、とても驚いています。そもそも小説の形式でも、本当に選ばれるんだ、と感動しました。私としては、公式コンテストの賞どころか、何らかの賞をいただくという経験も人生初です。自分には無縁だと思っていた「

          報告|日本証券業協会×note公式コンテスト「#お金について考えていること」に入賞しました

          道に落ちていた二重人格|#毎週ショートショートnote |1分

          「非常に申し上げにくいのですが、結果は『こんな奴で大丈夫なのか?』、『結婚を止めておけばよかった』と出ました」  その感拾師の回答は意外なものだった。  人間誰もがその時々に特定の感情を持ち、その場所に落としていくものだ。最近話題の感拾師の仕事は、こうした感情を拾い上げ、依頼主に伝達することである。  私の父は生前、あまり感情を表に出さず、私からの結婚報告を受けても何も言ってくれなかった。その父が亡くなった今、彼が私の結婚をどう感じていたのか確認したくなり、私は感拾師を

          道に落ちていた二重人格|#毎週ショートショートnote |1分

          第6話:俺の行方|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|2分

           この小説は、第6話です。  第1話~第5話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。  俺は、これからどうなるのだろう。  カレーの料理対決に負け、俺は別室に連れてこられた。  拘束は解かれないまま、体感では数時間が経過している。  あの男――大食い対決と料理対決に勝った男――は、このゲームをクリアしたのだろうか。  そんなことよりも……  俺は、これからどうなるのだろう。  こんな不条理なゲームでも勝ちようはあ

          第6話:俺の行方|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|2分

          第5話:道のり|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|4分

           この小説は、第5話です。  第1話~第4話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。  俊英と結婚してから10年。  子宝にも恵まれた。俊英の一字をとって、俊太と名付けた。  俊英は、私にとって勿体ないくらいの夫だった。  大好物はナポリタン。俊英は、私の作るナポリタンが、実家の味によく似ていると言い、いつもたくさん食べてくれた。  家事も積極的に手伝ってくれた。俊英の作るカレーは、具材が大きく、隠し味のハチミツも

          第5話:道のり|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|4分

          第4話:最終|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|2分

           この小説は、第4話です。  第1話~第3話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。  望みは繋がった、そう信じるほかない。香織と俊太は心配してないだろうか。  そんな思いを余所に、ゲームマスターが口を切る。 「次が最終ゲームです」 「……やっとか。何をさせられるんだ?」 「質問に答えていただきます」 「質問? またクイズか……。問題は?」  すぐに返答はない。  ゲームマスターは、部屋の隅に積まれた箱から、一枚の紙

          第4話:最終|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|2分

          第3話:望み|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|3分

           この小説は、第3話です。  第1話と第2話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。  料理対決も、俺が勝った。  カレーの大食い対決勝利者は、俺の作った料理の方を選んだとのことであった。  料理には自信がなかったが、小学生が好みそうなものを考えてみた。そうすると、具材を大きめに切ってはどうだろう、隠し味にハチミツを入れてはどうだろうと、いくつかのアイディアが浮かんだ。  ゲームマスターは、ピストルのようなのものを持っ

          第3話:望み|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|3分

          第2話:次戦|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|3分

           この小説は、第2話です。  第1話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。  大食い対決は、俺が勝った。  ナポリタンを食べるのには、それぞれ支給された用具を使用しなければならず、素手は禁じられていた。  俺はフォークを手に入れたので、余裕の勝利かとも思った。しかし、隣の男も、粘っていた。ナイフの刃の方を掴み、皿に口をつけ、かき込むように食べたのだ。しかし、隣の男の勢いは、徐々に衰え、結局、俺は危なげなく勝利したので

          第2話:次戦|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|3分