第6話:俺の行方|不条理なゲームに巻き込まれた俺の行方|2分
この小説は、第6話です。
第1話~第5話を先にお読みいただきますようお願いいたします。下記の目次等をご利用いただくと便宜かと存じます。
俺は、これからどうなるのだろう。
カレーの料理対決に負け、俺は別室に連れてこられた。
拘束は解かれないまま、体感では数時間が経過している。
あの男――大食い対決と料理対決に勝った男――は、このゲームをクリアしたのだろうか。
そんなことよりも……
俺は、これからどうなるのだろう。
こんな不条理なゲームでも勝ちようはあった。俺は<もしも>の世界に思いを巡らせる。
ここに連れてこられた日。
俺は、昼から酒を飲みながら、つまみや菓子を食べていた。
嫁がもうすぐ夕飯を作り始めると知っていたのに――。夕飯のために、腹を空かせていたら、結果は変わっていたのかもしれない。
あの料理対決だって、そうだ。
少し前までは、俺も料理を手伝うことがあったのだ。しかし、最近では、嫁に料理を任せっきりとなり、ろくに包丁も握らなくなった。
息子と同じ小学生の好み? そんなの分かるわけがない。
こうなってしまったのも、全部あのときからだ。
1年前、俺のよそ見で起こした交通事故。俺は、被害者に謝ることからも逃げ回り、嫁に全て対応してもらった。
そんな自分が嫌になった挙句、日中から酒に浸り、家事も手伝わなくなったのだ。こんな状況になってはじめて、自分が悪いと理解できる。
ああ、俺が家族を、今の生活を、しっかり愛していれば――。
俺がいなくなったら、家族は悲しんでくれるのだろうか。
後ろから誰かが近付いてくる。俺は身動きが取れないまま、何かを嗅がされる。
そこで、俺の意識は途絶えた。
◆
目が覚めると、自宅リビングのソファーに寝転がっていた。
「起きたのね、もう夕食の準備はできているわよ」妻の声が聞こえる。
あれは、夢だったのか……?
卓上に目をやると、大盛りのナポリタン。あの<青い皿>。
「タバスコ使うわよね? ほら、健斗も早く!」
「は~い」健斗がゲームを止めて、食卓につく。
「いただきます」そう言う二人に、俺も遅れて続く。
そのまま一口すする。今度は、ちゃんとフォークを使って。
――あの味だ、あの<青い皿>の味
本当に自分が嫌になった。
――いつも最初から目一杯タバスコをかけていたから、嫁のナポリタンの味が分からなかった
「あのさぁ」健斗がこちらを見ずに言う。
「悪くなかったよ、カレー。また作ってよ」
きっと、あの男は元の世界に戻れたのだろう。
俺も――。あの不条理なゲームに巻き込まれた、この俺も、元の世界に戻れるだろうか。
(了)
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