自己紹介草|#毎週ショートショートnote|1分
磯の香りが漂う場違いな空間の中で、その草は勇気を振り絞った。
「はじめまして。草です。よろしくお願いします」
しかし、誰もその自己紹介に返答しない。それどころか、何も言わずに、その場から次々といなくなる。そして、ついに残ったのが草だけとなった。
――みんな海に帰ったのかな? 無事に着くと良いな。
魚たちの安全を祈念した直後、草のいたプラスチック容器は閉じられ、高いところから落とされた。真っ暗闇の中、そこで草はただひたすらに新たな出会いを待った。
それから数日が経過しただろうか。草は路上にいた。
半透明のゴミ袋ごしに、ぼんやりと仲間の姿が見える。
「はじめまして。ぼくも草です。よろしくね」
「あんたは草じゃないよ」
アスファルトの隙間から生えた本当の草が返答したものの、清掃員がちょうどゴミ袋を持ち上げたところだったので、その言葉が草の耳に届くことはなかった。
たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。いつもご企画ありがとうございます。
春になってきましたね。早く暖かくなってほしいです。
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