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映画についての極私的な文章

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僕が観た映画と日常の関係性について極私的に。
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WKWKWKW…… / ウォン・カーウァイ・カーウァイ・カーウァイ……

WKWKWKW…… / ウォン・カーウァイ・カーウァイ・カーウァイ……

王家衛、ウォン・カーウァイ、WKW……。いろいろな表記がなされるけれど、全て同じ人物を表している。いかつい黒眼鏡がトレードマークの香港の映画監督だ。『花様年華』『ブエノスアイレス』『天使の涙』『恋する惑星』『2046』『欲望の翼』……と彼の代表作は、それぞれがひとり立ちをして走り出してしまうほど名の通った作品が多いけれど、彼の作品群は共通して物語が優れて面白いわけではないけれど、共通して画にエレガ

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【第1回】誰にも教えたくない映画:『ジュラシック・パーク』

【第1回】誰にも教えたくない映画:『ジュラシック・パーク』

自分の感覚が震えるような映画を見たときは、誰にも教えずに自分の中に大事に留めておきたくなる。自分だけがその映画について知っている特別感に浸っていたいと思う。その一方で、自分の感覚が震えるほどよかったのだから、そんな衝撃作について口を開かずにいるのは難しい。何がよかったのか、どうよかったのか、誰かに話したくなってしまう。そんな葛藤を自分の中で繰り広げ、結局はぺらぺらと方々で話してしまう。映画というの

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オオナリ・ミーツ・ハマグチ

オオナリ・ミーツ・ハマグチ

某カフェ(以下「Kカフェ」とする)の階段を上り、Bランチ(カレー)とアイスライチ茶を注文し、いちばん奥のカウンターに座ると、マスターはどうやら鼻声だ。風邪か、花粉か、鼻炎か。最近は昼と夜の寒暖差が激しい。体調を崩すのも仕方がないですよね…なんて話していると、マスターがあることを告げた。どうやら濱口竜介がこの後Kカフェにやってくるらしい。偶然だ。

濱口竜介というと、映画監督であり、それもただの映画

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トム・クルーズに幸あり。

トム・クルーズに幸あり。

僕が『トップガン・マーヴェリック』を楽しみにしていたのは、そこいらで「トップガンよかった!」なんて言っている輩とは比べものにならぬほど昔からだと自負しており、それは高校3年生の頃……つまり4年前まで遡る。ちなみに、『トップガン』というのはトニー・スコット監督が1986年にトム・クルーズを主演にして撮った名作であり、エリート・パイロット(戦闘機乗り)を育てるための機関の名称だ。

当時上映していた『

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ジャズ大名

ジャズ大名

時は19世記、舞台はアメリカ大陸。当時の日本だとアメリカのことを「メリケン」って呼んでいたらしい。そんな時代に、南北戦争で解放された4人の黒人奴隷がそれぞれ楽器(クラリネット、トロンボーン、トランペット(のようなもの)、スネアドラム)を持ち、ジャズを演奏しながら、先祖代々が住んでいたアフリカ大陸へ帰ることを夢見て歩いている。4人の黒人の会話は日本語で吹き替えられている。字幕をつけるのが面倒だったの

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フランス時代のルイス・ブニュエル:『欲望のあいまいな対象』

フランス時代のルイス・ブニュエル:『欲望のあいまいな対象』

 もし僕が四条河原町を歩いている時、夕方のニュース番組のカメラに捕まって、「映画史における奇才を3人あげよ」と言われたら、僕はデヴィッド・リンチとアラン・ロブ・グリエとルイス・ブニュエルの名前を挙げることだろう。
 リンチと言えばカルト映画で、カルト映画といえばリンチである。『イレイザー・ヘッド』で鮮烈なデビューを果たし、現在はYouTubeで天気予報だとか数字占いだとかよくわからないことをやって

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映画作家としての北野武:『その男、凶暴につき』

映画作家としての北野武:『その男、凶暴につき』

 ビートたけしといえば、ピコピコハンマーを持ったコマネチのおじさん。物心がついた時からこのイメージは強固に結びついていた。いつもふざけていて、ひょうきんで、キャラクターのようなおじさんだと思っていた。
 ハリウッド・ザ・コシショウがたけしのモノマネをするらしい。「なんかいいと思ったら、黒澤さんのアングルなんだよなぁ」というモノマネは、ビートたけしの方じゃなくて北野武の方の真似をするというのが味噌で

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愉快な強盗物語には心が踊る:『黄金の7人』

愉快な強盗物語には心が踊る:『黄金の7人』

 日本の場合、刑法235条によると、他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとのことだ。人のものを盗んではいけませんと言われながら育ってきた。日本に限らず、人間の共通認識として、盗みは絶対的な悪なのである。
 しかし、それでいて、物語という虚構の中であれば、窃盗という行為は美化され、許容され、しかも望まれてすらいるのではないか。フランスの小説家、モー

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可視による不可視の表現:『透明人間』

可視による不可視の表現:『透明人間』

 映画狂御用達のホラー映画監督、ジョン・カーペンターのレトロスペクティブが現在、全国的に開催されている。1月7日にこのレトロスペクティブは封切られ、順次全国を巡回している。土地によってはもうすでにこのレトロスペクティブ上映が終わっているところもあるのかもしれないが、まだ始まってすらいない地域もあるだろう。ちなみに、レトロスペクティブというのは、あるテーマ(今回のように映画監督がテーマになることが多

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トリュフォーのやりたい放題:『私のように美しい娘』

トリュフォーのやりたい放題:『私のように美しい娘』

 『私のように美しい娘』は、フランスにおける映画の革命的運動、すなわちヌーヴェル・ヴァーグの旗手であるフランソワ・トリュフォーが、1972年に撮った、13作目の長編映画である。
 この映画で主演を務めるベルナデット・ラフォンは、自らの美貌を求めてやってくる男たちを1人ずつ、時にまとめて退治してゆく。その様は、トリュフォーの映画群が持つ、上品で崇高で美しい印象はあまりないのだが、程よく下品であばずれ

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愉快な映画を観たいでしょ?:『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス、イヴニング・サン別冊』

愉快な映画を観たいでしょ?:『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス、イヴニング・サン別冊』

鮮やかな色彩を持ち、愉快で小気味よく、テンポの良い軽やかな映像で不思議な世界観を表現した『グランド・ブダペスト・ホテル』の監督ウェス・アンダーソン。彼の最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス、イヴニング・サン別冊』は2022年の1月28日(金)に日本で公開された。僕は可能な限りいちばん早い上映回でこの映画を観たいと思ったので、公開日の午前中、京都シネマへと趣き、最前列中央に席を

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映画の話がしたいだけなのよ:「映画部 気泡」

映画の話がしたいだけなのよ:「映画部 気泡」

 映画の話をしたい。誰かと一緒に映画を観に行って、その後、飲み屋とか喫茶店に入って、映画の感想を言い合うというのはよくあるベタな夢なのかもしれない。が、基本的に独りで映画を観に行く僕は、誰かと一緒に映画の話をするということを夢見ている。
 といっても、60年代の古いヨーロッパの映画だとか、タイトルが太く赤い筆文字で書かれていた頃の日本映画を好む僕の映画的趣味趣向は捻くれており、現在の若者の一般的な

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濱口竜介、「言葉」と「乗り物」のイメージ:『永遠に君を愛す』

濱口竜介、「言葉」と「乗り物」のイメージ:『永遠に君を愛す』

 「言葉と乗り物」というテーマでこれまでの作品が特集上映されている濱口竜介は昨年、『ドライブ・マイ・カー』と『偶然と想像』という2本の映画によって、世界へと躍進した。そんな濱口竜介の過去の作品(学生時代に8mmフィルムで撮られた『何食わぬ顔』を含む)を観る機会が目の前にぶら下がり、映画に狂っている僕は、この機会を逃すわけにはいかぬという使命感を感じながら、出町座へと出かける。

 『永遠に君を愛す

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赤く太い筆文字で題名が描かれていた頃の日本映画

赤く太い筆文字で題名が描かれていた頃の日本映画

 よく日本の映画を観るようになった。2022年に入ってからの鑑賞映画本数を数えると、28本(1月19日現在)。うち18本は日本の映画で、さらにそのうち11本が1950~60年代の映画だ。こうした映画のほとんどのポスターは、赤く太い筆文字で、力強く題名が描かれている。

 ぼくが古い日本映画に惹かれる理由はなんだろうか。自分でも良くわかっていはいないのだけれど、考えたら理由はいろいろと出てくる。

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