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読んでない本の書評

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表紙見て、あとがき読んで、数行目を通したら、だいたいわかる気がしてきた。 より深く理解するために、重さも測ることにする。
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#小説

読んでない本の書評61「その女アレックス」

読んでない本の書評61「その女アレックス」

241グラム。表紙の絵が怖い。怖いので裏返しにして視界に入らないようにしておく。それでも怖い汁が空気中に染み出るような気がするので、夜は部屋の外に置いたりする。いい年して何をやっているのか。

 朝からすごい勢いで雪が降っていたのである。この様子では積もり具合をみながら、暖かい部屋と寒い外を出たり入ったり何回かにわけて雪かきをしなければならないだろう。そういう日にむくのは、少々疲れても、眠くなるす

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読んでない本の書評57「愛のゆくえ」

読んでない本の書評57「愛のゆくえ」

148グラム。原題はThe Abortion:An Historical Romance 1966、『堕胎 歴史的ロマンス1966』だそうだ。
『バッファロー'66』という映画も、だめな人のところにいきなりグラマーなかわいこちゃんが来る話だった。アメリカの1966年って同時多発的にグラマーガールが巷にやってきた年なんだろうか。

 裏表紙の説明によるとこんな内容である。
「ここは人々が思いを込めて

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読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

168グラム。一話あたり18.666グラム前後だが、バナナがたくさん含まれる。

 まだライ麦畑でつかまりそうなくらいの年だったころ、その年頃にしては珍しくちょっと賢そうな男の子が同級生にいたのだ。
「アメリカの作家は好きだよ、サリンジャーとか」などと言ってるのを聞き、ほほお、と思った私は古本屋でサリンジャーを探しだして読んだ。
読み終わって、ふふうん、と思い、それきりちょっとばかり賢そうだった彼

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読んでない本の書評51「夏への扉」

読んでない本の書評51「夏への扉」

188グラム。もちろん中を読まずに、表紙の猫の後頭部を見つめる用途専用に使うのにも適している。

 自動掃除ロボットのルンバを見かけると、なんとなくいちおう値段をチェックしてしまう。購入を検討したことこそないが、「自分では買わないが、誰かが急にくれたらはしゃぐ」系家電のトップ10に入るのではないか。

 我が家は猫が二匹暮らしている都合上、とにかく掃除機をかけるのに手間がかからない部屋になってる。

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読んでない本の書評46「キャロル」

読んでない本の書評46「キャロル」

234グラム。なかなかボリュームのある青春恋愛小説と思って読んでいたら途中からまさかの大陸横断ロードノベル。

19歳のテレーズと美人人妻キャロルの恋物語。
 巻末の解説によれば「『キャロル』が発表された1951年はマッカーシズムの赤狩り旋風が吹き荒れるまっただなかであり、同性愛者もまた、国家の人間の健康を心身ともにむしばむ、犯罪予備軍とみなされ、苛烈な弾圧を受けていた時代でした。」
 当初は別

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読んでない本の書評45「幽霊たち」

読んでない本の書評45「幽霊たち」

93グラム。世代が世代なのでニューヨークのゴーストと言えばろくろを回すもんだと思っている。

 読んでいると、少し羨ましくもなる。ある日突然ドアを開けて入ってきた謎の依頼者に、一人の男を監視する仕事を頼まれてみたい。ターゲットの真向いのアパートも手配済みなので、ただそこに移り住んで窓越しに見ていればいいだけだ。
ただし監視対象は机に向かって書き物をする以外にはほとんど何もしない。ひどく退屈なので

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読んでない本の書評43「潮騒」

読んでない本の書評43「潮騒」

113グラム。焚火を飛び越えねばならぬので。

 いい加減アイドル映画としてこすられ過ぎた後なのでさすがに陳腐化しているだろうというつもりで読み始めたら、ひさしぶりに読むミシマはやっぱり嫌みなほどうまかった。

 たとえば恋のライバル安夫が、我らが初江ちゃんを深夜に手籠めにしてしまおうとする場面。普段から自慢にして、女にもてるために持ち歩いている夜光腕時計のおかげでイザってときにハチに襲われみっと

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読んでない本の書評42「恐るべき子供たち」

読んでない本の書評42「恐るべき子供たち」

94グラム。ある地域に次々と危険な性質をもつ子供が生まれて一帯が大混乱におちいる怪奇小説かな、と思ったら意外にも結構おしゃれな小説。おまけに子供も出てこない。

 虚弱体質を理由に教育も途中でやめさせ、仕事もさせず保護者もないまま金だけ与えてぶらぶらさせておいたら恐るべき子供たちが仕上がった、と言われても、そりゃだいたいそうなるでしょう、と思うのではあるが、それはさておきサクマドロップの缶をひっく

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読んでない本の書評41「センセイの鞄」

読んでない本の書評41「センセイの鞄」

150グラム。いい加減おとなになってからの恋愛は、重すぎても軽すぎてもどうかしてる人みたいな感じになるものなので。 

距離をつめるのが苦手な二人の間で奇跡的にも恋愛がはじまり、そしてまっとうできてよかったよかった。
というのはさておき、私はどうもセンセイの「妻だった者」のほうが気になるのである。かわいい。

 たいして乗り気でもないセンセイを週末のハイキングに連れ出して、いきなりワライタケを食

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読んでない本の書評31「高丘親王航海記」

読んでない本の書評31「高丘親王航海記」

 134グラム。表紙だけでやけに画数が多すぎるわりには思いのほか軽い。

 澁澤龍彦という人が、ある時代の何かのカリスマであることは薄々知ってはいたが、どの時代をどんな風にけん引したのかについてはトンと知らなかった。ただ検索してみて、毛深そうな字面のわりに案外中性的につるんとした人なんだなあ、と感心した次第である。人間は意外性に満ちている。

「唐の咸通六年、日本の暦でいえば貞観七年乙酉の正月二十

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読んでない本の書評27「イワンのばか」

読んでない本の書評27「イワンのばか」

121グラム。人類の一大理想が今ならたったの121グラム。

 高校生の時。教室の一隅で弁当など食べながらトルストイの「クロイツェルソナタ」を読んでいた(恥ずかしい)。
 古文のスダ先生がすーっと近づいて「何読んでるんだ」と声をかけてくる。トルストイ面白いか、と聞かれた私はたぶん「ドストエフスキーのほうが好き」というようなことを答えた(恥ずかしい)。スダ先生は「うん、あいつは問題意識が足りないな」

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読んでない本の書評19「杜子春・南京の基督」

読んでない本の書評19「杜子春・南京の基督」

 156グラム。芥川龍之介は美文すぎて読もうとしても目が滑ることが多い。その分いったん入り込めば、美文すぎて気持ちがいい。いずれにしろ美文すぎやしまいか。

 中学生の頃「何も言えなくて…夏」という歌が流行った。中学生という落ち着きのない年齢をもってしても
「さすがに恥ずかしすぎるのではないか」
と思ったものだ。歌詞も注意して聞くとタイトル以上に恥ずかしい。それでも、綺麗な声で雰囲気がよいので聞き

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読んでない本の書評18「わたしを離さないで」

読んでない本の書評18「わたしを離さないで」

 253グラム。文庫としてはボリュームのある方だが読み始めるとほんとうに離してくれなくなる。寝る前に読み始めるのは危険。

 7歳のころ。通学路にパチンコ屋さんがあった。今みたいなやけくそ気味の大型店ではなく、考えてみればわりと小さな店舗だ。そのすぐ前に押しボタン式の横断歩道があり、その日私はひとりでそこを渡ろうとしていた。パチンコ店を横目にしながらボタンを押した瞬間に、急にその気持ちがやってきた

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読んでない本の書評15「猫と庄造と二人のおんな」

読んでない本の書評15「猫と庄造と二人のおんな」

111グラム。タイトルの成り立ちからすると数字は1、1、2と並ばねばならぬのに1グラム足りないのが悔やまれる。と思ったがよく考えてみればこれが正しいようでもある。

 外から見てばかばかしく映るのを承知でなぜ人が猫を溺愛するのかといえば、自分より弱い生き物に邪心なく必要としてもらわねば人生で正気を保っていけないからである。猫を猫かわいがりしている人の精神は脆い。我が家の猫に聞いてみればよく知ってい

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