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読んでない本の書評57「愛のゆくえ」

148グラム。原題はThe Abortion:An Historical Romance 1966、『堕胎 歴史的ロマンス1966』だそうだ。
『バッファロー'66』という映画も、だめな人のところにいきなりグラマーなかわいこちゃんが来る話だった。アメリカの1966年って同時多発的にグラマーガールが巷にやってきた年なんだろうか。

 裏表紙の説明によるとこんな内容である。
「ここは人々が思いを込めて綴った本だけを保管する、不思議で特別な図書館。三年ものあいだ外に出たことがない住み込みの図書館員は、ある夜訪ねてきた、完璧すぎる容姿に悩む絶世の美女ヴァイダと恋に落ちた。やがて彼女は妊娠するが、ふたりは中絶することを決める。そしてメキシコへと赴くが……。」

 図書館の管理の描写はほんとうに充実している。誰も読まれることなくやがては洞窟に運ばれ保管すらされない本にすべて几帳面な目録をつくる。どんなおかしな著者のおかしな本にも分け隔てない敬意を示し、疲れた人にはコーヒーとクッキーを出すし、取り乱している人にはポケットからミルキーウェイを出して気持ちを和らげる。いつ誰が本を持ち込んでくるかわからないので決して留守にしない。報酬は一文たりとも出ないかわりに食料だけは運んでもらえる。胎内を思わせるような過不足のない空間だ。

 そこに降ってわいたように美女がやってきて妊娠。三年ぶりにはじめて図書館を留守にして堕胎のために旅に出る。その章は不思議なことに「わたしの三つの堕胎」という題がついている。恋人ではなく、図書館員自信が堕胎したかのような言い方。それも自分の恋人のぶんだけではなく、その日部屋にいた三人の患者すべてのぶんを、図書館員が経験したかのように聞こえる。
 堕胎を終えて旅から帰ってみると、図書館員の座には別の人が座っており、もうその仕事には戻ることができない。図書館という胎内世界にはもう居場所がない。

 それから数か月たって、二人は家を借りて住んでいる。恋人のヴァイダはトップレスバーで働きながら大学に戻るためのお金をためている。自分の身体と和解できたのみならず、生きるために積極的に活用する術まで身に着けているのだ。
  元図書館員も、外の世界でなにか居場所を見つけたらしい。「わたしがバークレーで英雄になるだろうといったヴァイダの言葉は正しかった。」という。しかし、なんだか他人事みたいな言い方だ。図書館について語った熱と量に比べたら「英雄」についての説明が漠然としていて、なんだかよくわからないし、異様にあっさりしている。

 「大人になれてよかったね」ということにはなるのであろうが、寂しいことでもある。あの図書館では、ダメかなあ。ずっと図書館員ってわけにはいかないんだろうか。あんなに素敵な図書館だけど。

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