読んでない本の書評15「猫と庄造と二人のおんな」
111グラム。タイトルの成り立ちからすると数字は1、1、2と並ばねばならぬのに1グラム足りないのが悔やまれる。と思ったがよく考えてみればこれが正しいようでもある。
外から見てばかばかしく映るのを承知でなぜ人が猫を溺愛するのかといえば、自分より弱い生き物に邪心なく必要としてもらわねば人生で正気を保っていけないからである。猫を猫かわいがりしている人の精神は脆い。我が家の猫に聞いてみればよく知っている。
タイトルは「全員片思いゲーム」の参加者だ。それぞれ頓珍漢なものを欲しがっていてかみ合わない四者の駆け引きだが、実際のところ庄造は単なる旗印である。一見中心にいるように見えるものの、おろおろする以上のことは何もしない。どの愛情を守り育てるかの選択も一切しないままに風に吹かれている。
結果、手放した猫を盗み見に行ったところで先妻と鉢合わせしそうになり大慌てで逃げ出すが、帰る我が家も鬼が島。いろいろライフイベントあった中で自分の居場所を作り出すのに失敗したのは庄造ひとりだ。
四者参加するゲームの開始を告げる果たし状からはじまる物語は、一匹と一人と一人で幕引きになった。ひとりはじき出されて終わる111グラムなのだ。
ところで、リリーという名前。純白の猫かと思ったら「べっ甲猫」と書いてある。今でいうところのサビ猫らしい。
かわいらしいのは信じるが、茶色に黒ぶちの飛んだ柄の子猫をもらってきて「リリー」と呼んでしまうというのも、たいがい浮かれた人である。なんとなく隠居おじいさんのイメージで読んでいたら30歳の青年だったのでたいそう驚いた。脇の甘そうな青年である。
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