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小説 時計仕掛けのパリピ

以下嘘である。

ふと、パリピを捕まえて拷問することにした。

彼らに罪はない。

だが誰しも、こう思ったことはないだろうか。
「パリピの虚無感ってのがあるなら見てみたい」
僕は時々思う。

彼らは隙を見せない。

彼らだって、朝家に帰って一人でベッドになだれ込んでから泥のように眠る前に、酔いが覚めるときがきっとある。
だがその時、彼らは一人。
次にパリピが人前に姿を現すとき、やはり彼らはパリピなのである。


いつかパリピを上がるその時まで、いや上がってからも本質的には、そのパリピ人生を振り返り後悔することさえ、許されないのだ。

こうして僕は、パリピがパリッピってる時間を後悔するところが見てみたいと思った。

以下はその興味から来る拷問、もとい実験の記録だ。

僕はスーパーの帰りにパリピのオスを捕まえた。
実験を思いついた次の日の昼だった。

「あれケン汰の!?だよね!前イベントで一瞬見かけたっしょ何してんの!?」
もちろんケン汰なんて知り合いは僕には居ない。

「いまからウチでイベントの打合せしてんの!そうみんなと!来たらいいじゃん!」

ホイホイ着いてきた。

完璧だ。スピードと勢いが大事だ。躊躇してはいけない。

かくしてパリピのオスをうちに運んだ。
入ってからはもうこっちのものだ。
彼が辺りを見回してる2秒間で気絶させた。眠ってる間に、今回使う実験室にパリピを運び直す。
トイレつき、水と食料が裏から補充される冷蔵庫つき2畳の個室だ。
おとなしく座ってくれるかは分からないが椅子もある。

ここで外側から鍵をかけ、僕がモニター室に移ったところで、彼を起こした。
モニター室の音響を操作し、大音量でEDMを流す。

一応気絶なので2曲くらいは要るかなと思ったらどうだろう!
彼は一曲目の頭のドゥンドゥン↑↑wwの2回目のドゥで飛び起き躍り始めた。

何て生きのいいパリピなんだ!!!!!!!!!!!

僕は山王戦の安西先生よろしくブルッ!!となっていた。

だがこのパリピもアホではないのか、異変に気付く。
「なんだよここはあ!!!!!」

モニター室のマイクから僕の声を届けることは出来るが、こいつがここから出られないことを意気揚々と解説するような趣味もないので、実験に移った。

ちょっと大き目かな?くらいの音量で、事前に僕が自分の声で録音しておいた、
「クラブぅ、イベントぉ」
とBGMも無しに繰り返すだけの音声を、一切の絶え間なく流し続けた。

ちょっと大き目かな?くらいの音量、というのがポイントだ。
音量で耳がイカれたら、、音声の内容が意味をなさなくなってしまう。

かくして、このパリピのオスは最低限の食事と排泄だけは保障された2畳の個室で、延々と「クラブぅ、イベントぉ」という音声を聞き続ける生活が始まった。



3ヶ月が経った。

パリピのオスは起きている間中、泣きながら
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と壁に向かって喋っている。

最低限の食事と水分のおかげで、案外喉は枯れていないようだ。よかった。

この3か月間、10日に一回くらいは様子をみることにしていた。

案外、1か月目まではこのパリピは壁を殴る蹴る、叫ぶなど、アグレッシブな動きを見せた。

ただ、見たかったのは後悔するパリピ、パリピの虚無だったので、2か月目はモニター室に出向くこともなく、僕も僕で普通に日常を過ごしていた。

3か月が経ったので、さすがに見ごろかなあと思ってモニター室にいってみたらこれである。

機は熟した。

僕はモニター室から実験室のスピーカー越しに質問をする。

僕「調子どう?」
パ♂「ごめんなさい僕が悪かったです許してくださいぃぃぃぃ!!」

僕「怒ってないよ?どしたい?」
パ♂「ここから出たいですうぅぅう!!」

僕「どして?」
パ♂「ここにいたらあの忌まわしい黒歴史のパリピ時代を思い出してしまいますううう!!!」

僕「楽しかった思い出じゃないの?」
パ♂「全くですうううう!!!パリピなんて全く楽しくないですうう!!
静かに生きていきたいんですうう!!!」

僕「久々に人間の声聞いたでしょ?案外今嬉しいんじゃない?」
パ♂「全くですうう!人と話すのも盛り上がるのももう嫌ですう!」

僕「出てどうすんの?」
パ♂「田舎で農家としてやとってくれるとこ探すですう!!そこで、都会の音が一切入らないところで静かに暮らしたいですう!!」

僕「イベントもクラブもないよ?地域のお祭りとかを楽しむの?」
パ♂「もっと限界の、食っていけるギリギリの田舎でじじばばの手助けをするですう!お酒も女ももう嫌ですう!!」

僕「そっかあ、マイさん、おねがいしますー
マイさん(以下マイ)「は~い!」

マイさんとはうちの家政婦である。若くてとても美人だ。
先に、最低限の食糧と水が冷蔵庫に裏から支給されると言った。これは、マイさんが作っている。最低限といっても、バルとかで出てくる料理じゃないだけで、栄養バランスの整った、わりと美味しいのを出してくれていた。
マイさんは元怪盗なので、どんな人種にも成りきることが出来る。
僕は事前に、今回はパリピ♀モードでお願いします、と伝えていた。

マイ「マイでーす!」
マイさんが実験室の扉を開ける。
パ♂「ほ、ほへえ・・・???」

僕は驚いた。

3か月禁固されたパリピのオスが、目の前にパリピのメスが現れたのに、飛びつかないのである。
マイさんのおかげで、身体は健康なはずなのに、である。
パリピ♂君の体は拘束していない。もしものことがあっても、マイさんは元怪盗なので、1秒もかからず彼をノックアウトすることが出来るからだ。

マイ「パリピく~ん、3か月間ご飯、おいしかった?あれ私がつくってたんだ~♡さ、ここの2回にお酒もジャンクも用意したから、一緒にパーティしよ?」
パ♂「そうだったんですか・・・ありがとうございました。でも僕はもう、パーティもイベントも嫌になってしまったんです。マイさんのお誘いも、申し訳ありませんグウエエエ!!!!」

パリピのオスは嗚咽と共に、本当に不快そうな表情で拒否した。

僕「お~いパリピ君、マイさんと好きにしてもいいんだよ?パーティしてもここから出してあげるし、なんならパリピ友達も集めようか??」
パ♂「本当に嫌なんですううう!!!!僕は静かに生きていきたいんですうう!!!!もうパリピ時代を思い出させないでくださいい!!!

僕「マイさんは僕の恋人でもないから手をだしていいよ?もっとも陰キャの僕なんてマイさんは相手にしないだろうし」
マイ「そうそう!あんな陰キャよりパリピ君と楽しいことしたーい!!」
パ♂「グヘエエエエエエ!!!ゲホホホィィヅィドオオオ!!許して・・・」

承認欲求を煽っても、不審感を解いてもパリピのオスは誘惑を受け付けなかった。

そこから、マイさんにちょっと攻めた誘惑もしてもらったが、パリピは不快感を表すだけだった。

どうやら本当にパリピなことが嫌になったらしい。
どうやら本当に、パリピ時代を悔いているらしい。

そこから2か月放置した。

2か月後、モニター室で確認してみると、もうパリピのオスは発狂してもいなかった。

記録を見ると、この二か月、かれはただ天井を見上げ呆然としていた。

食事をとらないことで衰弱されても困る、ということで、マイさんが規則正しい時間に警報を鳴らすと、一応食べていたようだ。
マイさん、ありがとう。

二か月前と同じ誘惑をかましてみた。
彼は虚ろな目で、
「はい・・・はあ・・」
と答えるのみだった。

これは、虚無だ。

ここを出てどうするか聞いてみた。

「静かに・・・生きたい・・・」

僕が時折ぽろっと
「イベント?」
と呟くと、椅子に逆向きでまたがり、頭を背もたれに押し付け、よくそんな力が残っていたなという感じで、首をNO!NO!て感じで横に振りまくっていた。

マイさんにモニター室に来てもらい、考察を出し合った。

・パリピの♂は虚無感を抱いている。
・身体は健康である。
・パリピの♂はパリピ時代を後悔している。
・彼の言葉に嘘は無く、もうパリピに戻ることもないだろう。

「パリピ君・・・と呼ぶのも彼に失礼かもしれないわね。元、をつけてあげましょ?」

十分な実験結果だった。

実験室から彼を出し、現金1000万を持たせて、解放することにした。

僕「ご協力ありがとね?田舎で静かに暮らしたいんだよね?手配して送ろうか?」
元パ「いえ、せっかくですが、自分の力で目指すことにします。こんな大金も頂いたことですし。
それに、本当にありがとうございました。この半年がなければ、僕は永遠にパリピのままだった。」
僕「永遠にパリピか、それも悪くないんじゃない?」
マイ「もう!いじわる言わないの!元パ君、元気でね?」
元パ「マイさん、毎日おいしくて健康的な食事をありがとうございました。パリピ時代への後悔で、ちゃんと味わえない日もありましたが、マイさんおおかげで、僕は生きることができました。
苦しみの中で、唯一の希望でした。これからは、苦しむ人たちへのマイさんの食事という存在に、僕がなってみたい。」
僕「絵手紙、まってるぜ」
マイ「ウフフ、こいつに食事を作るより100倍嬉しくなる言葉だわ。ありがとね?」

元パ「それではお二人とも、お元気で。」
僕「おう!元パもな!」
マイ「ええ!いつでも顔を見せにいらっしゃい!」

半年前と何も変わらないこの町を、この世界で最も変化を遂げたパリピのオス、元パが歩いていく。
その背中が、だんだんと小さくなっていく。

僕「実験、大成功でした。マイさん、ご協力ありがとうございます。」
マイ「協力は当然よ。私の実験の下準備だもの。」
僕「え?」

マイさんがスマホを取り出す。
マイ「みんなー!彼だよー、レッツパーリィ!こんな感じかな?送信っと。」
僕「マイ、さん??」
マイ「現役パリピ100人でクラブ貸切るイベント仕込んどいたの。私のオキニがパリピ上がり気味なんだけど、みんなの力でもっかい盛り上がろーっていう文言でね。さあ、実験開始よ!!!」

パリピ×100&どこからともなく現れ、どこからともなく大音量のEDMがこの町に響き渡る。

パ1「いえぇぇぇぇい!!!お兄さ~~~~~ん!マイのオトモダチ~~~~????」
パ2「ウチらでクラブゥ貸切ってぇ~!イベントするんだけど来るよねえ~~!!!」
パ×98「来るっきゃナイナイ↑ナイトオブナ~~~イツ!?!↑↑↑↑」

元パ「・・・・・・・」

僕「すごいな・・・元パ、さすがだ。直立不動!迷いすら見せない!」
マイ「ええそうね。迷いすらない。だけど・・・」
僕「だけど・・・??」

マイ「あなたは、パリピを知らない。

パ×100「あれあれお兄さんどした~?ノリわるくなーい?」
元パ「パリパリ・・・パリ・・・」
パ×100「????」
元パ「パリパリ・・・パリパリ・・・」

元パ「パリパリパリパリ・・・・・・レッツパリピ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! イエエエエエエエエエエエエエエエ~~~~~~~!!!
ウェ~~~~~~~イ!!!!!!!!


僕「!??!?!?」
マイ「ぶるっっ!!!実験・・・大成功よ!!!!!」

パ×100「お・お・お兄さん???」
パ♂改「ひ~~~っえ!ひーーーっえ!!パリパリパリピ!!!
パ×100「パリパリ・・・パリピ??」
パ♂改「パリパリ~~~???
パ×100「パリパリ??」
パ♂改「NON、NON!!パリパリ~~~~???パリパリ~~~??

パ×100「パ~~~~~リ~~~~~!!ピ~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
パ♂改「YEEEEEEEESSSS!!!!グレ~~~~イット・パリピ~~~!!
パ♂改&パ×100「イエ~~~~~~~~~っっっっイ!!!!!!

パリピに戻った彼、いや、パリピのオス改メ君は、100人のパリピたちと共に、都会の夜へ吸い込まれていった。

僕「なんたることや・・・・今回のおれの実験は、彼に出し抜かれたのか??」
マイ「気を落とすことはないわ。怪盗として世界中の人間を見てきた私が断言してあげる。あなたの実験は成功したし、私たちと別れるまでの彼の言動に嘘はなかった。」
僕「それじゃマイさん、あなたの実験が、いやあなたの誘導がそれらを全て塗り替えたと???
それならもっとすごい!!!人間行動学の新たなる発見だ!!!パリピがどうこうなんてどうでもよくなるくらい!凄すぎるよマイさん!!」
マイ「それも違う」
僕「!?」
マイ「私がすごいんじゃないわ。」
僕「じゃあ、どういう・・・」

マイ「言ったでしょう、あなたはパリピを知らないって。」

僕「僕が・・・パリピじゃ・・・ないから??」

マイ「そっ。そして私もね。」

僕「マイさんは完璧にパリピになれるじゃないか!」

マイ「私はパリピに化けただけ。私は元怪盗。何に化けたとしても、そのものに成ることはできない。」

僕「どんなに対象の人種を知っても、どんなに精巧に再現したとしても、、、自分がその人種じゃないと自覚する限り、、その人種達にしかわからないことが、、、ある、、、????」

マイ「ええそうね。」

僕「それじゃ・・・他者っていうのは永遠にたどり着けない未知の闇なのかな・・・」

マイ「ウフフっ。」

僕「僕は今落ちこんでいるんだよマイさん!!」

マイ「そうね。自分じゃ永遠に分からないことがある。だから実験をするんでしょう?あなたも、私も。」

僕「!!!!!」

マイ「私の下準備になったとはいえ、あなたの実験、おもしろかったわっ」

僕「マイさん・・・」

マイ「さ!お夕飯でも食べに帰りま・・・!!あら大変!今日は自分の実験の準備に夢中で、食材買うのわすれちゃったあ!!!」

僕「マイさん!」

マイ「??」

僕「今日はありがとう、スーパーでポテサラ買って、帰ろうか。」

マイ「・・・・・・やっぱあなたにパリピは無理ね」



夕方が夜に変わっていく時間、誰もが誰かの風景となって、ありふれたこの町の帰路を辿る。

二駅向こうの都会の方角から、風に乗ってEDMが聞こえた気がした。






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