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コマツシンヤ 『睡沌気候』 : 〈インドア派少年〉の 夢想コレクション

書評:コマツシンヤ『睡沌気候』(青林工藝舎)

コマツシンヤの第一作品集であり、2004年のデビュー作から4年間の短編作品と、本書刊行時である2011年の書き下ろしが収められており、その成長変化ぶりが一望できる。

コマツの「作風」については、先行のレビュアーが紹介しているので繰り返さないが、本書の特徴は、のちの『8月のソーダ水』や『午后のあくび』などのような同一主人公による連作短編集ではない、という点だ。
つまり、それぞれが独立した短編で、いろいろな傾向の作品が読めるという「おもちゃ箱」的な魅力がある。ことに、最近では描くことのなくなった、やや妖しい雰囲気の漂う初期作品も収録されていて、とても面白く興味深い作品集となっている。

作画的な面での上達・洗練ぶりは歴然としているものの、この1冊にはコマツが得意とする作品世界はすべて出揃っており、のちの『8月のソーダ水』や『午后のあくび』などは、この作品集に収められた短編の拡張版だと言えるだろう。

個人的には、今では描かれなくなったということもあって、前述の「妖しい雰囲気の漂う初期作品」(「酔牙」「泥鰻」)の「昭和的かつ無国籍な世界」にかなり惹かれてしまうし、できれば同傾向の作品をまた描いてほしいとも思うのだが、なにしろ今では、絵的には無論、作りとしても洗練されてしまっているが故に、かえって初期作品のような「あやうい妖しさ」は出せないのではないかと思うと、いささか残念ではある。

ともあれ、じつにレパートリーに富んだ作品集であり、きわめて贅沢な1冊だ。
本作品集を読まずして、コマツシンヤの「鬼才」を語ることは不可能なので、少しでも興味を持たれた方は、ぜひ本短編集を手にしてほしい。

初出:2020年8月29日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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