物書猫家

ライター。横浜在住。乳がんサバイバー。 http://nekohouse.air-ni…

物書猫家

ライター。横浜在住。乳がんサバイバー。 http://nekohouse.air-nifty.com/

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    フリーランスで仕事をしながら、重度障害者の息子を介護する、50代女性のひとり旅の記録です。

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記事一覧

ピアノ

毎日ピアノを弾く。 ピアノといっても、電子ピアノで、 古いクラビノーバだ。 夫はこれをピアノと呼ばない。 エレクトーン、と呼んでいる。 グランドピアノがある家で育…

物書猫家
1か月前
1

インソムニア

 眠れない夜は、散歩に出る。  日付が変わる少し前から、一時間。しっかり歩いて体が疲れれば、少しは眠れる。  散歩の行き先は、海に面した公園だ。  シャッターが…

物書猫家
4か月前
1

朱に染む

 からんからんとアパートの古い階段をのぼって、薄っぺらい玄関ドアを開けると、薄汚れた二十八センチのスニーカーがハの字に転がっていた。靴底に、泥がついている。  …

物書猫家
8か月前
2

旅をするわたし 長崎巡礼 2023.10.2〜4

さて次はどこへ行こうかなと、ANAのタイムセールを見ていたら、たまたま長崎の便が残っていた。久しぶりに行ってみようと思ったのが、今回の始まりだった。 旅のテーマを…

物書猫家
8か月前
5

電車の中で

昨日は東京国際フォーラムへ。 久しぶりに電車で都内へ行った。 電車の中って、 みんなスマホ見てるけど、 乗り物に酔うので、 極力見ないようにする。 とりあえず昨日…

物書猫家
8か月前
2

「さみしい夜にはペンを持て」がとてもいい

発売前に重版かかってた、 話題の本。 著者は、 「嫌われる勇気」の古賀史健さん。 自分とは何かを探すために、 自分を客観的に見るための訓練として、 「日記を書くこ…

物書猫家
10か月前

アルマジロ

 新幹線に、初めてひとりで乗った。窓際の座席を予約しておいたら、すでに通路側の席には人が座っていた。スーツ姿の男性だ。出張だろうか。  すみません、すみません、…

物書猫家
1年前
2

泡沫人

 リカコが死んだ。  大学のときの共通の知り合いから、連絡があった。 「エリ、リカコと仲良かったよね」  たしかにリカコとは、仲がよかった。はずだ。  でもリカコと…

物書猫家
1年前

評価されること

一見、遅すぎるような、50代や60代になってからでも、なんらかのカタチを残せる人は、それまでの人生で何かを積み上げてきた人だ。 カタチになるまで時間がかかったとして…

物書猫家
1年前
1

旅をするわたし 広島・京都 2022.8.15〜17

8月になると、戦争のことを考える。8月6日に広島、8月9日に長崎、そして8月15日に終戦の日だからだ。そして毎年のように、広島へは行ったことがないなぁ、と思う。今…

物書猫家
1年前
4

旅をするわたし 京都・祇園祭 2022.7.16~19

ザ・ゲートホテル京都高瀬川 泊 例の感染者数が急増中。なんでこのタイミングなのだと、恨みたくなる。福祉施設に通う息子が、ウイルスを家に持ってくる確率が高く、ギリ…

物書猫家
1年前
3

ラディッシュ

テラスに置いたプランターで、ラティッシュを育てていた。 ガーデニングイベントでもらったタネをまいた。 赤い小さなカブのような野菜ができるはずだった。 双葉から本…

物書猫家
1年前
+29

祇園祭 前祭 山鉾巡行

物書猫家
1年前

旅をするわたし 神保町あたり 2022.6.13

都内へ出かけることが少なくなった。電車で30分も揺られれば都心に着くのに、興味のある展覧会やイベントがあっても、二の足をふむ。不安に思っていたら、いつまでたっても…

物書猫家
2年前
4
+19

鎌倉・長谷寺 紫陽花

物書猫家
2年前
2

夕暮れ散歩

夕食の支度をしないといけないような時間に、散歩に出た。 こんな時間に出かけるなんて、主婦の、母親の、妻のすることじゃない、って目くじらを立てる人もいるだろう。そ…

物書猫家
2年前
2
ピアノ

ピアノ

毎日ピアノを弾く。

ピアノといっても、電子ピアノで、
古いクラビノーバだ。

夫はこれをピアノと呼ばない。
エレクトーン、と呼んでいる。

グランドピアノがある家で育った夫にとって、
電子ピアノは、ピアノではないのだろう。

音は出さない。
ずっとヘッドフォンで聞いている。

音は怖くて出せない。

弾き始めた頃に音を出してみたら、夫が、
そんな曲、姉が子どもの頃に弾いてた、とか、
ちょっとでも

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インソムニア

インソムニア

 眠れない夜は、散歩に出る。

 日付が変わる少し前から、一時間。しっかり歩いて体が疲れれば、少しは眠れる。

 散歩の行き先は、海に面した公園だ。

 シャッターが閉まって静まりかえった商店街を、地面のタイルを数えながら歩く。人に会うことはほとんどない。

 店が途切れ、むかし海岸線だったという通りに出る。その道を渡ったところが公園だ。芝生の広場と、噴水と、バラの植えられた花壇と、海に面して並ん

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朱に染む

朱に染む

 からんからんとアパートの古い階段をのぼって、薄っぺらい玄関ドアを開けると、薄汚れた二十八センチのスニーカーがハの字に転がっていた。靴底に、泥がついている。

 靴を三足も置いたら、もうすき間のないような玄関だというのに、私はどこに靴を脱げばいいのだろう。

 ハの字のスニーカーをそろえて置き直してから、すみっこに自分の靴をぬぐ。

 今日も足がむくんでいる。

「おかえり。今日は早かったね」

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旅をするわたし 長崎巡礼 2023.10.2〜4

旅をするわたし 長崎巡礼 2023.10.2〜4

さて次はどこへ行こうかなと、ANAのタイムセールを見ていたら、たまたま長崎の便が残っていた。久しぶりに行ってみようと思ったのが、今回の始まりだった。

旅のテーマを何にしようかと考えて、外海へ行ってみたかったのを思い出す。

調べ始めたら、たまたまこの本がヒットした。遠藤周作と歩く「長崎巡礼」という、2006年の本。

遠藤周作は、こんな言葉を色紙に書いていたそうだ。

「踏絵を踏む 足も痛い」

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電車の中で

電車の中で

昨日は東京国際フォーラムへ。
久しぶりに電車で都内へ行った。

電車の中って、
みんなスマホ見てるけど、

乗り物に酔うので、
極力見ないようにする。

とりあえず昨日は、人間を見ていた。

行きの京浜東北線は、桜木町で座れた。

長崎で壊れた足を酷使してきたので、
ラッキー、と思って座っていたら、

川崎で、川崎大師帰りらしい老夫婦が、
目の前に立った。

あー、譲らないとだな。
きっと期待して

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「さみしい夜にはペンを持て」がとてもいい

「さみしい夜にはペンを持て」がとてもいい

発売前に重版かかってた、
話題の本。

著者は、
「嫌われる勇気」の古賀史健さん。

自分とは何かを探すために、
自分を客観的に見るための訓練として、

「日記を書くこと」を提案する。

日記、っていっても、

今日はどこどこへ行きましたー、
何ちゃんと遊びましたー、
楽しかったです、

ではないよ、って、
具体的な書き方をレクチャーしてくれます。

ターゲットは、
中学生だそうです。

小学校高

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アルマジロ

アルマジロ

 新幹線に、初めてひとりで乗った。窓際の座席を予約しておいたら、すでに通路側の席には人が座っていた。スーツ姿の男性だ。出張だろうか。
 すみません、すみません、あやまりながら窓際の席に滑り込む。
 別に悪いことをしているわけじゃないのに、なぜ人は、すぐに謝るのだろう。
 いつもなら、出かけるときは勇介がいっしょだ。旅行先を決めるのも、新幹線や飛行機やホテルの予約をするのも、勇介だ。私は勇介のあとを

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泡沫人

泡沫人

 リカコが死んだ。
 大学のときの共通の知り合いから、連絡があった。
「エリ、リカコと仲良かったよね」
 たしかにリカコとは、仲がよかった。はずだ。
 でもリカコとは、もう随分会っていなかった。
 連絡をくれた知り合いも、大学を卒業したあとは会っていないと言う。
 リカコの携帯に登録されていた電話番号をひとりひとり、警察が手がかりを探して連絡をしているらしい。大学の頃に交換した携帯電話番号が、その

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評価されること

評価されること

一見、遅すぎるような、50代や60代になってからでも、なんらかのカタチを残せる人は、それまでの人生で何かを積み上げてきた人だ。

カタチになるまで時間がかかったとしても、カタチになればきっと報われる。

私はただ、日々を消化してきただけだった。日々は積み重なっていなかった。
積み重ね方がわからなかったんだ。勉強の仕方がわからなかったのと同じこと。

分厚いノートに書き記さなきゃいけなかったのに、丸

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旅をするわたし 広島・京都 2022.8.15〜17

旅をするわたし 広島・京都 2022.8.15〜17

8月になると、戦争のことを考える。8月6日に広島、8月9日に長崎、そして8月15日に終戦の日だからだ。そして毎年のように、広島へは行ったことがないなぁ、と思う。今年は例年以上に強く思った。戦争をしている国があるからかもしれない。

8月16日は、京都で五山送り火がある。祇園祭りに続いて、一度は見てみたいものだったので、ホテルを予約してあった。

それならば、一日早く出発して、広島へ行ってみようと思

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旅をするわたし 京都・祇園祭 2022.7.16~19

旅をするわたし 京都・祇園祭 2022.7.16~19

ザ・ゲートホテル京都高瀬川 泊

例の感染者数が急増中。なんでこのタイミングなのだと、恨みたくなる。福祉施設に通う息子が、ウイルスを家に持ってくる確率が高く、ギリギリまで行ける気がしていなかった。でも、この日程でなければ意味がない。京都は祇園祭なのだ。

一生に一度は見たいと思っていた日本一のお祭りに、どっぷり浸かる3泊4日。

京都は春の桜以来だけれど、ひとり旅は年末以来。また京都かと思われそう

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ラディッシュ

ラディッシュ

テラスに置いたプランターで、ラティッシュを育てていた。
ガーデニングイベントでもらったタネをまいた。

赤い小さなカブのような野菜ができるはずだった。

双葉から本葉が出て、その葉はほとんど虫に食べられた。
モンシロチョウが、繰り返し卵を産みに来た。

実の部分は、丸くならなかった。
小指の先よりも細いくらいのふくらみができたくらいで。

このまま見ているのも憂鬱なので、
すべて抜いて、ゴミに出し

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旅をするわたし 神保町あたり 2022.6.13

旅をするわたし 神保町あたり 2022.6.13

都内へ出かけることが少なくなった。電車で30分も揺られれば都心に着くのに、興味のある展覧会やイベントがあっても、二の足をふむ。不安に思っていたら、いつまでたっても出かけられないのはわかっている。誰かと会うのでなければ、リスクも少ないはず。そう言い聞かせて、神保町まで行ってみることにした。

これも、ちいさなひとり旅だ。

フォローしてる映画情報サイトのTwitterがリツイートしていた映画関係者の

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夕暮れ散歩

夕暮れ散歩

夕食の支度をしないといけないような時間に、散歩に出た。

こんな時間に出かけるなんて、主婦の、母親の、妻のすることじゃない、って目くじらを立てる人もいるだろう。そんなカビの生えた考えは、クッキーの空き缶に入れて、押し入れの奥にしまっておくといい。

散歩にでも行って来れば? そう言ったのは夫だ。餃子、作らないといけないから。そんな理由を口にすると、作っておくよ、と夫は言う。材料は、冷蔵庫にそろって

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