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展覧会レポ:DIC川村記念美術「今見られるコレクション」「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」

【約5,500文字、写真約40枚】
初めて、DIC川村記念美術館(以下、DIC美術館)に行き「今見られるコレクション」と「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」を鑑賞しました。その感想を書きます。

結論から言うと、大満足の美術館でした。これは主に、1)大自然に囲まれた環境、2)作品の良さを何倍にも引き出す贅沢な展示室とキュレーション、3)素晴らしいコレクションのクオリティによります。なお、アクセスが悪いため、都内から行く場合はまとまった時間が必要です。

展覧会名:カール・アンドレ 彫刻と詩、その間
場所:DIC川村記念美術
おすすめ度:★★★★★
会話できる度:★★★☆☆
混み具合:★★☆☆☆
会期:2024年3月9日(土) - 6月30日(日)
休館日:毎週月曜日
開館時間:9:30-17:00
住所:千葉県佐倉市坂戸 631
アクセス:東京駅からバスで約60分
入場料(一般):1,800円
事前予約:不要
展覧所要時間:1時間半〜2時間(自然散策含まず)
展覧撮影:作品の撮影は一切不可
ベビーカー:ー
URL:https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/ 


▶︎訪問のきっかけ

敷地の入り口

訪問のきっかけは、1)noteの投稿を見て、DIC美術館に興味があった、2)ミニマルな「カール・アンドレ展」のメインビジュアルが自分好み、3)一人の時間が1日作れたためです(遠いため移動に時間がかかる)。

ミニマルなビジュアルがそそられる(画像引用

▶︎美術館へのアクセス

東京駅からDIC美術館への直通バス

DIC美術館は、千葉県佐倉市にあります。佐倉駅からもバスで20分かかる山奥にあるため、アクセスは悪いです。救済措置として東京駅からDIC美術館へ直通バスが毎日、9:55に出発しています(1,450円)。

バス停の場所は、東京駅の八重洲側です。なお、行きの1本しかないバスに乗り遅れると悲惨なため、バス停まで辿り着けるか、とても緊張します。

公式サイトに東京駅からの道順が書かれています。しかし、私は日本橋駅のA3出口からバス停へ向かいました。日本橋駅の場合は出口の数も少なく、距離も短いことに加え、私は銀座線の方が都合が良かったです。

日本橋駅A3出口から向かうとラク
日本橋駅A3出口からバス停はすぐ近く
エクセシオールカフェの近くのバス停
DIC美術館行きの表記があって一安心

▼以下の投稿が出発前の参考になりました(ありがとうございます!)。

安心感のあるラッピングバス

バスにデカデカと「DIC川村記念美術館」とラッピングされているため、乗る前に不安な気持ちは消えました。バス停を出た途端、高速道路を走って60分〜80分でDIC美術館に到着します。

この日は「カール・アンドレ展」が始まった最初の土日でした。東京駅からバスに10人ほど乗っていました。そのため、平日の乗車数はもっと少ないのかもしれません。

バスの乗車人数が少ないことに加え、美術館の場所が辺鄙なため、人気はそこそこなのかな?と思っていました。しかし、到着後、駐車場に車がいっぱいで驚きました。当然ですが、多くの人はDIC美術館に自家用車で来るんですね。若い来場者が多いことも印象的でした。

DIC美術館から帰りの東京駅行きバスは1日1本(15:29発)。それを待つ時間はなかったため、DIC美術館から佐倉駅への無料バスに乗りました。

お帰りのバス時刻表

住所:千葉県佐倉市坂戸 631

▶︎DIC川村記念美術とは

まず、誰もが「DICって何?」「川村って誰?」と思うでしょう。

「DIC」とはDIC株式会社大日本インキ化学工業Dainippon Ink and Chemicals)のことです。DIC株式会社は印刷インキ、有機顔料、PPSポリフェニレンサルファイドコンパウンドで世界トップシェアの化学メーカー。1908年に創業、現在は、60以上の国と地域で事業を展開しています。→公式サイト

不思議な形の建築
海老原一郎による建築。
:2代目社長・川村勝巳の中学同級生

DICの創業者は川村喜十郎氏です。その2代目社長・川村勝巳氏は、一人で絵と語らう時間を大切にしていました。その喜びを世の人々と分かち合いたいという想いから、主に20世紀美術の作品を収集し、総合研究所敷地内に美術館をオープンしました(1990年5月)。また、3代目社長・川村茂邦氏はアメリカ美術を中心にコレクションを拡充しました。

清水 九兵衛《朱甲面》

DIC美術館には、抽象画やミニマルなアートが数多く所蔵されています。好きなアートのツボが私と同じため、2代目、3代目とは気が合いそうです。

フランク・ステラ《リュネヴィル》

美術館内の全ての作品が撮影禁止でした(美術館のスタッフ曰く、作品以外は撮影可)。美術館に入った途端、素敵な天井照明とステンドグラスが現れたため「この美術館は只者ではない」感をアリアリと感じました。

ホールの天井照明
ステンドグラス
地面に映った光
約3万坪の庭園には自然がいっぱい。
この日は植物養生のため、休園でした😨
広大な庭園を眺める夫婦

▶︎展覧会について

チケット(1,800円)

展示室は計11部屋あります。抽象画やミニマルアートがメインで(有名な西洋画も数多くあります)、人の価値観に揺さぶりをかける作品が多いと感じました。DIC美術館の特徴は、素晴らしい作品が多いことに加え、館全体、それぞれの展示室が自然光や間接照明を程よく取り入れている繊細な空間で構成されていることです。

中でも、「ロスコルーム」「木漏れ日の部屋」は最高でした。この部屋を体験するためだけにDIC美術館に行ってもいいと思います。是非、天気の良い日を選んで訪問しましょう。

空間の面白さを最大限に感じるため、ケータイもロッカーに預け入れることをおすすめします。企画展以外、部屋や作品のキャプションが一切ないことも、作品を「感じる」上で良かったです。そのため、外国人の方にも楽しめる美術館だと思います。私が、今まであまり体験したことがないタイプの美術館でした。行けて良かったです。

展示室の全体像

▼DIC美術館と同じく、自然とマッチした美術館

✔️「今見られるコレクション」感想

最初の部屋(101)には、アートに詳しくない人も聞いたことがありそうな作家の作品(モネ、ピサロ、ルノワール、ボナール、マティス、ブラック、ピカソ、藤田嗣治、シャガール、ローランサン、レジェなど)がずらり。

ピカソ《シルヴェット》(画像引用

中でも、ピカソ《シルヴェット》は驚きました。現代のアニメ風というか、美大生が描きそうなタッチでした。この作品の作者がピカソと分かる人は少ないのではないでしょうか。

レンブラント《広つば帽を被った男》(画像引用

次の小さな部屋(102)は、レンブラント《広つば帽を被った男》だけが展示されていました。この作品は、DIC美術館行きバスのラッピングにも利用されています。

レンブラントは商品として成功した人のみ肖像画を描いたらしいです。2代目社長・川村勝巳氏は、ビジネスマンとアートコレクターの両面からこの作品を特に好んだため、DIC美術館で別格扱いしているようです。

その後、抽象画メインの部屋(103)を通り過ぎ、彫刻が展示されている部屋(110)にたどり着きます。ここには、ロダン、ブランクーシ、デイビット・スミス、トゥオンブリーなど、写実的な彫刻から、抽象的な彫刻まで幅広く展示されていました。

渡り廊下の先にある部屋(104、105)には、ジョアン・ミロ、エルンスト、マグリット、リチャード・ハミルトンなど、一般的なサイズの抽象画的な作品が展示されていました。

次はDIC美術館名物の「ロスコルーム」です。2008年に増築された部屋だそうです。この部屋にはマーク・ロスコ《シーグラム壁画 1958−59年》の巨大な作品7点が真ん中の椅子を囲うように展示されています。

絵に包み込まれる一体感が得られる(画像引用

この部屋は他の部屋以上に、部屋の形態や照明にこだわりを感じました。暖色系で暗めのライトはロスコの作品を上手に引き立てていました。巨大な作品に囲まれると、ジェームズ・タレルのような迫力を感じます。

マーク・ロスコ《無題》@アーティゾン美術館(2024年1月撮影)

最近、アーティゾン美術館で見たロスコ作品とは全く違う印象を受けました。DIC美術館で見ると、ロスコはどのような心境で作品を描いたのか気になったり、神々しい威厳をもって迫り来る(まるで『2001年宇宙の旅』のような)、もしくは吸い込まれそうな印象を受けました。これは、ロスコの作品を一つだけ白壁に掛けただけでは知り得ない感覚でした。

ポストカード。ロスコ《「壁画NO4」のためのスケッチ》
:7つの中でも特に気に入った作品

この部屋のおかげで、私はロスコのことをより好きになりました。まさに、このような点が、私がDIC美術館をおすすめしたい理由の一つです。特に、抽象画が好きな人には、なおさら強くおすすめしたいです。

階段を2階に上った先に「木漏れ日の部屋」(200)があります。私はロスコルームよりも「木漏れ日の部屋」の方が大好きです。特に、晴れた日は最高に気持ちのいい部屋だと思います。

「木漏れ日の部屋」(画像引用
※現在の展示作品とは異なる

現在、だだっ広い部屋には、ジュールズ・オリツキーの《高み》1点のみが展示されていました。これは、2.6×5メートルもある巨大な作品です。

ジュールズ・オリツキー《高み》(画像引用
:2.6×5メートルある巨大な作品

作品自体が部屋の雰囲気にマッチしていることに加え「ロスコルーム」同様、部屋の造りが、作品の良さを何倍にも引き立てていました。アートx自然が大好きな私にとって、まるで、心が無になったような感覚がしました。この部屋の感覚は、品川の原美術館(2021年に閉館)をパワーアップさせたような印象でした。ずっとこの部屋にいたいと思いました。

常設展で最後の部屋(201)には、サイズの大きいミニマルアート李禹煥リ・ウファン、ポロック、モーリス・ルイス、フランク・ステラなど)が揃っていました。これらは、とても大きなホワイトボックス空間で贅沢に展示されており、作品同士が上手に干渉していませんでした。

フランク・ステラ《Black Study I》(画像引用
:どれもタイトルが面白い

中でも、フランク・ステラの黒に白線を引いただけの作品が興味深かったです。全ての作品には面白いタイトルが付けられていました。

フランク・ステラは、カール・アンドレ(現在、DIC美術館で企画展を実施中)とスタジオを共有したこともある間柄でした。アンドレは、ステラの作品について「芸術は不要なものを排除する」と述べました。

まさに、ブランクーシに影響を受けたアンドレらしい発言だと思いました。私が、現代アートやミニマルアートが好きな理由の一つは「本質とは何か?」という問いのヒントがあるからです。それを突き詰めると「人はなぜ生きるのか?」という命題にも繋がると思います。

✔️「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」感想

カール・アンドレ(1935–2024)は1960年代後半のアメリカを中心に興隆したミニマル・アートを代表する彫刻家です。(略)規則的に広がるアンドレの典型的な彫刻作品を大きな空間で展開します。(略)知る人ぞ知るアンドレのをまとまったかたちで紹介します。(略)彫刻と詩という離れた表現で展開する、簡潔ながらも単純ではないアンドレの作品をぜひお楽しみください。

公式サイトより
企画展は最後の部屋(202、203)

この企画展は、韓国・大邱テグ美術館からの国際巡回展であり、日本初の個展です。なお、アンドレは、2024年1月24日にニューヨークで死去しました。

この展覧会は、鉄板や木の直方体を地面に置いただけです。一部の作品は、その上を歩くことができます。ただし「上を歩いたから何やねん」という感じもありました。アンドレの本質は簡単には感受できませんでした

展覧会の様子(画像引用

この企画展も含め、DIC美術館は、とにかく空間が贅沢だと感じました。都内などの面積の限られる美術館では不可能な表現です。その意味では、アンドレの作品はDIC美術館の性格に大変マッチしていると思いました。来場者が多くなく、ゆったりと鑑賞できる点も、「感じる」「考える」ミニマルアートを見る上でも奏功しています。

▶︎まとめ

グラフィックデザイナー・色部義昭氏によるピクトグラム
:普段は買わないグッズを買う。ピンバッヂだとさらに良かった

いかがだったでしょうか?DIC美術館は辺鄙な場所にあるため、なかなか行ける機会がありません。しかし、アートに興味がる方(特に現代アート、ミニマルアート、抽象画)、興味がない方にも強くおすすめしたい美術館でした。所蔵作品が素晴らしいことは言うまでもなく、自然の中の立地、作品の良さを何倍にも引き出す展示室、たっぷりの空間を贅沢に使った環境は、普段の美術館とは違うツボを刺激してくれます。行くなら晴れの日に!

▶︎今日の美術館飯

★3.3/麺処丹治 (千葉県/佐倉駅) - 味玉醤油ラーメン (¥980)

DIC美術館内にはレストランが1つあります。ただし、ランチは最低でも2,000円と値段が高めです(待つ人も多い)。DIC美術館の周りに、飲食店などは何もありません。ランチは佐倉駅などで探した方が良いです。

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