「企画作品『あなたの温度に触れていたくて。』に応募します：「真冬の唐突」

「あなたの温度に触れていたくて。」 【xuさんとゆっずうっずさんのコラボ企画】に参加致します

企画の概要は以下のとおりです

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題「真冬の唐突」

また　真冬の青山　外苑のイチョウ並木に
きてしまった。　去年も来たのと　
同じ場所だ。　佇んで　目をつぶると　
君とのキャンパス生活が　影絵のように
心のスクリーンに　次々と映し出される。

　大学のキャンパスには　春陽の
柔らかいぬくもりが　降り落ちる。
僕と君は、同じゼミクラスだった。
君のクリスタル色に　はじける会話に
たちまち　僕の気持ちはソーダー水の
泡のように舞い上がった。
気が付くと　いつも　ショートヘアーの　
君の姿を　探していた。
僕は君に　首ったけになっていた。

教室では　隣同士にすわって
講義を聞いた。僕はたいてい途中から
眠ってしまう。君のペンを走らす
音がとても　心地よいリズムとなった。

「眠るために　講義に出てるの！！学生で
しょう! もっとシャキッとしなさいよ！」
君のお姉さん口調に,　僕は弁解のし
ようもなく「以後気を付けるよ」
と情けなく言い訳ばかりした　

試験間近になると　キャンパスの　
人影は　まばらになる。
図書館を、冷たい静けさのベールが覆っている。
ページをめくる音、ペンの走り音が
波音のように　間断なく聞こえる。
君は、時折疲れて机にうつぶせる。その横顔に　
「いつも　一緒だね」とテレパシーを送る。
君との一角だけが、ほっこりと
冬陽が当たるサニースポットだった

君と出会ってから、僕は冬が好きになった。
ポケットの中で、君の手をずっと握っていると　
幸せなぬくもりが、息づいているのがわかった
長いマフラーを　二人で巻けば
君の息遣いを　感じられた。

　すべてに「始めと終わり」があると
いうのは、言葉としては理解していた。
でも、二人には　無縁の事だった。

　唐突な　別れ言葉は　北風が連れてきた。
「話したいことが　あるの・・・　
もう終わりにしない・・？」
落葉が始まった　銀杏並木に
落ち葉のように　君の言葉が
つむじ風と一緒に　舞い上がる。

君は　お気に入りのブルーの手袋で
唇を何度も触る。なかなか
後の言葉は、出てこない。
そして、その唇から出てくる　言葉は
降り始めの　雪のように
僕の心に　降り積もった。

吹きやまぬ　風のように
低く冷たい　吐息が、
耳の奥に　吹き込んでくる。
でも　僕の耳には　氷が張り、
どんな音も　受け付けない。

何度も　君に　問いかける。
「何故？　どうして？！」
ひなたの　ぬくもり色の　君の瞳に　
垂れこめた　雲が覆っている。

「父が　破産したの。叔父の　
連帯保証人となっていたので、
すべての財産が　差し押さえられた
みたい。もう大学に通って
いられない・・岡山へ帰らなくてはダメ」

「破産」「差し押さえ」「連帯保証」という
無機質な単語たちが、凍り付いた
旋律となり、蚕の糸のように　
終わることなく吐き出される。

その糸を　どう編み直して　
血を流し始めた　僕の心を　覆う布を
作ればいいのだろう。

僕の心は、すっかりしびれてしまった。
次の言葉が　全く浮かばない。
ただただ　背中を向けて　去っていく
ベージュのコート姿を、見つめている
だけだった。　
「僕は　嫌だ。君とは
絶対別れない。僕が君のご両親に話す」と
何故　男らしく　言えなかったのか！！
なんと　女々しいしぐさだったのか！！

　我に戻れば、青山の外苑通の　銀杏並木を
今日も　沢山の人たちがコートの襟もとを、
抑えながら足早に、通り過ぎていく。
　待ち人は決して来ることはない。
でも今も僕は、君への愛を、
ずっと感じていたくて
心のストーブの前で、愛のかけらを
暖め続けて、並木道に立ち尽くす

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最後まで　読んでいただきありがとうございます。
一度詩の形で発表しましたが、ちゃんとした
文章で、若いころの苦い思い出として記しておきたいと
おもい応募いたしました。　若さの特権の
「がむしゃらさ」をどうしてもっと出さなかったのか・・
と悔やまれる想い出です。企画の趣旨に沿っているか
心配ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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