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レントよりゆったりと〔随想録〕

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#随筆

放課後、8組の教室

放課後、8組の教室

カーテンが身じろいだのは
風のせいではなく
T君の怒号が飛んだからだった
瞬時に凍りついた8組の教室は
嫌われていた担任教師と
全くおなじ表情で固まった
他クラスの俺は
居たたまれない気持ちを抑えながら
その動向を注視していた
眉をひそめるクラスメートらに構うことなく
畳みかけられる罵詈雑言
担任教師の元々青黒かった顔が
さらに青ざめていく
容赦がないという尺度において
あれほどのものは見たことが

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詩と文化についての覚書

詩と文化についての覚書

年末「一行詩いちごつみ」で遊んだときの話。
詩作初心者の方もいて「詩ってよく分からない」というような言葉がコメント欄にチラついていた。
それに対して、初心者でないメンバーの誰もが口を噤んで、答えらしきものを提示しなかった。
それが正解だったのだと思う。
おそらく「詩はこうである」と分かった瞬間に、詩が分からなくなる。
「詩ってよく分からない」と「詩を書くこと」はコインの表裏なのだと思う。

詩が個

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一線を越えてしまった日

一線を越えてしまった日

つらい。
通っている絵画教室のSNSがあげていた写真を見て、僕は涙を滲ませた。
それは教室中の雰囲気を撮影したものだった。
プライバシーに十分配慮され、生徒たちの顔には全てボカシが入っていた。
しかしある部分にはまったく配慮がなかった。
それは……(悔しそうに俯く)
それは……(拳を握りしめる)
僕の後頭部だ。
薄い、薄いぞ! 以前よりだいぶ薄い!!
うすうす気付いていた。この「うすうす」は副詞で

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占いに行くの巻

占いに行くの巻

屋外型ショッピングモールを歩きながら
「そろそろかな」と思った。

小さな野外ステージの横を過ぎる。風が吹き込んできて、身を切るような寒さにダウンジャケットの内に首を引っ込めた。宝くじ売り場を過ぎて右に曲がり、植木に挟まれた小道を歩くと、赤い屋根をかぶる小さな小屋にたどり着く。その小屋は木々によって巧みに隠されていた。派手な外観をしているのに、スーパーマーケットに続く表通りからも、裏手の駐車場から

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火曜日のアナーキストを野に放つ

火曜日のアナーキストを野に放つ

今日のテーマは火曜日の自分。今日は間違いなく木曜日だ。サブテーマは「詩とは?」



今週の火曜日、僕は憤っていた。ある職場で不当な対応を受け続けていて、しかるべき場所に訴えていたにもかかわらず全く改善しなかったからだ。
その日、僕は怒りを雇用主に向けて爆発させた。すると彼女は
「改善のために体制を見直しますね」
と笑った。
ほう、やはりそこで笑うか。オレには分かっているぞ。これは体制の問題では

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逃げながら立ち向かう

逃げながら立ち向かう

僕は今、2,3うまく行かないことを抱えている。たった2,3だけれど、すごく大きな2,3だ。
小さな問題を虫眼鏡で見てるんじゃないか?というような指摘は散々受けてきた。
でも物事を客観的に見る手法を持ち合わせていないわけではないし、色んな立ち位置を想像したうえで、やはり自分にとって大きな2,3だと言わざるを得ない。

何かが立ち行かなくなったときの原因はたいてい複合的だ。努力不足もあれば、環境が整っ

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タイ旅行記

タイ旅行記

*本投稿は写真が多めです。

3泊4日(1泊機中泊)でタイのバンコク・アユタヤに行ってきた。キツキツのスケジュールと美味しいご飯で、足も胃も披露困憊。帰国してから、まだ体調が戻ってこない。汗

私は今、社会人大学生として2度目の学生をしており、専攻は古代から中世のインド学である。
仕事とはまったく関係のない分野なので、この進学は職場関連の人からそれはそれは白い目で見られた。しかし30数年生きてきて

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エッセイ「詩人としての武田鉄矢」

 武田鉄矢さんと言えば金八先生。と言っても1980年代生まれの僕には、金八先生は少しばかり暑苦しく感じたりしないでもない。今の若い世代では金八先生を知らない人もいるかもしれない。
 役者としての彼をあまり知らない。しかし歌手としての武田鉄矢さんの魅力については少しだけ書けることがある。今回はそんなお話。先日某ワイドショー番組で彼が出演していて、昭和歌謡の歌詞の変遷について語っていた。その時に、現代

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エッセイ「あなたの眼鏡の色は」

 『色眼鏡』 先入観や偏見のもとに物事を見ることのたとえとして、否定的な意味で使われることの多い言葉だ。逆に、先入観や偏見を肯定的に捉えようとする、一般的な日本語を僕は知らない。

 日本語使いとして悔しいことだが、英語にはその表現がある。『rose-colored glasses』(バラ色の眼鏡)。その眼鏡を通して見ると全てがバラ色に映り、楽天的で能天気なことのたとえである。「ああ、なんとステキ

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エッセイ「月が綺麗ですね」 #執筆観

 成立年代は不明であるものの『竹取物語』は日本最古の物語と称される。しかしその結末において、ある西欧人の文学研究者は首をかしげたそうだ。かぐや姫は月から来て、5人の男性に求愛される。しかし、かぐや姫を娶りたいと思う彼らの気持ちや努力を尻目に、彼女は別世界である月に帰ってしまうのである。

 ここで議論されているのは「人間の力を超えた超自然に対する態度」である。日本の民話には、人間と超自然の間に決定

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エッセイ「詞が詩になるとき」 #執筆観

 人と人との関係から生まれる表現の話をしたいと思う。

 小さい頃から作曲の真似事なんかを続けていて、10代の頃には学内で音楽ユニット活動をしていた。当時はglobe、Every Little Thing、D-LOOP(これは知る人ぞ知る)などが流行っていて、女性ボーカル+作詞・作曲・プロデュースを一挙に担当する男+αという形に憧れた。そして僕の作ったユニットは、女性ボーカルと僕の2人組から始まっ

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エッセイ「詩のお師匠さん」 #執筆観

 春は花に目を奪われる。夏は新緑の青さと陽の眩しさに圧倒される。〈秋は紅葉……〉。冬には足が家に向き心は内を向く。
 秋は紅葉。キンモクセイが香ったと思ったら、いつの間にかモミジやイチョウは視界を彩っている。でもそれは一瞬のこと。冬にうつろうひととき、疎らになった葉の隙間には幹や枝が覗く。秋の終わりには樹が主役になる。花でも実でも葉でもない。樹だ。

 「お師匠さん」
 あなたの顔を心に浮かべる。

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エッセイ「詩と小説」4. #執筆観

 本稿には少しばかりですが、東日本大震災についての内容を含みます。心的外傷等をお持ちの方は、どうぞご注意下さい。

 詩人・立原道造には『くん』が似合う。『君』ではダメだ。むしろ『きゅん』くらいでいい。
 『立原くん』『みちくん』『立原きゅん』……
 どうでしょうか?

 立原くんは1914年(大正3年)に生まれ、24才の若さで夭折した。同世代の詩人に中原中也(1907〜1937年)がいて、こちら

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エッセイ『ある王女の詩の変容』 #執筆観

 僕は言葉の力を信じている。ずっと胸の奥底に眠っていた或る言葉が、ふと目を覚ます瞬間に出くわしたことは、きっと誰にもあると思う。取り出したり、仕舞われたりするたびに、少しずつ意味が変わっていくことも……
 今回は或る漫画のセリフの話題。

 『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』(以下『ダイ』)は1989年から8年間に渡って連載された漫画で、原作者である三条陸氏は多くの人気漫画や実写特撮作

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