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放課後、8組の教室

カーテンが身じろいだのは
風のせいではなく
T君の怒号が飛んだからだった
瞬時に凍りついた8組の教室は
嫌われていた担任教師と
全くおなじ表情で固まった
他クラスの俺は
居たたまれない気持ちを抑えながら
その動向を注視していた
眉をひそめるクラスメートらに構うことなく
畳みかけられる罵詈雑言
担任教師の元々青黒かった顔が
さらに青ざめていく
容赦がないという尺度において
あれほどのものは見たことがなかった
それ以前もそれ以降も
次第に
俺の中では
放課後を汚すT君への憎らしさが
募り募ってきてしまって
「やめろ言い過ぎだ」
と割って入った
しかしT君の怒りの業火は凄まじいもので
いっときの不快感を燃料にした俺の火花など
容易く飲み込まれ
掻き消えてしまったのだ

怒りというものを思うとき
いつもこの日のことを思い返す
T君の荒ぶる理由も担任教師の言い分も
何もかも忘れてしまい
今となっては
怒号を合図に世界が固まった瞬間が
リフレインするくらいだが
あの日俺は
正義と正廉とが別物であることを
しっかり学ぶべきだった
そして
T君から卒業すべきだった
おそらく今も
どこかで怒号が飛んでいる
おそらくそれは
誰かの義憤に寄りかからない
なりふりかまわない
赤子の延長線にある

あの日割って入った口に
そっと手を当てる


#随筆  #エッセイ #ポエム #詩

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