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#掌編
【掌編小説】誰が為の絵画
「ねえねえ、AIの呪文に『入力してはいけない言葉』があるって知ってた?」
ある日の昼休み、クラスメイトの****がひそひそ声で言ってきた。
「AIって『Imaginarygifts』のこと? 入れちゃいけないって、その……エッチな言葉とか……?」
内容が内容だけに私も小声で返事をする。
「違う違う。もっとやばいワードがあるって話」
「聞いたことないなぁ」
『Imaginarygifts』
【掌編小説】Princess On The Bridge
綺麗な子だな、というのが彼女の第一印象。特に惹かれたのはその瞳だった。強い意志を感じさせる少し怖いくらいの瞳。
転校してきてすぐの私は、彼女が『橋姫』と呼ばれているのを聞いて首をかしげた。すると最初に出来た友達の由衣が答えてくれた。
「名前が『橋本美姫』だからだよ」
「確かにお姫様みたいだね」
教室の輪の中心にいる彼女を見ながら思わず呟いた。
「明日香もやっぱりそう思う?あんなに綺麗なら毎日が楽し
【掌編小説】けなげな鍵
ちょっと聞きたい。あなたは忘れ物をしやすい人かい? もしそうなら俺と同類なんだが、思うにそういう人は、基本的に適当なのだ。適当にぽいっと置いてしまうからすぐに物を無くしてしまう。それが良くない。まあ色々と忘れ物をしてしまうのだが、よく無くすのは鍵だ。もちろん無くしてしまう俺が悪いのだが、だいたいあのサイズがよろしくない。すぐにそこらの隙間に入り込んでしまって、どこに行ったか分からなくなる。
【掌編小説】老作家の顛末
「うーむ」
老作家は原稿用紙を前にして、かれこれ数時間は唸っていた。隣には若い担当編集者が老作家の原稿が出来上がるのをひたすら座って待っていたのだが、既に根負けしてしまったのか正座をしたまま居眠りを始めている。がくん、と大きく首が下がると編集者はハッと目を覚まし、老作家に聞いてくる。
「出来ましたか」
「いいや、まだだ」
「そうですか」
老作家の返事を聞いて編集者はがっくりと肩を落と
【掌編小説】電波塔に上って
「はぁ……」
カタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、向かいの席の後輩の田中が大きく溜息をついた。人の気配の少ないオフィスでは小さな呟きもやけに大きく響き渡る。今日は年末の挨拶回りもかねて得意先への訪問予定があったため、自分も彼もオフィスへと出社していた。ずいぶんとあからさまに大きな溜息をつかれてしまうと、さすがに反応しないわけにもいかない。
「どーした、そんな大きく溜息をついて」
パソ
【掌編小説】星降る夜に
「わたしね、1年の中で今が一番好きかも」
ふとした拍子に彼女はそうつぶやいた。なんで? という疑問の言葉を僕が発する前にひゅう、と冷たい風が吹きぬける。僕は悪寒と共に言葉を飲み込み、ぶるりと震えて首元のマフラーを巻き直す。
「寒い?」
僕の隣を歩く女友達の芹沢悠香がこちらに目をやって気遣わしげに聞いてきた。いや大丈夫、と言おうとしてくしゅん、とくしゃみをしてしまう。強がる気持ちとは裏腹に