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📙小説『引越物語』

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我が家のリアルな引っ越し騒動をモチーフに小説に初挑戦中【フィクション】【不定期】 🏠登場人物ご紹介🐶 わたし=凪  作家やライターの下請け 〆切ギリギリ案件も請け負う 菜摘… もっと読む
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記事一覧

小説『引越物語』㉔アディクショナリーを持つ人

小説『引越物語』㉔アディクショナリーを持つ人

「なっちゃん、元気にしゆうろうか。」
正雄の心配は尽きない。

「菜摘さんはもう立派な主婦なんだから。心配し過ぎよ。」

そういう凪こそ、心配で心配で二日に一度は義妹の菜摘にLINEしているのは秘密だ。

ほんとにね。ご飯すら炊いたことのない菜摘さんが結婚だなんて…。

あれ。あれあれ。

わたしもそうだったな。新婚時代、あんまり肉じゃがとカレーばかり作るから正雄さんに禁止されたんだっけ。懐かしい

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小説『引越物語』㉓ボクがどんなに言われても

小説『引越物語』㉓ボクがどんなに言われても

ボクたけし
ずっとこの家を守ってる
もふもふ犬さ

菜摘さん
また帰ってこないんだ
心配してるよ
あんなに一緒にいたのにさ
どこ行ったのかな

凪さん雨ばかりなんだ
顔からたくさん雨だよ
とても苦しそうだ

正雄ちゃんは
小さいときも大きいときも
忙しいよ
とても忙しいよ
赤ちゃんだったときだけだね
のんびり寝て
食べてたのは
歌だってほんとはうまいのに
大きい正雄ちゃんは歌ってくれないんだ
ボク

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小説『引越物語』㉒お願いされたから

小説『引越物語』㉒お願いされたから

凪は声をあげて泣いていた。

三日かけて書き上げた敬愛する作家の全集後記。

とても良いねと担当編集者から返信を無事にもらい、昨晩は久しぶりに五時間ぐっすり眠った。

今朝メールをチェックしたら、同じ編集部から再度の依頼が来ていた。

もう一度、練習にどうですか

練習…。仕事ではなかったのか。
凪は震える手で返信した。

大きな仕事につながると思う
任せて

平行線のままだ。これは断るしかない。

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小説『引越物語』㉑俺も手伝うき

小説『引越物語』㉑俺も手伝うき

目の前に落ちているのは、手のひらサイズの剥がれた木目の何か。

見上げれば、無惨な姿のクローゼットのドアがあった。

どうすればこんな風になるのか誰か教えて!!

「なっちゃんに、俺のお幼稚の時のアルバムを見せたかったきよ、あっこから出したがね。ほしたら…。」

かつて義妹の菜摘が暮らしていた部屋は、今では引越し準備のための段ボール部屋と化している。

少し発達障がいのある菜摘だが、部屋はとても綺

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小説『引越物語』⑳おうちへ帰ろう

小説『引越物語』⑳おうちへ帰ろう

誕生したばかりの仔鹿のようにユラユラと立ち上がった麻美が、母の元へ歩き宣言した。

「お母さん、私とっくに大人だよ!!」

「麻美さん…。忙しい時に呼び出しといて!そんな勝手なこと言うのんか。あほらし!」

「いつでも私が悪いのよね。そうよね!迷惑かける悪い娘なのよね!!だから、いなくなってあげたんじゃない!!!」

「私は、高知の大学へ進学することも一人暮らも反対しましたよ。それを振り切って、半

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『引越物語』⑲ 欄間に螺鈿をはりましょう。

『引越物語』⑲ 欄間に螺鈿をはりましょう。

ね、いいでしょう。デザインどれがお好み?

とな…。

正雄の叔母からメールが来た。
きた、きた、きたー!!!

古木でテーブル作るだけじゃないのか…。うちが建てるのは小さな平屋だったよね。

他人の家で張り切るくらいなら、ご自分のお家をリフォームをするとか、別荘を建てるとか、息子さんとご一緒に思う存分なさったら如何でしょう。

と勢いよく打ち込んで、凪は溜息をついた。

delete keyを強

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引越物語⑱回遊したらば【無料】

引越物語⑱回遊したらば【無料】

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「そっ。意気消沈旅行だったの、あの社員旅行は。」
レストランを本当にクローズしたマリオが、未希の話に笑みを浮かべている。

「社員もパートさんも、うちのレストランのピザはしょっちゅう食べてるけどさー。正直ちょっと微妙だって言うわけよ。」

「ひど〜い!美味しいよぉ。」
菜摘と麻美が同時に言った。

「違う違う。半年前のピザのこと。」

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引越物語⑰菜摘とおうちへ帰ろ【無料】

引越物語⑰菜摘とおうちへ帰ろ【無料】

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菜摘が何度もかけ直すが、兄の正雄は電話に出なかった。それは正雄が自宅にスマホを置き忘れていたからだ。最近とみに忘れ物が増えている。

未希は凪に電話して頼み込んでいる。

「凪ちゃん一生のお願い!うちのアルバイトの女の子を一晩泊めてくれない?」

「みーちゃんが、凪ちゃんとか言うときは怪しいから!麻美ちゃんを泊めるのは構わないんだけど、菜摘が帰

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小説『引越物語』⑯まいど!おおきに⁈

小説『引越物語』⑯まいど!おおきに⁈

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「いらっしゃいませ。」

「売上アップしに来たよ!」
菜摘の声が閑散とした店内に響いた。

「んもうー、そんなにはっきり言わないでよ。なっちゃん一人?」
未希が、マリオに汚れたお皿を手渡しながら言う。

「うん!なっちゃん一人でなんでもするって決めたが。」
鼻息荒く菜摘は言った。

「あの…お話中のところすみません。」
学生アルバイトの麻美が未

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引越物語⑮未希とマリオ

引越物語⑮未希とマリオ

ふぃんふぉおん

脱力感いっぱいのインターフォンをもう一度鳴らす。
菜摘と婚約者の龍也が堪え切れず吹き出した。

「なんながコレ。全てがどうでもよくなる音やんね。こんなん聞いたことないで。」
口調こそ土佐弁ゆえにキツく聞こえるが、龍也はこの脱力インターフォンを気に入った様子だった。

「いらしゃーい!よーこそー!」
シャツのボタン三つ外しのマリオが登場して、龍也と菜摘、そしてわたしを順番にハグした

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引越物語⑭帰ってきた未希ちゃん

引越物語⑭帰ってきた未希ちゃん

職場では上司だった彼女。
退職してから友達になったのが未希だ。

メールやzoomで真夜中でも連絡をとってしまう変人で、わたしに小説を書かせている困ったさんである。

「久しぶりー!帰国したばかりやけん。時差ボケが酷くて。」

未希の声は弾んでいる。隣に立つご主人らしき人もにこやかにお辞儀をしてくださった。

「未希ちゃん、ひさ…!!」唖然とした。

ご主人が若返っている。
明らかに結婚式で見た人

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引越物語⑬菜摘の婚約者

引越物語⑬菜摘の婚約者

赤ちゃんの時から、グレーゾーンと呼ばれることが多かったという菜摘。

幼い話し方も、買い物に行って雑誌やコミックを読み耽って帰ってこないところも、今では愛おしくて仕方がない。

正雄は、両親が離婚してから菜摘の人生に起こるトラブルをいつも解決してきた。友達という名の詐欺師に何度も騙されてきた菜摘。男友達もいないのだから妹は結婚しないものと思っていたようだ。

お相手は、専門学校時代からの同級生で介

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引越物語⑫うさぎと懸賞マニア

引越物語⑫うさぎと懸賞マニア

「今朝の8時に届いてたみたい。」
noteからキャンペーン当選通知が来て、わたしは朝からご機嫌だった。

スマホの画面を義妹の菜摘に見せる。
「なんぷーん?」
いつもの不思議な質問攻めが始まる。内容ではなく、正確な時間や場所を知りたがるのだ。そして、聞いた途端に興味を失ってしまう。

「凪ちゃん、ほんまよく当たるよねぇ。」
何故か呆れたような表情のまま、犬のたけしと床に寝転がり始めた。

かれこれ

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引越物語⑪四つ切りにするかハーフアンドハーフにするか

引越物語⑪四つ切りにするかハーフアンドハーフにするか

LINEが既読にならない。
時刻はもう23時である。

二ヶ月程前から、夫の正雄は、自分の仕事をわたしの仕事のスケジュールに合わせてくれるようになった。節約のためでもあるが、わたしの視力と視界が変わってきたせいだ。夜に一人で歩くと危険だと言い、車で迎えに来てくれている。

お互いに仕事が終わると、近くの深夜営業しているスーパーで待ち合わせる。半額のお惣菜を買って帰るという手抜きが堂々とできるのが密

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