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小説『引越物語』⑱回遊したらば

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「そっ。意気消沈旅行だったの、あの社員旅行は。」
レストランを本当にクローズしたマリオが、未希の話に笑みを浮かべている。

「社員もパートさんも、うちのレストランのピザはしょっちゅう食べてるけどさー。正直ちょっと微妙だって言うわけよ。」

「ひど〜い!美味しいよぉ。」
菜摘と麻美が同時に言った。

「違う違う。半年前のピザのこと。」
マリオの顔が曇ったのを見て、未希が慌てて通訳した。


「みんな本場イタリアのピザは食べたことないって言うからさ、観光客が入りにくい地元の人しか行かないレストランを探したわけよ。」

酔った未希は饒舌だ。そして、パンパンと周りの人をはたいている。

帰宅した正雄が開口一番
「おっ!ようたんぼがおるやいか!」

「うるせー!酔ってないからね私!」
未希の手をマリオが取り、はたこうとするのを止めた。

「未希、アルハラ。みんな未希のこと尊敬してる。でも、酒飲む。痛いって。」

未希は、堰が切れたように鳴き始めた。それに呼応するかのように、菜摘が、そして麻美までもが、鳴いたのだった。

背中越しに話を聞いていた下戸の凪は、みんなに箱ティッシュを配り歩いた。

「みんな、もっと毎日こうしたら良かったんじゃないかな。」


凪が、滲むみんなを見つめる。

人生とはわからないものだ。

仕事の波にのまれて溺れていた未希が、回遊魚マリオと巡り逢えたのだから。

3人を抱きしめるマリオに、犬のたけしが飛びついた。




次は久しぶりにあの人が登場します👵


前回のお話です☘️

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