写真集「連師子」ができるまで ー #4 茹でたカニのように

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写真集「連師子」ができるまで ー #1 穴の空いた写真
写真集「連師子」ができるまで ー #2 どう撮るのが正解なのか
写真集「連師子」ができるまで ー #3 ラジオの音に

2018年、とある依頼撮影で兵庫県の城崎を尋ねた。そこは、日本全国はもちろん各国からも観光客が足を運ぶ温泉街だ。

この町の試みの一つに「本と温泉プロジェクト」がある。
著名作家がこの土地を舞台にした小説

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フリーライターはビジネス書を読まない(50)

出版社と契約

3回に分けて録るつもりだったインタビューが1回で終わった。なんと6時間半、北原裕美は自分の半生を一気に語り続けた。

録音した音声を文字に起こす。自分で使うためのテープ起こしだから、一字一句ていねいに起こすことはしない。内容が分かればいい。

出版社にも連絡した。駆け出しの頃からお世話になっている編集者に声をかけて、この案件を引き受けてくれないか打診したところ、前向きな返事がもらえ

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フリーライターはビジネス書を読まない(49)

1回目のインタビュー

北原裕美からの原稿依頼を受けたとはいえ、正式な契約は出版社を入れるつもりだったから、まだ書面を交わしていない。そんな状態で書籍の執筆を前提にしたインタビューを始めるのは、いささかリスクが高いと思った。
だが、あるていど原稿を進めておいたら、時間の節約にもなる。そう考えて、インタビューを先にやってしまうことにした。

インタビューの場所は、北原の希望で、またも例の文化住宅だっ

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フリーライターはビジネス書を読まない(48)

そこは古い文化住宅だった

JR八尾駅の改札を出て、線路を右に見ながら歩いて6番目の辻を左に入って、細い道を道なりに行くと見えてくる酒屋とプロパン屋のあいだの路地を入って……。
スマホがナビゲーションしてくれる、便利なサービスはまだない。道順を電話で聞きながら、途中で迷う自信しかなかった。

本当にたどり着けるだろうか。
「こっちのほうが近そうじゃない?」という邪念は、道に迷う原因の上位を占めてい

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フリーライターはビジネス書を読まない(47)

またまた自費出版の原稿依頼

その日は広告の初日だったこともあって、水曜日にしては朝から多くの来客があった。
惣菜売り場のバックヤードは開店直後から、通常の商品に加えて、揚げ物の追加がひっきりなしにオーダーされ、トイレに行くヒマすらないほど忙しかった。
やっと勤務時間が終わって店から解放され自宅に帰ってきたが、しばらくはボーッとして、何をする気力もなかった。
タイマーで録画しておいた朝ドラを見なが

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フリーライターはビジネス書を読まない(45)

スーパーの店員はこうして常連さんを憶える

畑中の私家版を降りた後も、午前はスーパーでバイト、午後は原稿書きという生活を続けていた。生活費が減った繋ぎに、ほんの2~3カ月で辞めるつもりだったのに、気が付けば半年が過ぎ、年末年始の段取りをする時季に差しかかっていた。
すっかり仕事にも慣れ、あとから入ってきたバイトやパートのおばちゃんに仕事の段取りを教える立場としてチーフから頼りにもされ、なかなか辞め

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写真集「連師子」ができるまで ー #3 ラジオの音に

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写真集「連師子」ができるまで ー #1 穴の空いた写真
写真集「連師子」ができるまで ー #2 どう撮るのが正解なのか

「これは何ていう舞台ですか?」
「それは"雪の道"ね。昔別れた男女が雪の道で再会するんだけど、また別れてしまうお話」
「これは?」
「それは"道成寺(京鹿子娘道成寺)"ね。国立劇場でやったときのよ。」
「師匠のこの写真、かっこいいですね。」

ある日、師弟関

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フリーライターはビジネス書を読まない(44)

有名企業の専務がストーカー!?

畑中から預かった原稿を自宅へ持ち帰って、じっくり読んでみた。よく書けているが、そのまま本にするには、やっぱり文章に難がある。
全体に共通語で書いてあるけれど、ところどころに大阪弁の言い回しが混じっている。たぶん本人は気づいてない。

それにしても、内容が凄まじい。売れない私家版を出すより、有名人のゴシップばかり書きなぐっている週刊誌にでも売り込んだら、波及効果でひ

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写真集「連師子」ができるまで ー #2 どう撮るのが正解なのか

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写真集「連師子」ができるまで ー #1 穴の空いた写真

「君が写真家だって?おいおい。〇〇先生知ってる?」
ちょうど写真集の制作中に開いた、別の作品の展示会場でのこと。
作品を見ずに、というより僕の顔を見てすぐに始まる「あれ」だ。。。
「あなたモグリじゃないの。何歳?」
突然目の前で罵倒をはじめた初老の彼とは初対面。名前を聞いても名乗らない。
「僕は〇〇寺で展示したこともある

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写真集「連師子」ができるまで ー #1 穴の空いた写真

薄暗い舞台袖。向こうから差し込む光で、彼女のシルエットが浮かび上がっている。
キン、キン
舞台の始まりを知らせる拍子木の音が、僕や彼女の間をすり抜けて観客たち全員を射抜く。

鼓膜が破れないかと心配してしまう鋭いこの音を、「チョン」とやけに可愛いい言葉で表すのだと、僕は後に教わった。
本日の演目は...

これは、自分のストレートなドキュメンタリー作品に限界を感じていた30代の写真家が、様々な出会

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