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毎日読書メモ

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#本屋大賞

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)を読んだ。昨年(2023年)の本屋大賞第2位(1位は凪良ゆう『汝、星の如し』)。チェロが重要な役割を果たすと聞いていて気になって、買ったまま1年間積ん読してしまったが、ようやく読めた。

子どもの頃、習っていたチェロを、ある事件をきっかけに失い、なんとなく屈折した育ち方をした主人公橘樹。全日本音楽著作権連盟という会社に就職した樹は、社内の派閥抗争のとばっ

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待望の続編!!! 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(毎日読書メモ(520))

待望の続編!!! 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(毎日読書メモ(520))

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)、2024年1月24日刊行、と聞き、書店に走って買って帰る。ぶれない成瀬に見合った、期待を裏切らない読後感。おかえり成瀬、ありがとう成瀬。

年明けてからなんだか忙しくて、昨年の読書の振り返りとかしていないのだが、昨年読んでああよかったなあ幸せだなぁ、という本を選ぶなら、津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)、乗代雄介『それは誠』(新潮社)、そして宮

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ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(毎日読書メモ(399))

ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(毎日読書メモ(399))

昨年(2021年)の本屋大賞翻訳小説部門第1位をとった、ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(友廣純訳、早川書房)をようやく読んだ。
アメリカでも刊行直後から1年以上ベストセラーリストに入り続け、日本でも多くの書店員の注目を浴び、本屋大賞までとった作品だ。読んで、その吸引力に強く感じ入ったが、この小説を発見した多くの読者それぞれの慧眼にも感じ入る。

舞台は、アメリカ、ノースカロライナ州

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逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(毎日読書メモ(385))

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(毎日読書メモ(385))

今年の本屋大賞受賞作、逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)をようやく読んだ。
本屋大賞の発表日(2022/4/6)に、「逢坂冬馬さん」という文を書いた(ここ)。本屋大賞の副賞の図書カードの相当額10万円分を、ロシア国内で人権擁護のために活動しているNPOに寄付する、という心意気に感銘を受けて書いた。
そして、未だにロシアとウクライナの戦争が終わっていないことに心を痛める。

最終的に、ドイ

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湊かなえ『告白』(毎日読書メモ(382))

湊かなえ『告白』(毎日読書メモ(382))

最初に読んだ湊かなえ作品が『告白』(双葉文庫)だった。この、ごく初期作品で一気に本屋大賞とって、映画化されて、ある意味、今でも湊かなえの代表作、と言えば『告白』になってしまうのかも。
全作品追いかけている訳ではないが、たまに読みたくなる。イヤミスなので、たまに、くらいがわたしにはちょうどいい。

もっと「悲痛」な話だと勝手に思っていたのですが、実は恐ろし~い話でした。愛されたい、という願望から歪ん

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祝・窪美澄さん直木賞受賞!(毎日読書メモ(370)

祝・窪美澄さん直木賞受賞!(毎日読書メモ(370)

窪美澄さん、直木賞受賞おめでとうございます。
デビュー作「ミクマリ」を含む『ふがいない僕は空を見た』(新潮社、現在は新潮文庫)が出たのが2010年で、この作品で2011年に第24回 山本周五郎賞を受賞していることを思うと、2022年の直木賞は遅すぎだろ、と思う。一方で、じゃあ窪さんの代表作って何? まさか『ふがいない僕は空を見た』なの???、と思うと複雑な気持ち。この作品は第8回本屋大賞の第2位に

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小田雅久仁『残月記』(毎日読書メモ(348))

小田雅久仁『残月記』(毎日読書メモ(348))

2022年本屋大賞ノミネート作の読書2冊目(1冊目は米澤穂信『黒牢城』だった:感想ここ)。本屋大賞第7位、小田雅久仁『残月記』(双葉社)。

小田雅久仁は、前に『本にだって雄と雌があります』(新潮社、のち新潮文庫)を読んだ。空中を飛び回る本のイメージに目くるめく思いをしたが、インパクトは意外と持続せず、その後、作者を追っかけるということなく10年近くたってしまったが、『残月記』はなんと、『本にだっ

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逢坂冬馬さん

逢坂冬馬さん

という訳で、2022年度の本屋大賞は逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)が受賞しました。
わたしがちょっと推してみた(読みもせず推した:ここ)西加奈子『夜が明ける』は6位でした(順位ここ)。米澤穂信『黒牢城』(わたしの感想)は9位で六冠ならず。ほのほのはあんまり本屋大賞的な作家じゃないんですかね?

『同志少女よ、敵を撃て』もこれから読むので、作品についての感想はなしですが、中継の受賞スピ

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図書カードが10万円分あったら何を買うか(毎日読書メモ(276))

図書カードが10万円分あったら何を買うか(毎日読書メモ(276))

昨日の、朝日新聞&図書カードNEXTのキャンペーン企画「#1万円のエール」について感じたこと(ここ)の続き。そこに、自由に使っていい図書カードがあったら何を買うか。

毎年4月に発表される本屋大賞、副賞は図書カードが10万円分である。
大賞受賞者がその10万円の図書カードで何を買ったかは、「本の雑誌」の記事で紹介される。
これまでの本屋大賞のページの中でも、過去の受賞者が何を買ったかが、紹介されて

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毎日読書メモ(229)今年の本屋大賞は西加奈子さんでどうでしょう?

毎日読書メモ(229)今年の本屋大賞は西加奈子さんでどうでしょう?

今年の本屋大賞の候補作が発表された。
読みたい、と思っている作品ばかりだけど、残念ながらまだ読んだ作品はなし。現在の売れ筋とか書評とかでの取り上げられ方から見て、ラインナップはすごく順当な感じ、と思ったが、昨年大賞の町田そのこと昨年2位の青山美智子以外、連続ノミネート作家はいなかった。この二人も昨年が初ノミネートで、その前は候補になったことはない。

過去の候補履歴を確認してみた。なんと、5人が初

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毎日読書メモ(224)『舟を編む』(三浦しをん)

毎日読書メモ(224)『舟を編む』(三浦しをん)

三浦しをんの職業小説が好きだ。職業、と呼ぶにはちょっと微妙な『仏果を得ず』とか『神去なあなあ日常』とか、会社員小説の極みのような『星間商事株式会社社史編纂室』とか、『愛なき世界』も職業を極めている物語だ。
その中でも、本屋大賞をとった『舟を編む』(光文社、のち光文社文庫)は特に、プロフェッショナルの何たるかを教えてくれる。最後は勿論大泣き。

本屋大賞受賞直前に図書館に予約を入れ、それからでも随分

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毎日読書メモ(130)糠漬け文学の系譜!:『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(リリー・フランキー)

毎日読書メモ(130)糠漬け文学の系譜!:『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(リリー・フランキー)

本屋大賞取った時点で既にベストセラーだった『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』、わたしは受賞時点から、この作品にあげなくても、という気持ちが強かったのだが、読んでみて、同世代の人間には響きにくいのでは、という気持ちが強まった。2006年の本屋大賞、2位の『サウスバウンド』(奥田英朗)めっちゃ面白かったし、伊坂幸太郎は3位の『死神の精度』と11位の『魔王』のポイント足せば、リリー・フランキー

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毎日読書メモ(61)『52ヘルツのクジラたち』についてもう少し考えてみる

毎日読書メモ(61)『52ヘルツのクジラたち』についてもう少し考えてみる

昨日に続き、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)について考えてみる。

とりあえず、自分が書いた、『流浪の月』の感想を読み返してみた。精神的に健全とか不健全とか、線引きは難しいし、自分から見ておかしい、と思える人が、社会的には立派な人だと思われていることもある。そんな経験は誰にでもあるのではないかと思う。逆に、多くの人からヤバい人と思われている人が、誰かにとっての救いになる場合もあ

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毎日読書メモ(60)『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)

毎日読書メモ(60)『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)

ようやく、今年の本屋大賞受賞作、町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)を読んだ。今読み終わったばかりなので、取り急ぎ、とりとめのない感想だけ。

重く、苦しい、人間関係の物語。

そして機能不全の家族の物語。家族は人間の生まれて最初に取り巻かれる人間関係の基本だが、ある意味機能不全でない家族なんてないのかもしれない。すべての構成員が、他の構成員に対して満足していて、幸せに暮らしている

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