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#書評
ここにいながらできる旅ー読書感想「泣きたくなるような青空」(吉田修一さん)
読む”旅”をどうぞ。帯の惹句に偽りはありませんでした。吉田修一さんがANAの機内誌「空の王国」に連載していたエッセイをまとめた「泣きたくなるような青空」。開けば、いまここにいながら、旅路へと踏み出すことができる。風景に潜む「影」を掬い取る吉田さんの言葉。見慣れた景色がどこか違って見えるようになる。どこにも行けなくても、旅はできるんだと希望を持てました。(集英社文庫、2021年1月25日初版)
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差別される側を襲う二重の暴力ー読書感想「ニッケル・ボーイズ」(コルソン・ホワイトヘッドさん)
差別の理不尽は「二重」である。そのことを教えてくれる小説でした。コルソン・ホワイトヘッドさん「ニッケル・ボーイズ」。1960年代米国、キング牧師のレコードを擦り切れるまで聞いて、公民権運動に希望を抱いていた黒人の高校生が、冤罪で少年院に送られる。そこは白人による暴力が支配する地獄だった。文体はあくまでクールなのに、描かれる暴力はどこまでも痛々しい。いま現実に起きる差別を考える手掛かりにもなりました
もっとみるコーヒーの香りがする小説ー読書感想「シカゴ・ブルース」(フレドリック・ブラウンさん)
人はタフでいるためにコーヒーを必要とする。長い夜を越えるために、大切な話を心の中で整理するために。フレドリック・ブラウンさん「シカゴ・ブルース」は、コーヒーの香りがかぐわしく漂う。シカゴの路地裏で強盗に父親を奪われた18歳のエド。自由人アンブローズおじさんと共に素人捜査で犯人を追う中で、エドは少しずつ大人になる。クールで、骨太な物語。ピアノジャズのように静かに胸に迫ってくる、素敵な読書体験ができま
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