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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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#書評

読書熊の基本事項

読書熊の基本事項

このnoteの基本的な事項を説明します。(2024年1月更新)

何を書いているのか?日々の読書の中から、素敵だと思った本の素敵な点を書いていく読書感想ブログになります。「読書感想」としているのは、「書評」と言えるほど厳密な分析や批評的な視点が足りていないと自覚するためです。

なぜ書いているのか?一読者として、本が好きだという気持ち、本は面白いという思いを、ささやかながら波及していければと思って

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愛と科学が咲かせた花ー読書感想「悪魔の細菌」(ステファニー・ストラスディーさんら)

愛と科学が咲かせた花ー読書感想「悪魔の細菌」(ステファニー・ストラスディーさんら)

これは愛の物語であり、科学の物語でもありました。ノンフィクションの「悪魔の細菌 超多剤耐性菌から夫を救った科学者の戦い」。タイトルが示す通り、手の打ちようがない「悪魔の細菌」が夫の体に襲いかかる。まさしく絶体絶命の中、妻は「忘れられた技術」とも言える意外な治療法を探し出す。夫婦二人が科学者であるというのもポイント。相手を守りたいという思いと、科学を信じて挑む思いが重なった時、蓮の花のように希望が咲

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夢の毒性を学ぶー読書感想「BAD BLOOD」(ジョン・キャリールーさん)

夢の毒性を学ぶー読書感想「BAD BLOOD」(ジョン・キャリールーさん)

夢は人生を彩る。その裏返しに人生を蝕み、壊しさえする「毒性」を持っている。本書はその両面をリアルに学ばせてくれる傑作ノンフィクションでした。ウォール・ストリート・ジャーナルの元名物記者ジョン・キャリールーさんの「BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相」。扱っている「セラノス事件」は、革新的血液検査技術をうたって巨額の投資を集めた米国のユニコーン企業が、実は山のような不正を隠

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わたしは本はよいものであると信じるー読書感想「子どもと本」(松岡享子さん)

わたしは本はよいものであると信じるー読書感想「子どもと本」(松岡享子さん)

「わたしたちは、本はよいものであると信じる人々の集団に属しています。わたしたちの任務は、できるだけ多くの人をこの集団に招き入れることです」(p40)。「東京子ども図書館」の創設に尽力した筆者・松岡享子さんが、米国で働いた公共図書館の館長から授けられた言葉だそうです。本書「子どもと本」を読んだ後、何度も何度もこの言葉を噛みしめている。わたしもまた、本はよいものであると信じる一人。そしてできるだけ多く

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人類の強さは「弱さを補うこと」ー読書感想「哲学と人類」(岡本裕一朗さん)

人類はなぜ音声を生み出したのか。なぜ文字を発明し、なぜ印刷技術を獲得したのか。なぜデジタルメディアをつくり、次はどこへ向かうのか。無数の「なぜ」にバシバシと答えてくれる一冊が、岡本裕一朗さん「哲学と人類」でした。人類誕生から2020年現在まで、人類史に重ねて哲学の歴史を述べる。壮大なんだけれども、岡本さんのまとめ方、論じ方が巧みで飽きることがない。キーに置いたのはメディア。音声・文字・印刷・デジタ

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読むラジオー読書感想「人文的、あまりに人文的」(山本貴光さん・吉川浩満さん)

読むラジオー読書感想「人文的、あまりに人文的」(山本貴光さん・吉川浩満さん)

知的でやさしい会話が聞こえてくる。対談形式のブックガイド「人文的、あまりに人文的」は”読むラジオ”というのがぴったりの一冊でした。文筆家・ゲーム作家の山本貴光さんと、同じく文筆家・編集者の吉川浩満さんの掛け合い。ものごとへの視点の変え方、柔らかい考え方を学べる。本が開いてる時間がとても幸せなものに思える良書です。(本の雑誌社、2021年1月22日初版)

人文書をときほぐす本書は東浩紀さんが編集長

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ここにいながらできる旅ー読書感想「泣きたくなるような青空」(吉田修一さん)

ここにいながらできる旅ー読書感想「泣きたくなるような青空」(吉田修一さん)

読む”旅”をどうぞ。帯の惹句に偽りはありませんでした。吉田修一さんがANAの機内誌「空の王国」に連載していたエッセイをまとめた「泣きたくなるような青空」。開けば、いまここにいながら、旅路へと踏み出すことができる。風景に潜む「影」を掬い取る吉田さんの言葉。見慣れた景色がどこか違って見えるようになる。どこにも行けなくても、旅はできるんだと希望を持てました。(集英社文庫、2021年1月25日初版)

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いまさらでも噛み締めるー読書感想「昭和史1926-1945」(半藤一利さん)

いまさらでも噛み締めるー読書感想「昭和史1926-1945」(半藤一利さん)

半藤一利さんの訃報に接して「昭和史1926-1945」を読みました。こんなにも面白い本をなぜ今まで読まなかったのだろう。本当であれば生前に拝読し、出版社や著者ご本人に「素晴らしい本をありがとうございます」と伝えたかったし、伝えるべきだった。それでも、いまさらでも残された言葉を噛み締めたいと思う。「歴史は決して学ばなければ教えてくれない」(p507)のだから。(平凡社ライブラリー、2009年6月11

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水面下を育てるー読書感想「英語独習法」(今井むつみさん)

水面下を育てるー読書感想「英語独習法」(今井むつみさん)

本書にはあらゆる学びにつながる本質が書かれていました。今井むつみさん「英語独習法」。聞くだけとか、大量に英語に触れるとか、巷に溢れる英語学習テクニックで「結局は英語が身につかないのはなぜか?」を認知心理学から明らかにする。では、言葉を身につけるためにはなにが必要か。それが知識の水面下に広がる「スキーマ」。読み進めるたびになるほど!とうなりました。(岩波新書、2020年12月18日初版)

スキーマ

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償いは今も可能なのかー読書感想「夜の谷を行く」(桐野夏生さん)

償いは今も可能なのかー読書感想「夜の谷を行く」(桐野夏生さん)

罪を償うことは可能なのか。現代においても可能なのか。桐野夏生さん「夜の谷を行く」を読んで問いがぐるぐる頭を回っている。1970年代の「連合赤軍事件」で凄惨なリンチに加担し、服役を終えた主人公の女性。なるべくひっそりと暮らそうとしていた2011年、さまざまな転機が訪れる。過去が追いかけるようにやってくる物語は、読んでいるこちらが苦しくなる。でも目が離せなかった。(文春文庫、2020年3月10日初版)

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「損なわれること」の見えにくさー読書感想「デフ・ヴォイス」(丸山正樹さん)

「損なわれること」の見えにくさー読書感想「デフ・ヴォイス」(丸山正樹さん)

差別される人の気持ちを「分かる」ことは、どうしてこうも難しいのか?丸山正樹さんの小説「デフ・ヴォイス」はこの問いを考えるための手掛かりになってくれた。テーマは聴覚障害者の世界。さらに「耳が聴こえない家族に育つ、耳の聴こえる主人公」という、極めて珍しい設定が目を引く。しかし、連れ出されるストーリーは骨太で、決して気をてらったものではない。そして始終あたまを巡るのは、普遍的な差別の問題。「損なわれるこ

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差別される側を襲う二重の暴力ー読書感想「ニッケル・ボーイズ」(コルソン・ホワイトヘッドさん)

差別される側を襲う二重の暴力ー読書感想「ニッケル・ボーイズ」(コルソン・ホワイトヘッドさん)

差別の理不尽は「二重」である。そのことを教えてくれる小説でした。コルソン・ホワイトヘッドさん「ニッケル・ボーイズ」。1960年代米国、キング牧師のレコードを擦り切れるまで聞いて、公民権運動に希望を抱いていた黒人の高校生が、冤罪で少年院に送られる。そこは白人による暴力が支配する地獄だった。文体はあくまでクールなのに、描かれる暴力はどこまでも痛々しい。いま現実に起きる差別を考える手掛かりにもなりました

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コーヒーの香りがする小説ー読書感想「シカゴ・ブルース」(フレドリック・ブラウンさん)

コーヒーの香りがする小説ー読書感想「シカゴ・ブルース」(フレドリック・ブラウンさん)

人はタフでいるためにコーヒーを必要とする。長い夜を越えるために、大切な話を心の中で整理するために。フレドリック・ブラウンさん「シカゴ・ブルース」は、コーヒーの香りがかぐわしく漂う。シカゴの路地裏で強盗に父親を奪われた18歳のエド。自由人アンブローズおじさんと共に素人捜査で犯人を追う中で、エドは少しずつ大人になる。クールで、骨太な物語。ピアノジャズのように静かに胸に迫ってくる、素敵な読書体験ができま

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リアル・シン・ゴジラー読書感想「理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!」

リアル・シン・ゴジラー読書感想「理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!」

「8割おじさん」として一躍有名になった研究者・西浦博さんの本音を知ることができる本です。その思いは本当にまっすぐだった。なんとか感染拡大を防ごうと必死だった。それまでの「父権主義的」な科学コミュニケーションを脱して、国民がリスク情報をオープンに議論できるように試みた。描かれている風景は映画「シン・ゴジラ」を彷彿とさせた。ゴジラ並みの脅威をなんとか制圧するために、どれほど頭を絞って、命を削って闘って

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