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AUT VIAM INVENIAM AUT FACIAMーミニ読書感想『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん)
ラテン語さんの『世界はラテン語でできている』(2024年1月15日初版発行、SB新書)が、シンプルに面白かったです。世界史、政治、宗教、エンタメ…さまざまな分野に今も根付き、数々の言葉の語源になっているラテン語。その魅力を次々披露してくれる、豆知識・トリビアの本です。気軽に読めて、確実に「へ〜」と驚ける。
特に興味深かったのは、世界史のさまざまな場面で登場するラテン語でした。世界史好きには刺さる
「聞けてよかった」が不可欠ーミニ読書感想『死にたいって誰かに話したかった』(南綾子さん)
南綾子さんの『死にたいって誰かに話したかった』(双葉文庫、2023年1月15日初版発行)が、かなりの名作でした。タイトルにギョッとするかもしれませんが、この作品は奥深く力強い。生きづらさと、話すこと・聞くことについての物語です。
それぞれの事情で生きづらさを抱える主人公たちが、ひょんなことから「生きづらさを克服しようの会」(通称生きづら会)を結成するというのがあらすじ。最初は、何をやってもうまく
羽のように雪のように砂糖菓子のようにーミニ読書感想『いつかたこぶねになる日』(小津夜景さん)
なんとも不思議な本に出会いました。俳人・小津夜景さんの『いつかたこぶねになる日』(新潮文庫、2023年11月1日初版発行)。内容を説明すれば、本書は漢詩を紹介するエッセイ。でもそれだけでは捉えられない読書世界がある。羽のように軽く、雪のように白い。あるいは砂糖菓子のように甘く、でもすぐ消えていく。何かのジャンルに当てはめることが、どうにも勿体無い一冊でした。
著者は俳人で、フランスのニーズに住ん
攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)
ASD(自閉スペクトラム症)当事者で、研究者のテンプル・グランディンさんの『自閉症感覚』(中尾ゆかりさん訳、NHK出版、2010年4月10日初版発行)が学びになりました。15年近く前の本ですが、いまだに版を重ね、現在も書店の棚に挿されていました。タイトル通り、ASD者として「どう感じてきたか」がたくさん盛り込まれている。
ASDは、抽象的概念の理解に困難さがある人がいるとされます。著者もその一人
声を聞くために学ぶーミニ読書感想『学ぶことは、とびこえること』(ベル・フックスさん)
人種差別の課題やフェミニズムに取り組んだ研究者ベル・フックスさんの『学ぶことは、とびこえること』(里美実さん監訳、朴和美さん、堀田碧さん、吉原令子さん訳、ちくま学芸文庫2023年5月10日初版発行)が学びになりました。特にフェミニズムについて、黒人女性であるベルさんは、それが白人女性のためのフェミニズムになっていないか批判的思考を追求した。周縁化される声を、無効化される声を聞くための、学びの方法を
もっとみる早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)
児童発達支援に詳しい専門医・本田秀夫さんの『知的障害と発達障害の子どもたち』(SB新書、2024年3月15日初版発行)は、親の悩みに寄り添う素晴らしい本でした。発達障害のある子(疑いが指摘される子)の親にとって、ASDやADHDがあるかどうかと同時に気になるのが、知的障害の有無であることに異論は少ない気がします。本書は二つの障害の関連や、発達障害に比べて一般書が少ない知的障害のある子どもへの支援を
もっとみる「搾取に苦しむ人」に向けたSF小説ー『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣さん)
間宮改衣さんのデビュー小説『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房、2024年3月6初版発行)は、読んだ後に「すごい小説を読んだな」と唸ってしまう作品でした。なるべく事前情報(ネタバレ)なしで読まれてほしい。凄まじいインパクトを、ダイレクトに受け取って欲しい。
なので感想で書くべき情報は極力少なくしたいけれど、これだけは声高に訴えたい。これは多くの生きづらさを抱えた人、とりわけなんらかの搾取に苦し
古い本の豊かな味わいーミニ読書感想『本の栞にぶら下がる』(斎藤真理子さん)
斎藤真理子さんの『本の栞にぶら下がる』(岩波書店、2023年9月14日初版発行)が滋味あふれる一冊でした。『フィフティー・ピープル』や『82年生まれ、キム・ジヨン』など、韓国文学(朝鮮文学)の名作を日本に届けてくれている翻訳者による読書エッセイ。紹介されている本の多くは古い本だけれど、そこに全く古びない豊かな味わいがあると教えてもらいました。
たとえば、思想家鶴見俊輔さんが著した新書エッセイにつ
かなり違った人との会話ーミニ読書感想『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(朱喜哲さん)
NHK番組『100分de名著』シリーズのテキスト『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版、2024年2月1日発行)が学びになりました。ナビゲーターは哲学者の朱喜哲さん。番組は見れていませんが、書籍として単独で楽しめる。朱さんの単著『〈公正〉を乗りこなす』とリンクさせて考えることができました。
『公正』は「正義論」のロールズと、「会話を続けるための哲学」を提唱したローティが二本柱
言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)
切れ味のある書評を書くにはどうすればよいのか?ーーそのお手本と言える一冊が作家・宮部みゆきさんの『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん、中公新書ラクレ、2023年11月10日初版発行)でした。読売新聞の書評面「本よみうり堂」をまとめた本書。長いもので見開き2ページ、短いものでは1ページちょっとの分量で、その本の魅力を伝える。簡にして要を得るとは、まさにこ
もっとみる分ける理解・つなぐ理解ーミニ読書感想『野生のしっそう』(猪瀬浩平さん)
猪瀬浩平さんの『野生のしっそう』(ミシマ社、2023年11月20日初版発行)が学びになりました。人類学者が、自閉症と知的障害がある兄と「ともに」思索する本。失踪でも、疾走でもなく、しっそうとタイトルにするような、独特の「あわい(間)」を大切にする本でした。
中心的なテーマになっているのは、著者のお兄さんが突然、家を飛び出してどこかにいってしまうこと。それは客観的に言えば、障害者の失踪である。でも
失われる狩りの景色の活写ーミニ読書感想『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(田中康弘さん)
カメラマン田中康弘さんの『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(ヤマケイ文庫、2023年6月5日)が面白かったです。『おすすめ文庫王国2024』にランクインしていた本書。タイトル通り、日本のあちこちで昔から続けられてきた狩り(獣肉の調達)に目を向ける。だんだんと失われつつある狩りの様子、そこで得られる肉の味を活写してくれています。
写真がふんだんに使われていて、めくっているだけでも楽し