読書熊

善き読者でありたい。素敵な本の素敵なところを綴る「読書感想」をアップしています(この頃は月5-10本、深夜更新が多め)。完全な趣味、非営利。お問い合わせはプロフィール欄からお願い致します。

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      素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています

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      読んでいる本、読んだ本、読みたい本についてつれづれ書いている日記のようなもの

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    2022年上半期に読んで胸に残った本10選

    2022年上半期も、たくさんの素敵な本に出会いました。その中から特に胸に残ったおすすめの10冊をピックアップしご紹介します。小説4点、ノンフィクション6点。長引くコロナ下の日常を捉え直す作品や、スケールの大きな超大作、視点を劇的に変える科学モノなど、いずれも世界の窓を少し開いてくれ、新しい風を心に吹き込んでくれる本たちです。 ①「地図と拳」「ゲームの王国」で日本SF大賞を受賞した小川哲さんの最新作。本編600ページ超のいわゆる「鈍器本」ですが、読み始めると止まりません。

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      • 子どもが言語を学ぶすごさが分かるーミニ読書感想「言葉をおぼえるしくみ」(いまいむつみさん・針生悦子さん)

        発達心理学者の今井むつみさん、針生悦子さんの「言葉をおぼえるしくみ」(ちくま学芸文庫)が刺激的だった。乳幼児はどのようにして言葉を話せるようになるのか?さまざまな実験でその仕組みに迫る。我が子が言語を学ぶことがいかにすごいことなのか、実感することができた。 そのすごさを集約しているのが次のセンテンス。 言葉を学ぶのは、よくよく考えると難しい。たとえば「ウサギ」というワードをとると、これが目の前の動物のことなのか、それとも目の前のものが「白い」ことを示すのか、それを一体どう

        • ありきたりの人生を生きるーミニ読書感想「会社員、夢を追う」(はらだみずきさん)

          はらだみずきさんの長編小説「会社員、夢を追う」(中公文庫)を楽しく読んだ。タイトルとは逆説的に、この物語はありきたりな人生を生きる尊さを読者に伝えてくれている。 本書は、八重洲ブックセンター本店でプッシュされていた。舞台は同店の付近の銀座で、しかも主人公は出版社で働く夢破れ、仕方なしに銀座の紙商社で働く若者ときた。店員さんが強い思い入れを持っているのではないかと感じられ、購入した。 そう、主人公は思うように就活が進まなかった新入社員。悪戦苦闘し、まだまだ仕事には慣れずに苦

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          • 井伏鱒二の伝えた「善き生き方」ーミニ読書感想「ドリトル先生アフリカゆき」(ヒュー・ロフティング)

            岩波少年文庫でこの夏、2冊買うとオリジナルブックカバーがもらえるというフェアをやっていた。そこで買ったヒュー・ロフティング「ドリトル先生アフリカゆき」がとても胸に響いた。あとがきを読んでびっくりしたことに、訳者は井伏鱒二。連載中に第二次世界大戦が発生して中断、戦後に世に問うた。本書には、井伏鱒二が願いを込めた「善き生き方」が描かれているのではないかと感じた。 井伏鱒二が込めた思い。たとえば、ドリトル先生の次の台詞から感じられた。 航路の途中で襲われた海賊のお頭に対する言葉

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            歴史を学ぶとは「響きに耳を澄ますこと」ーミニ読書感想「歴史像を伝える」(成田龍一さん)

            岩波新書の「シリーズ歴史総合を学ぶ」第2巻、成田龍一さんの「 歴史像を伝える--「歴史叙述」と「歴史実践」」が非常に勉強になった。歴史を学ぶとはどういうことか?それは確定的な事実を知り暗記することではない。学ぶ人によって姿形を変える闇の中の歴史に「問い」を投げ掛けること。そして、その問いに歴史がどう響きを返すのか、よく耳を澄ますことだと教えてくれた。 パンチラインは序盤に現れる。日露戦争の後に石川啄木が記した「はたらけど はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり ぢつと手

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            「虐殺器官」のハードルに挑む意欲作ーミニ読書感想「ループ・オブ・ザ・コード」(荻堂顕さん)

            荻堂顕さんの「ループ・オブ・ザ・コード」(新潮社)が面白かった。ジェノサイド、生命倫理、諜報、謎解きを詰め込んだ物語。少なくない人が思い浮かべる通り、伊藤計劃さんの「虐殺器官」と「ハーモニー」という金字塔と同じテーマに踏み込んでいる。その高いハードルに正面から挑んだ意欲作だと感じた。 ゲームクリエイターの小島秀夫さんや、書評家で批評家の大森望さんが帯で激賞していることに引かれて購入した。両氏も「虐殺器官」を想起したことを述べている。 虐殺器官との類似点は物語形式にも見られ

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            物語の空白に耐えられない生き物ーミニ読書感想「ストーリーが世界を滅ぼす」(ジョナサン・ゴットシャルさん)

            米大学の英語学科特別研究員ジョナサン・ゴットシャルさんの「ストーリーが世界を滅ぼす」(月谷真紀さん訳、東洋経済新報社)が勉強になった。原題は「THE STORY PARADOX」。ホモ・サピエンスをホモ・フィクトゥス(物語の人間)あるいはストーリーテリング・アニマルとして捉えることをテーマにしたノンフィクションだった。 邦題より原題の方が読後の感想に合う。本書は、ストーリーテリング(物語を語ること)の功罪、人類の発展に寄与した分と同じかそれ以上に悪影響を人類に与えているので

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            奇想の海ーミニ読書感想「いずれすべては海の中に」(サラ・ピンスカーさん)

            米国人作家サラ・ピンスカーさんの短編集「いずれすべては海の中に」(竹書房文庫)はが面白かった。さまざまな味を集めたドロップ・ボックスのよう。帯の惹句にある「底知れぬ奇想の海へ」がまさにふさわしい作品集だった。 巻頭の一作「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」からフルスロットル。農作業中の事故で右手を失った若者が最先端の義手を取り付けたところ、なぜかその義手が「自分はコロラドのアスファルト道路だ」と思い込み、若者に訴えかけてくるという話。義手が道路?よくもまあこんな設定を思いつく

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            負け戦は難しいーミニ読書感想「撤退戦」(斎藤達志さん)

            防衛研究所所属の歴史学研究者・斎藤達志さんの「撤退戦」(中央公論新社)が渋くて面白かった。第一次世界大戦や第二次世界大戦、朝鮮戦争で、戦局が不利になり後退、撤退しながら戦うことになったシーンを集中して取り上げている。「負け戦」にも濃淡があり、被害を最小に収める負け方がいかに難しいかを教えてくれる。 好例としては英国がドイツの電撃戦で追い込まれたダンケルクから撤退した「ダンケルクの奇跡」が挙げられる。6万8000人以上の将兵が亡くなったが、35万人を救出し、次の戦闘に備えるこ

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            呪術と暴力と科学のマリアージューミニ読書感想「爆発物処理班の遭遇したスピン」(佐藤究さん)

            佐藤究さんの最新短編集「爆発物処理班の遭遇したスピン」(講談社)が面白かった。原始的な呪術、シンプルな暴力、最新の科学。混ざり合うはずのないこれらが渾然一体となり、格別のマリアージュと言える読み心地を味わえた。 批評家・加藤典洋さんは、村上春樹の短編が長編作につながる試作となっていると説いた。本書収録の作品の初出はいずれも2010年代後半で、佐藤さんの話題作「テスカトリポカ」(21年)以前にあたる。本書はまさに加藤典洋さんの言う通り、テスカトリポカにつながる魅力が詰まった作

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            小さな歴史に耳を傾ける気持ちのいいノンフィクションーミニ読書感想「ドライブイン探訪」(橋本倫史さん)

            ライター橋本倫史さんの「ドライブイン探訪」(ちくま文庫)を読んで胸が温かくなった。とても気持ちのいいノンフィクション。時代の変化とともに数が減りつつあるドライブインを訪れ、長年営む人々の声を拾う。何もしなければ埋もれてしまう「小さな歴史」に真摯に耳を傾けている。 本書の特徴は、ドライブイン経営者の声を真剣に聞いていることだ。なぜ始めて、どんな思い出があるか。どんな苦労があるか。手間をかけないノンフィクションならば、それを字にするだけでも成立する。しかし著者は、小学校文集など

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            人生は終わりからまた始められるーミニ読書感想「われら闇より天を見る」(クリス・ウィタカーさん)

            クリス・ウィタカーさんの「われら闇より天を見る」(早川書房、鈴木恵さん訳)は、今年ナンバーワン・クラスの極上の小説だった。米国の田舎町で起きた痛ましい犯罪により、打ちのめされた人々がそれでも人生を懸命に歩む姿を描く。原題の「WE BEGIN AT THE END」の通り、「終わり」からいかに人生を始めるのかを問う。 本書の何が極上かといえば、二つある。一つは彫りの深い人物造形。愚かで、だけどまっすぐ。「憎めない」というより、痛々しいほど人間らしい彼ら彼女らの姿をつい目で追っ

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            分権的な脳ーミニ読書感想文「現れる存在」(アンディ・クラークさん)

            哲学者アンディ・クラークさんの「現れる存在 脳と身体と世界の再統合」(ハヤカワ文庫)が知的興奮に満ちていた。なぜ人間の知能を人工的に再現するのは難しいのか?この灰色の細胞の塊には、未知の万能な司令塔機能が宿っているのか?こうした疑問に、本書は「分権的な脳」「外部に染み出す脳」という新たな姿を提示する。 原著のコピーライトは1997年となっていて、日本語訳の初版は2012年とみられるけれど、解説によると、22年の現在に至っても本書の問題設定、問題提起は有効なようだ。読後感とし

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            亡国への道の詳細ーミニ読書感想「日独伊三国同盟」(大木毅さん)

            歴史家の大木毅さん著「日独伊三国同盟 『根拠なき確信』と『無責任』の果てに」(角川新書)が勉強になった。日本が対米開戦、その後の敗戦に至るきっかけになった日独伊三国同盟の成立経緯を物語として読める。亡国への道の詳細が分かる内容。 著者は「独ソ戦」(岩波新書)が有名。もともと赤城毅さんというペンネームで小説家をされているとのことで、ストーリーテリングの腕が光る。するすると読める。 「優秀な軍人や政治家がいたはずの日本はなぜ亡国の道を歩んだのか」というのが本書の問題意識。だか

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            表現する言葉を奪われた子どもたちーミニ読書感想「ルポ 誰が国語力を殺すのか」(石井光太さん)

            ノンフィクションライター石井光太さんの最新刊「ルポ 誰が国語力を殺すのか」(文藝春秋)にぐいぐいと引き寄せられた。読解力以前の国語力低下を問う。少年犯罪、あるいは不登校などのさまざまな課題の根本に、子どもたちの言葉の貧困があるのではないかというのが本書の主張。読了すると大変納得できる。子どもたちは、自分の感情や思いを表現する言葉を奪われてはいないか。 ジャーナリズム系の雑誌が減少し、ノンフィクションライターが発表する場、あるいはライターを育成する場が減少する中、石井さんは精

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            踏みにじられる側から描く戦争ーミニ読書感想「ある日 失わずにすむもの」(乙川優三郎さん)

            乙川優三郎さんが2018年に刊行し、2021年に徳間文庫に収録された連作短編集「ある日 失わずにすむもの」が切なかった。近未来、勃発した世界規模の戦争に分断される各国の人々の日常を描く。踏みにじられる側、殺される側から見える戦争の景色を淡々とした筆致でつむぐ。 解説でも言及されている通り、わざわざ英語で付された副題が「twelve antiwar stories」であることは胸に留めたい。これは明確な反戦小説だ。 「戦争小説」であれば、踏みにじられる生と同様に生き残る生や

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