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善き読者でありたい。素敵な本の素敵なところを綴る「読書感想」をアップしています(この頃は月5-10本、朝の更新が多め)。「発達障害のある我が子をより愛するために読む」というテーマでも読書しています。完全な趣味、非営利。お問い合わせはプロフィール欄からお願い致します。

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    素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています

  • 発達障害の我が子をより愛するために読む

    発達障害のある我が子を今以上に愛するため、読み進めている本を記録します。ASDやADHDなど発達障害の他、身体・知的障害、難病、福祉、幅広い分野を学んでいきます。

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この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。 冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。 本を読む目が変わりました。病や困難に直面した人の語りが身に沁みる。あらゆる物語に、我が子の姿や、我が子の人生のヒントにな

    • 言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)

      切れ味のある書評を書くにはどうすればよいのか?ーーそのお手本と言える一冊が作家・宮部みゆきさんの『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん、中公新書ラクレ、2023年11月10日初版発行)でした。読売新聞の書評面「本よみうり堂」をまとめた本書。長いもので見開き2ページ、短いものでは1ページちょっとの分量で、その本の魅力を伝える。簡にして要を得るとは、まさにこのこと。剣聖の刀さばきを味わいました。 たとえば『日本ノンフィクション史』(武

      • 分ける理解・つなぐ理解ーミニ読書感想『野生のしっそう』(猪瀬浩平さん)

        猪瀬浩平さんの『野生のしっそう』(ミシマ社、2023年11月20日初版発行)が学びになりました。人類学者が、自閉症と知的障害がある兄と「ともに」思索する本。失踪でも、疾走でもなく、しっそうとタイトルにするような、独特の「あわい(間)」を大切にする本でした。 中心的なテーマになっているのは、著者のお兄さんが突然、家を飛び出してどこかにいってしまうこと。それは客観的に言えば、障害者の失踪である。でも著者はそうではなくて、それはお兄さんが走り出すこと、この世界を駆けていくこと、つ

        • 失われる狩りの景色の活写ーミニ読書感想『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(田中康弘さん)

          カメラマン田中康弘さんの『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(ヤマケイ文庫、2023年6月5日)が面白かったです。『おすすめ文庫王国2024』にランクインしていた本書。タイトル通り、日本のあちこちで昔から続けられてきた狩り(獣肉の調達)に目を向ける。だんだんと失われつつある狩りの様子、そこで得られる肉の味を活写してくれています。 写真がふんだんに使われていて、めくっているだけでも楽しい。キャプションもクスッとしてしまうユーモアに溢れている。著者は、なんというか自

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          夏目漱石『門』をいまさら読む

          夏目漱石『門』(角川文庫、1951年2月15日初版発行)を読みました。いまさら、ではあるけれども、三宅香帆さんの『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(角川文庫)で紹介されていて、どうしても読みたくなりました。「旧刊も、出会った時がその人にとっての新刊」とはまさにそう。ほんとに、読めて良かったなと思いました。 (『読んふり』の魅力はこちらで紹介) 『読んふり』では、『門』の代名詞とも言えそうな、禅寺の前で立ちすくむ主人公の心情が取り

          夏目漱石『門』をいまさら読む

          土地の香りとひとつまみの不思議ーミニ読書感想『八月の御所グラウンド』(万城目学さん)

          万城目学さんの直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』(文藝春秋、2023年8月10日初版発行)が面白かったです。万城目作品はこれまで読んだことがなく、直木賞をきっかけに初めて読みました。京都という土地の香りが優しく漂うと共に、ちょっぴりいい塩梅の不思議さがとても心地よかったです。 読むにあたって、ちょうど公開されたNHKニュースのこちらの記事に目を通していました。リアルが9、空想が1。読んでみるとたしかになーと実感しました。 本書は2篇収録。高校生駅伝をテーマにした『十二月

          土地の香りとひとつまみの不思議ーミニ読書感想『八月の御所グラウンド』(万城目学さん)

          歩くとは読むことーミニ読書感想『散歩哲学』(島田雅彦さん)

          小説家島田雅彦さんのエッセイ『散歩哲学』(ハヤカワ新書、2024年2月25日初版発行)が面白かったです。まさに散歩道のように、寄り道だらけ。それが良い。島田さんは呑兵衛らしく後半はほとんど飲み歩きの話。それも良い。そんなこんなしてるうちに、散歩哲学の何たるかが体に染み渡る。 散歩とは何か?それは「読むこと」である。歩くことは読むこと。それが散歩哲学と見受けました。 たとえばエピローグでこんなふうに語られる。 都市も里山を歩くことは、その細部に目を向け、読み取ることである

          歩くとは読むことーミニ読書感想『散歩哲学』(島田雅彦さん)

          なんのための診断ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムとは何か』(千住淳さん)

          医学の基礎研究に取り組む千住淳さんの『自閉症スペクトラムとは何か』(ちくま新書、2014年1月10日初版発行)が学びになりました。ASDの基本的な特徴や、遺伝子との関係の基礎知識を学べる。初版はもう10年も前になりますが、現代にも十分通じる内容かと思います。自分は特に「診断とはなんのためにあるのか?」という部分で学びを深めました。 ASDは目には見えません。また、障害名のとおりそれはスペクトラム(連続体)で、「定型(普通)」との境界はグラデーション。ある部分は定型に見えるこ

          なんのための診断ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムとは何か』(千住淳さん)

          2024年2月に読んだ本リスト

          ・『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』、三宅香帆さん、角川文庫 ・『本心』、平野啓一郎さん、文春文庫 ・『自閉症は津軽弁を話さない リターンズ』、松本敏治さん、角川ソフィア文庫 ・『世界は経営でできている』、岩尾俊兵さん、講談社現代新書 ・『台湾対抗文化紀行』、神田桂一さん、晶文社 ・『安楽死が合法の国で起こっていること』、児玉真美さん、ちくま新書 ・『それで君の声はどこにあるんだ?』、榎本空さん、岩波書店 ・『子どもと学校』、河合隼

          2024年2月に読んだ本リスト

          鬼舞辻無惨に対抗する「学びの呼吸」ーミニ読書感想『話が通じない相手と話をする方法』(ピーター・ボゴジアンさん&ジェームズ・リンゼイさん)

          ピーター・ボゴジアンさんとジェームズ・リンゼイさんによる『話が通じない相手と話をする方法』(藤井翔太さん監訳、遠藤進平さん訳、晶文社、2024年2月5日初版発行)がためになりました。X(旧Twitter)などで大変話題になっていて、そのタイトルに思わず目を惹かれました。まさしく、話が通じない相手と、それでも会話を続けていくためのマインドセット・スキル・テクニックがふんだんに語られています。 入門〜上級までたくさんのコツが順に説明されますが、とりわけ心に残ったのは「学びのモー

          鬼舞辻無惨に対抗する「学びの呼吸」ーミニ読書感想『話が通じない相手と話をする方法』(ピーター・ボゴジアンさん&ジェームズ・リンゼイさん)

          話し続けよう聴き続けようーミニ読書感想『〈公正〉を乗りこなす』(朱喜哲さん)

          哲学者・朱喜哲さんの『〈公正〉を乗りこなす』(太郎次郎社エディタス、2023年9月10日初版発行)が学びになりました。本棚に置いて、じっくり学びを噛み締めたくなる一冊。「正義の反対は別の正義」とか「それってあなたの意見ですよね」のように、「会話」を打ち切る常套句。こうしたフレーズを避けて、公正や正義といった概念をうまく「乗りこなし」つつ、会話を続ける、そして聴き続ける姿勢を養うためのガイドブックでした。 正義や公正のように、固くて、なんとなく使いにくさを感じる言葉。これをう

          話し続けよう聴き続けようーミニ読書感想『〈公正〉を乗りこなす』(朱喜哲さん)

          だからその無駄をやるーミニ読書感想『俺達の日常にはバッセンが足りない』(三羽省吾さん)

          三羽省吾さんの『俺達の日常にはバッセンが足りない』(双葉文庫、2023年6月17日初版発行)がしみじみ、面白かったです。小説としては地味かもしれないけど、良い。劇的な展開があるわけではないけど、だからこそ優しい。大切なことが語られてる。 バッセンとは、バッティングセンターのこと。タイトル通り、日常にバッティングセンターが足りないんだ!だからつくるぞ!とゴリ押ししてくる、迷惑な友達に振り回される話。 バッティングセンターは、明らかに必要不可欠なインフラではない。少し前の言葉

          だからその無駄をやるーミニ読書感想『俺達の日常にはバッセンが足りない』(三羽省吾さん)

          星野源さんの法則

          なにか物事を評価し、それを公に言及するときは「星野源さんの法則」と勝手に呼んでいるルールを厳守するようにしています。『星野源のオールナイトニッポン』で何度か発言されていて、自分がよく聞いていた2017〜2020年当たりにも話されていたと思います。 ラジオなので正確な出典明記が難しく、かつ、記憶によるので不正確かも知れません。その上で、私が呼ぶ法則というのは以下二点に集約されます。 たとえば、すごく面白い本を読んだとする。第一法則は、「あの作品はつまらなかったけど、これは面

          星野源さんの法則

          くるたのしく育てるーミニ読書感想『子どもと学校』(河合隼雄さん)

          故・河合隼雄さんの『子どもと学校』(岩波新書、1992年2月20日初版発行)が、子育ての戒めとして学びになりました。もう30年も前の本になりますが、23年のフェア「時代の輪郭 新赤版の30人30冊」でプッシュされていて、出会えました。軽妙で滋味深い「河合節」が随所に見られますが、とりわけ「くるたのしい」という言葉が胸に残りました。 たとえば冒頭から、こんな鋭い河合節があります。 多様性、多様性というものの、それ以上に価値の一様化が進んでいないか?これは30年経ったいまも、

          くるたのしく育てるーミニ読書感想『子どもと学校』(河合隼雄さん)

          共鳴する痛みーミニ読書感想『それで君の声はどこにあるんだ?』(榎本空さん)

          榎本空さんの『それで君の声はどこにあるんだ?』(岩波書店、2022年5月10日初版発行)が胸に残りました。キリスト教者の著者が、米国・ニューヨークの片隅にある神学校で「黒人神学」を学ぶ話。自分たちを抑圧する白人の神学とは異なる、自分たちの声を探った黒人神学。その切実さが胸に残ったのでした。 印象に残った文章をまず挙げます。 奴隷として異国の地に連れ出され、およそ400年間抑圧の歴史を生き抜いてきた米国の黒人たち。ブラック・ライブズ・マター運動のきっかけの事件のように、「息

          共鳴する痛みーミニ読書感想『それで君の声はどこにあるんだ?』(榎本空さん)

          出会った本は逃がさないほうがよい

          仕事の合間に駅構内に設置されている本屋さんに立ち寄った。いくつか気になる本があったけれど、急に予定時間が気になってしまって、買わずに出た。 だけれど、帰宅してから「気になる本」が気になりだす。前にも似たようなことがあって、結局買わずにいたら「気になる本」が何だったのか、忘れてしまったのです。今回もまた忘れてしまうのでは。そして、二度と出会うことがないのでは。 そう思って後日、同じ本屋にわざわざ足を運んで、「気になる本」を購入、持ち帰りました。 一期一会という言葉があるよ

          出会った本は逃がさないほうがよい