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善き読者でありたい。素敵な本の素敵なところを綴る「読書感想」をアップしています(この頃は月5-10本、朝の更新が多め)。「発達障害のある我が子をより愛するために読む」というテーマでも読書しています。完全な趣味、非営利。お問い合わせはプロフィール欄からお願い致します。

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  • 読書熊録

    素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています

  • 発達障害の我が子をより愛するために読む

    発達障害のある我が子を今以上に愛するため、読み進めている本を記録します。ASDやADHDなど発達障害の他、身体・知的障害、難病、福祉、幅広い分野を学んでいきます。

  • 読書ノート

    読んでいる本、読んだ本、読みたい本についてつれづれ書いている日記のようなもの

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この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。 冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。 本を読む目が変わりました。病や困難に直面した人の語りが身に沁みる。あらゆる物語に、我が子の姿や、我が子の人生のヒントにな

    • AUT VIAM INVENIAM AUT FACIAMーミニ読書感想『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん)

      ラテン語さんの『世界はラテン語でできている』(2024年1月15日初版発行、SB新書)が、シンプルに面白かったです。世界史、政治、宗教、エンタメ…さまざまな分野に今も根付き、数々の言葉の語源になっているラテン語。その魅力を次々披露してくれる、豆知識・トリビアの本です。気軽に読めて、確実に「へ〜」と驚ける。 特に興味深かったのは、世界史のさまざまな場面で登場するラテン語でした。世界史好きには刺さる話が多い。たとえば、リンカーンを暗殺したブースは、その瞬間にラテン語の格言を叫ん

      • 取り替え不可能な人生のための哲学ーミニ読書感想『訂正する力』(東浩紀さん)

        東浩紀さんの『訂正する力』(朝日新書、2023年10月30日初版発行)が学びになりました。今までの自分は間違っていたかもしれない、至らなかったかもしれない。そう認める訂正の力。歴史修正主義とは異なる訂正のスタンス。それは、固有で取り替えの効かない人生を生きるために必要だと分りました。 訂正と聞いて、いいイメージは浮かばない。なるべくなら、間違いのない方が良いとつい思ってしまう。そして、訂正は修正と似ている。訂正主義と書くと歴史修正主義を思い浮かべてしまいますが、両者は全く異

        • 「聞けてよかった」が不可欠ーミニ読書感想『死にたいって誰かに話したかった』(南綾子さん)

          南綾子さんの『死にたいって誰かに話したかった』(双葉文庫、2023年1月15日初版発行)が、かなりの名作でした。タイトルにギョッとするかもしれませんが、この作品は奥深く力強い。生きづらさと、話すこと・聞くことについての物語です。 それぞれの事情で生きづらさを抱える主人公たちが、ひょんなことから「生きづらさを克服しようの会」(通称生きづら会)を結成するというのがあらすじ。最初は、何をやってもうまく行かないアラサー男女の2人が、世間一般への鬱憤を吐き出すとも言えない会合だったの

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        この本に出会えてよかった2023

        • AUT VIAM INVENIAM AUT FACIAMーミニ読書感想『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん)

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          羽のように雪のように砂糖菓子のようにーミニ読書感想『いつかたこぶねになる日』(小津夜景さん)

          なんとも不思議な本に出会いました。俳人・小津夜景さんの『いつかたこぶねになる日』(新潮文庫、2023年11月1日初版発行)。内容を説明すれば、本書は漢詩を紹介するエッセイ。でもそれだけでは捉えられない読書世界がある。羽のように軽く、雪のように白い。あるいは砂糖菓子のように甘く、でもすぐ消えていく。何かのジャンルに当てはめることが、どうにも勿体無い一冊でした。 著者は俳人で、フランスのニーズに住んでいる。でも本書のテーマは俳句ではなくて漢詩で、しかも漢詩の名作をめぐるエッセイ

          羽のように雪のように砂糖菓子のようにーミニ読書感想『いつかたこぶねになる日』(小津夜景さん)

          攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)

          ASD(自閉スペクトラム症)当事者で、研究者のテンプル・グランディンさんの『自閉症感覚』(中尾ゆかりさん訳、NHK出版、2010年4月10日初版発行)が学びになりました。15年近く前の本ですが、いまだに版を重ね、現在も書店の棚に挿されていました。タイトル通り、ASD者として「どう感じてきたか」がたくさん盛り込まれている。 ASDは、抽象的概念の理解に困難さがある人がいるとされます。著者もその一人。しかし、著者を支援したベビーシッターは、具体的事例を通じて抽象的概念を伝える工

          攻略法という発想ーミニ読書感想『自閉症感覚』(テンプル・グランディンさん)

          声を聞くために学ぶーミニ読書感想『学ぶことは、とびこえること』(ベル・フックスさん)

          人種差別の課題やフェミニズムに取り組んだ研究者ベル・フックスさんの『学ぶことは、とびこえること』(里美実さん監訳、朴和美さん、堀田碧さん、吉原令子さん訳、ちくま学芸文庫2023年5月10日初版発行)が学びになりました。特にフェミニズムについて、黒人女性であるベルさんは、それが白人女性のためのフェミニズムになっていないか批判的思考を追求した。周縁化される声を、無効化される声を聞くための、学びの方法を考えさせられました。 著者の批判的思考は、黒人女性としての経験に立脚しています

          声を聞くために学ぶーミニ読書感想『学ぶことは、とびこえること』(ベル・フックスさん)

          2024年3月に読んだ本リスト

          ・『自閉症スペクトラムとは何か』、千住淳さん、ちくま新書 ・『八月の御所グラウンド』、万城目学さん、文藝春秋 ・『散歩哲学』、島田雅彦さん、ハヤカワ新書 ・『疲労社会』、ビョンチョル・ハンさん、花伝社 ・『人間はどこまで家畜か』、熊代亨さん、ハヤカワ新書 ・『門』、夏目漱石、角川文庫 ・『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』、田中康弘さん、ヤマケイ文庫 ・『野生のしっそう』、猪瀬浩平さん、ミシマ社 ・『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』、C・A・ラーマ-さん、草原推理文庫

          2024年3月に読んだ本リスト

          早期療育スタート1年の気持ち

          子どもの早期療育に踏み出して1年の気持ちを記録します。また1年後、2年後、5年後、自分が振り返られるように。結論から言えば「早期療育にトライして良かった」です。 療育開始時点の子の様子妻と共に、発達に不安を感じたのは1歳半検診を受診した1歳8カ月時点。指差しはゼロではないけれど、親に共感を求める様子が全くなかった。目線が合いにくい。モノの位置などに強いこだわりがあり、気にくわないと激しいかんしゃくを起こす。やり取りが少ない。 最初に妻に不安を打ち明けられたとき、激しく反発

          早期療育スタート1年の気持ち

          発達障害のある子の豊かな将来像から逆算する(したい)

          先日感想を書いた児童精神科医・本田秀夫先生の『知的障害と発達障害の子どもたち』(SB新書)に、「知的障害のある子を育てる時は、将来の姿から逆算して考えてみて」という考えが示されていました。 正直、読んだ時は「酷だな」と思いました(だから感想記事では紹介してない)。 アドバイスはもっともです。たとえば、将来、一人で買い物できるようになるという姿を据え、そこから逆算する。するとたとえば、買い物のためには足し算・引き算が出来るようになる、買うべきもののリストを作れるようになる、

          発達障害のある子の豊かな将来像から逆算する(したい)

          不可解なものを不可解なままーミニ読書感想『計算する生命』(森田真生さん)

          数学者・森田真生さんの『計算する生命』(新潮文庫、2023年12月1日初版発行)が面白かったです。数学が苦手な文系人間も楽しめる。古代ギリシアから現代の人工知能まで、計算する生命としての人類史を紐解く。数学がテーマですが、悠久の物語として読むことができます。 数学が物語?その食い合わせは悪いように思われます。数学には規則性があり、隙のない論理性がある。物語が入り込む余地はあるのでしょうか。 しかし、本書で語られる数学史は、ある意味ミステリーに彩られた歴史です。 たとえば

          不可解なものを不可解なままーミニ読書感想『計算する生命』(森田真生さん)

          早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)

          児童発達支援に詳しい専門医・本田秀夫さんの『知的障害と発達障害の子どもたち』(SB新書、2024年3月15日初版発行)は、親の悩みに寄り添う素晴らしい本でした。発達障害のある子(疑いが指摘される子)の親にとって、ASDやADHDがあるかどうかと同時に気になるのが、知的障害の有無であることに異論は少ない気がします。本書は二つの障害の関連や、発達障害に比べて一般書が少ない知的障害のある子どもへの支援を学べます。 著者は、二つの障害の関連を示すメタファーとして「近視と乱視」を取り

          早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)

          「搾取に苦しむ人」に向けたSF小説ー『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣さん)

          間宮改衣さんのデビュー小説『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房、2024年3月6初版発行)は、読んだ後に「すごい小説を読んだな」と唸ってしまう作品でした。なるべく事前情報(ネタバレ)なしで読まれてほしい。凄まじいインパクトを、ダイレクトに受け取って欲しい。 なので感想で書くべき情報は極力少なくしたいけれど、これだけは声高に訴えたい。これは多くの生きづらさを抱えた人、とりわけなんらかの搾取に苦しむ人のために書かれたSF小説です。 これは全てに表紙に書かれているので許容範囲

          「搾取に苦しむ人」に向けたSF小説ー『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣さん)

          古い本の豊かな味わいーミニ読書感想『本の栞にぶら下がる』(斎藤真理子さん)

          斎藤真理子さんの『本の栞にぶら下がる』(岩波書店、2023年9月14日初版発行)が滋味あふれる一冊でした。『フィフティー・ピープル』や『82年生まれ、キム・ジヨン』など、韓国文学(朝鮮文学)の名作を日本に届けてくれている翻訳者による読書エッセイ。紹介されている本の多くは古い本だけれど、そこに全く古びない豊かな味わいがあると教えてもらいました。 たとえば、思想家鶴見俊輔さんが著した新書エッセイについて、著者は「ふりかけ」に例えて紹介する。ご飯にかけるあのふりかけです。 鶴見

          古い本の豊かな味わいーミニ読書感想『本の栞にぶら下がる』(斎藤真理子さん)

          かなり違った人との会話ーミニ読書感想『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(朱喜哲さん)

          NHK番組『100分de名著』シリーズのテキスト『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版、2024年2月1日発行)が学びになりました。ナビゲーターは哲学者の朱喜哲さん。番組は見れていませんが、書籍として単独で楽しめる。朱さんの単著『〈公正〉を乗りこなす』とリンクさせて考えることができました。 『公正』は「正義論」のロールズと、「会話を続けるための哲学」を提唱したローティが二本柱でしたが、本書ではそのうちローティの著作を取り上げています。ローティは「真理を探

          かなり違った人との会話ーミニ読書感想『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(朱喜哲さん)

          言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)

          切れ味のある書評を書くにはどうすればよいのか?ーーそのお手本と言える一冊が作家・宮部みゆきさんの『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん、中公新書ラクレ、2023年11月10日初版発行)でした。読売新聞の書評面「本よみうり堂」をまとめた本書。長いもので見開き2ページ、短いものでは1ページちょっとの分量で、その本の魅力を伝える。簡にして要を得るとは、まさにこのこと。剣聖の刀さばきを味わいました。 たとえば『日本ノンフィクション史』(武

          言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)