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アンチ・ボディビルダー(木下古栗)
アリストテレスは「自然は真空を嫌う」と語ったが、人間もまた、「真空」に恐怖を覚え、そこから逃亡しようとし、「過剰」へと駆り立てられてゆく生き物である。戦後を代表する作家三島由紀夫は、戦後という時代の空虚を嫌悪し、彼の精神を蝕まずにはおかない空虚を、物語=意味で充填せしめんと、異様な情熱で物語を紡ぎつづけた(時には「天皇」を持ち出して)。
三島の観念への傾斜という悪癖は、彼のスポーツとの関わり
そんな奴はいねーよ(もしかしたらいるかも)
「エグさ」の料理人 木下古栗の『人間界の諸相』は、そのタイトルが示すがごとく、幾人かの登場人物たちの生活をスケッチ風に切り取った短編小説集あるいは連作短編集である(最後の第14話で1本の糸のようにすべてが繋がるので、「連作短編集」と呼ぶのが妥当かもしれない)。
『人間界の諸相』というタイトルから、普通の感性の持ち主であれば、避けようもなく苦しい親子の諍いだの、小波乱に揺れ動きつつも元の鞘に収ま
青年期との訣別(『パッチワーク・プラネット』論)
読書界の一部では、熱狂的な支持を得ているアメリカの作家アン・タイラー(山田太一曰く「私にはこのよさが分かるけど、他の人にはどうかな?」じっさい、タイラーの作品は、日本では初版が出た後、重版されたことがないのではないか)の小説に『パッチワーク・プラネット(A Patchwork Planet)』という作品がある。不思議なタイトルである。意味がよく呑み込めない。よくわからないのだけれど、語り口の巧み
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