確信犯の時代錯誤・磯田光一
聖なる時空の消滅 『殉教の美学』や『思想としての東京』といった著作で知られる磯田光一の原稿を読んでいて、第一に印象づけられることは、一種独特な緊張感である。行楽地にて思い切りリラックスして休息を満喫する、というのどかな気配は微塵もない。むしろそのような安息感を斥けて、自分と周囲との間に摩擦と葛藤を積極的に呼び寄せ、その居心地の悪さを引き受けることに生の手応えを感じているかのようだ。万能感を保証された幼児の黄金期ではなく、そこからの追放の苦痛こそが精神の運動の起点となっている。