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KILLING ME SOFTLY【小説】79_Q.〈死ぬこと以外?〉

結局のところ、睡眠が取れないまま朝風呂に入り、言わずもがな目の下に現れた隈を丁寧に化粧で隠すなど、身支度を整えて千暁を呼び起こした。
「んー?なんか莉里さん、いい匂い。」
昨夜の余韻に浸る寝惚け眼の彼がこちらを抱き寄せてまた布団に引き摺り込もうとする
出来るなら思う存分、甘やかされたかった。


しかし、幸せであればある程、再び遠距離恋愛になるという現実を突き付けられる。
それにより
「お腹空いた、さっさとご飯行こ。」
と放ち、故意に離れた。
私の冷たい態度に拗ねた千暁が文句を垂れながら髪を梳かすうちに、無言で室内を片付ける。


村井の(ものと推測した)つぶやきアプリの〈捨て垢〉は案の定、削除済みだったが、単にアカウントが消えただけでは意味がない。
いとも容易くスクリーンショットで保存され、一度、画像と内容が広まってしまえば半永久的にインターネットから葬り去るのは不可能だ。


陰鬱な心持ちで迎えた朝食は素晴らしい和惣菜が並ぶビュッフェ形式、半ば喧嘩していたような私達は瞬く間にはしゃぎ、自然と仲直りする。

「せっかくだし全制覇しようよ。」
「あっち、シェフの人が焼いてくれるみたい。」
互いに〈ペース配分〉を考えずごっそり盛って後悔し、笑い合った。
俺、莉里さんといるとすっげー楽しいわ。これからもよろしく。


さらりと殊勝なことを言われ、〈お前見てるとムカつく〉〈調子乗っててウザい〉〈目障り〉いつかの私を心身共に傷付けた全てが、救われる。



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