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『満ち欠けワンダーランド』04.回復魔法


 休日、スイッチ一つで毎回キャラクターに挨拶される。ここは実にのどかな場所だ。
「まだそれやってんの?」
などと、恋人が呆れて馬鹿にする。
 そのうちフラれるも流行り廃りは無関係、の癒やしであった。しかしながら趣味はゲームではなくスポーツ全般ということにしている。
 意外だと散々言われ、目を輝かせたのはアーリーのみだった。元々は中学のクラスメイトで数年前から実家暮らし、年始にこちらが帰省した際にあからさまな居留守を使われ、かなりのダメージを受ける。

 職業柄、相手側の冷たい態度は日常茶飯事だろう。〈囚われた王子を救う〉? 自分なら楽勝、思い上がっていた。


 夏の午前○時に起こされて、寝ぼけ眼を擦りつつ車へ乗り込む。家族旅行のスタートは毎年こうで、心待ちにする弟妹には悟られないように、両親とこっそり計画を立てる。
「新しい世界を見せて、素敵な思い出に」
と語らう、ふたりがなんだかんだで長男の俺より気もそぞろになった。
 母と、ハンドルを握る父の話し声は良き子守唄に、間もなく太陽が昇り、タオルケットに包まれた彼らの大はしゃぎ、再び夢から覚める。絵に描いたような幸せだが、これに限らず我が家は賑やかで、何かと経験させて選択肢を広げると別々の興味を持ち、俺はサッカーを習い、弟はお絵描きが好き、妹はダンスに熱を上げ、
「宮園さんちは明るくていいわね」
 いつだか近所のおばさんに褒められた。


 運動であれば何でもできる。
『才能ある』『こっちのクラブに入ってくれないか』『ゾノが敵? 負けるわ』『足速い、カッコいい』『頭悪くて体育頑張るしか』『白組優勝』『あいつ有名になりそう』
 上記はレベルアップ前後の台詞、クエストをクリアして進むストーリー、設定された難易度が低い、逸早く気付いてしまった。

 次の舞台は所謂、弱小校で俺が部活動を選ぶと真剣に取り組まず向上心を失ったように見える。けれども成長の余地とやらを信じた。王道ではなくともやってみたら面白いかも知れない。
 さておき、笑顔とプラス思考は〈最強装備〉らしく、友人がわんさか集まる。
「おはよ」
 廊下を歩き、ふと視界に捉えた長身痩躯にも話し掛けた。彼は表情が乏しく、クラスメイトから恐れられている。
「……」
 一人旅の無口な主人公・有馬に対し、目鼻立ちがはっきりしたこちらは複数のパーティで役割を切り替えた。


 転校生の新キャラ・こむぎが連れて来るまで、アイテムを蓄えた奥とはたまに〈協力プレイを楽しむ〉仲。この、何かが大きく違うようなメンバーが足並みを揃える。
「呼び名、アーリーで良くね?」
 やや戸惑ってぎこちなく笑う、時間が止まったかと思った。レア。 
 相性によって俺とムギ、オッくんとアーリーの組み合わせになることが多く、部活動や塾に家庭の事情、全員で遊んだのは数回(冬の夜に月を観たり)だが、練習帰りには迎えの車を待つアーリーとよく会い、打ち解ければ家に招かれた。

「今、お母さん居ないから。俺さ、最初バスケ部に勧誘されてたんだ。でも『突き指したら勉強に支障が出る』って。前にムギと喋ってたら『彼女なんて早い』とか、『あなたの為を思って』が、ぶっちゃけ重い」

 瞬く間にお城がダンジョンへ変わる。待ち構えるボス、つまり彼の母親は息子をコントロールして完全無欠な後継者を育てたいタイプ、或いはいつまでも溺愛、どちらにせよ手強かった。
「てかゲームも禁止? 今度はうち来いよ。すげー種類持ってるし、好きなやつやろ」

 『そんな暇があれば』、とやかく言われた自らと重ねて、息抜きを提案する。
「わあ、どうしよ。ゾノ、ありがとう!」
 キラキラとした渦が部屋に広がった。心の鍵を開ける魔法を使ったようで舌が回り、後に遊んだ日は本当に楽しくて、腹を抱える。


 何より、こまめにセーブして正反対なオッくんと俺を結び付けていた。
「あの、いっつもコンビニに寄ってるでしょ。もっと食事を大切にした方がいいかも。女の子からの差し入れじゃなくてごめん」
「マジでオッくんの手作り!?」
 予期せぬ展開、一口欲しがるムギ、アーリーは微睡み、中身が濃い弁当のおいしさ、バレンタインに受け取ったチョコレートと愛の話、ついでに
「夢を追わずに僕は安定した職に就かなきゃ」
 初めて将来を考える。目の前しか見えていなかった。

 万事順調に経験値を積んで、仲間と流した涙は宝物、〈ラスボス〉受験に挑み、勝利を収める。そこでムギが
「ねえ、私と付き合って」
「ん。まあいっか」
 ルート分岐、何となく選んでしまった、アーリー以外は離脱のバッドエンド。何はともあれ、大学までサッカーを続け、ファミリーレストランでのアルバイトが結果的には現在に繋がる。


 そういえば、でようやく思い返す俺だからこそ? 父が過労で倒れて早期退職を決めた時も相談されず、
「だってお兄ちゃんは遠くに住んでて忙しいもん」
 定番が人気とはいえ新商品を是非とも、
「そりゃ売れ行き悪いわな。食べたらうまいんだよ、はあ」
 モンスターだらけの無限ループに陥る。


「お電話ありがとうございます、」
「あっ、すみません、間違えました」
 2023年、挙げ句の果てにHPが残り僅か、プライベートの電話にも仕事モードで出てしまい、
「や、番号合ってる。宮園くんだよね? 有馬です
 リセットボタンを押された。


ゾノの話でした。全員の視点から見るとこれだけ違う+主人公がアーリーの理由、です。


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