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KILLING ME SOFTLY【小説】57_全ては試練すなわち赦す

人を許すことは困難だが許さないよりは簡単だ。決して諦めではない、傷付けられた過去への執着を手放し未来に向けての一歩を踏み出す手段である。私から既に許されたとは知る由もなく止まった時計の針と化する亡霊の群れ、即ち百鬼夜行は恐怖を覚えるどころか実に滑稽で、虚しかった。


「すげー、論理?ちょっと馬鹿には難しいわ。」
土曜の晩、アルバイトのフルタイム勤務を終えて疲れ果てたらしく先程まで寝転がっていた知成が呻く。これを機に張り詰めた空気が和らぎ、千暁含め他の男子達も似たような反応を示したが、美弥だけは異なる。


「見返してやるとかさ、基準は何なんだろう、結局は自己満だよね。こっちに酷いことしたヤツに限って、綺麗さっぱり忘れて思う存分、人生楽しんじゃってるし腹立つけど、いっそ、受け止めてあげた方がマシかも。」
意外にも共感を得た。
私の目には天真爛漫なように映る美弥にも彼女なりに歩んできた道が存在する。
その母親が心理学専門だと真司が言い添えた。


さておき、初めて仲間に本音を語った夜。
このタイミングでインターネット上において大きな影響力を持つ人間が私を庇い『ここまでしますか?盗撮にストーキング、犯罪ですよ』などと発信すれば待ってましたとばかりに〈捨て垢の持ち主〉が次の標的にされる。


私が一切触れずにいたうちに、つぶやきアプリでは『夏輝を疑え!』『凛々香が可哀想』という、それはもう見事な手のひら返しが行われていた。何を今更。





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