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目目、耳耳

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感想文。
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#漫画

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

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見逃したとて、(風街のふたり/カシワイ)

見逃したとて、(風街のふたり/カシワイ)

ひとりでいると、声を出すことがない。本当にない。ことを、意識することがない。のを、老人が、自宅に入ってきた少女に声をかけるシーンで、ふと思った。そこに意味なんてないだろうけど。

昔から、ひとりでどこかをうろつくのが好きだった。知っている場所でもいい。知らない場所でもいい。知っている場所でも、ふいに、見知らぬ場所に見えることがある。いくら知っても、知りつくすことがない。ぼくが、今住んでいるこの町も

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やさしいおでかけ、やさしい人(おでかけ子ザメ/ペンギンボックス)

やさしいおでかけ、やさしい人(おでかけ子ザメ/ペンギンボックス)

よくおでかけしている子ザメちゃんを、ぼくはツイッターで見かけるのを楽しみにしている。し、自分がおでかけするときも、「おでかけ子ザメ」をお供にする。楽しいおでかけになるように、お守りになってくれる気がして。

子ザメちゃんは、楽しいことを見つけるのが得意で、おでかけの道中で出会う人達と、すぐに仲よくなる。出会う人達がみな優しいのもある。けど、それは子ザメちゃん本人が優しいからだと思う。

キミのやさ

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少年少女は「解剖」する(レストー夫人/三島芳治)

少年少女は「解剖」する(レストー夫人/三島芳治)

学年に一人はいる、どこか謎めいた美少女。に、出会ったことは終ぞありませんでした。ぼくの場合。(いたかもしれないけど、周りに関心がなさすぎてわからなかった。)

あれは、フィクションだけなんだろうか。もし、実在するとしても。周りをふり回す力があるとしても。それは、本人のあずかり知らぬところで。周り、もしくは本人が考えている以上に。彼女は。

『レストー夫人』は、演劇の題目。もしくは、漫画のタイトル。

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「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「から」の続きにあるもの(世界はきっと僕の味方じゃないから/水色爽 )

「世界はきっと僕の味方じゃないから」

世界は味方じゃない。味方してくれない。世界は優しくないから。でも、「じゃない」で句読点を打つのではなく、「から」と続き、その先のことばを予感させる。ぼくはそれを、とても優しいと思った。

SNSには、善意がある。わかりやすい悪意もある。本人は善意と思っていても、他人に押し付けることで悪意に変質するものもある(本人はそれが善意だと信じたまま)。なにを言ってもい

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繭を解く君が最も、(繭、纏う/原百合子)(1233字)

「髪、伸ばさないの?」

僕は、この下らない質問が大嫌いだった。

ショートカットの女の子で、この質問を餌食になったのは、きっと僕だけじゃないんだろう。それを訊かれる度、うんざりしているのも。

僕が髪を短くしているのは、それが一番好きで、似合っているからだ。それなのに、「女の子は髪を伸ばさなきゃいけない」なんて、本当に下らない……。

私たちの制服は
髪で出来ている

――第1話より引用

『繭

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書を持とう、うちに居よう(バーナード嬢曰く。/施川ユウキ)

君は今、何をしてる?

何かしてる? 何もしてない? まあ、どっちでもいいんだけどね。

……もし、何もしてなかったらさ、本でも読まない?(それとも、すでに読んでいるのかな。)

だってさ、読書っていうのは、脳に多大なる影響を――とか、そんなことをいうつもりはない。

ただ、「スマ○ラ、一緒にやろうよ」とか、「おすすめのユーチューバーがいてさ」とか、そんな誘いと同じノリで、「本でも読まない?」って

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僕には、君が必要なかったから(一生好きってゆったじゃん/横槍メンゴ)

僕には、パートナーがいる。「すてきな人だね」って、いってもらえるような人が。僕もそう思うし、僕はパートナーのことを、ちゃんと愛していると思う。

あの人と出会って、恋をして、結婚して。パートナーが恋人から伴侶になった今でも、時々思うことがある。僕は、「いい人」を好きになることができたんだ、って。

なんで俺を通報しないんだ
先生も同じ地獄(ところ)に居るからです

――『Stand by you』

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3/11(All those moments will be lost in time/西島大介)

放射能と幽霊。どっちも見えない。
(中略)
つまり 僕たちは
見えないものにふりまわされ続ける この先ずっと数万年の未来
いや太古の昔から

――第一話『宇宙港』より

見えないものに、ふりまわされている。9年前は(もしかしたら、今も。)放射能に。近ごろは、なんちゃらウイルスに。

中には、目に見えるものしか信じない人もいる。目に見えるもの……デマとか、かな。……ちょっと、冗談がきつかったかな。

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君は、シンデレラになりたいかい?(escape/スガノヨシカズ)

あるところに、男の子のような女の子がいました。

容姿はもちろん、女の子は、自ら男の子のような格好もしました。

そんなわけなので、女の子は男の子に間違われたり、「もっと女の子らしくしなさい」と母親に叱られたりしました。

ある日、女の子を不憫に思った魔法使いが現れました。

魔法使いは、女の子にいいました。

「君は、シンデレラになりたいかい?」



僕はこれまで、目立たないように生きてきた

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永田カビさんと僕。(現実逃避してたらボロボロになった話/永田カビ)

アルコール性急性膵炎。
脂肪肝。

作者である永田カビさんが、生きづらいがゆえに、酒を飲みつづけたがゆえに、なってしまった病気。

現実逃避してたらボロボロになった話/永田カビ。

発売日から今に至るまで、僕が毎日読み返しているのは、僕にも似たような経験があるからだ。

僕は酒は飲めないけど、酒以外にも、現実逃避する手段はいくらでもある。
僕が選んだ――選ばざるをえなかった手段は、過食だった。

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「君」じゃなきゃ、だめだったのにな。(blue/魚喃キリコ)

blue。
ブルー。
名詞、もしくは形容動詞。

1.青色。藍色。
2.憂鬱であること。または、そのさま。
3.1996年の魚喃キリコの漫画。



忘れらない人、というわけじゃないけど、他の人にいえば、「その人のことが、忘れられないのね」といわれるような人がいる。

忘れられない、わけじゃない。というか、日々を過ごす中で、思い出す方が少ない。僕にとっては、それくらいの人。それくらい、薄れた記憶

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終わりが終われば、始まるんだよ。(I Care Because You Do/西島大介)

椎名もたくんと初めてコンタクトを取ったのは2012年のことでした。拙著『I Care Because You Do』に「これは僕の物語だ!!」と強く反応してくれたことがきっかけでした。
――「椎名もたくんのこと」土曜日の実験室+ 詩と批評とあと何か より

この作品の舞台は、’95年。椎名もたは、当時17歳。僕よりも年下。けれど、すでに絶版になっていたそれをAmazonで注文し(中古だけど、なんと

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よどみ、よりて(あんたさぁ、/ルネッサンス吉田)

今日は、泣くことも笑うこともしなかった。僕が泣いたり笑ったりするのは誰かがいるからで、その誰かがいなければそんなことは起こらない。そんな日の心境は、とても安らかで、ひどくざわつくのだった。

ねえねえ、ろうそく消す時お願いするとかなう。
はいはい。
毎日心安らかに暮らせますように。って、お願いしたんだ。
…………まあ……頑張れ……無理のない範囲で。
うん。私、頑張る。
――ルネッサンス吉田「月はし

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