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エッセイ・散文

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#散文

今の自分を正当化するための散文

今の自分を正当化するための散文

起きていないことを心配して自分を追い込んでしまうのは、とても愚かで可笑しなことだと思うのだけれど、与えられた環境と、あらかじめ決まっている状況下で息をしているこの現実を運命と呼ぶならば、その中で丁寧に生きることをいつの間にか強いられている人間という生き物にとっては、これは至って仕方がない心の動きなのかもしれないと、考えることがある。
人間には色々な顔がある。多面的で、ゴツゴツとしていて、故に考え方

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Good Morning

Good Morning

道端に咲く名前も知らない花に「おはよう」と声をかけてみた。そしたらちょっと揺れて、「おはよう」と返してくれた。それでも私は君の名前を知らないし、君とまた出会うこともないと思う。だけどそんな出会いの方が、よく覚えているものなのかもしれない。

思い出の詰まった行きつけのホテルには、最近訪日観光客の方たちがよく泊まっているのだけれど、恋人と朝の散歩に出かけるためにホテルを出たとき、まだ朝早く、繁華街と

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そうやって、また

そうやって、また

傷つきたくないから、傷つく前に、先回りして、顔色をうかがって、次に飛び出す言葉を予想して、その言葉に対する答えを頭の中に浮かべて、言い方をシミュレーションしてみても、たまに、あ、うそ、変化球きた、それは想像してなかったぞってこともあって、だから瞬時にまた別パターンの答えを思い浮かべて、しゃべって、ちょっといつもと声が違って、でも、なんとかその場をやり遂げて、そしたらさっきの空気がまだここまで続いて

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これがきっと恋だから、

これがきっと恋だから、

これはわたしと恋人との話。

付き合う前日の夜、わたしたちはデートをしていた。

付き合う前の、甘すぎるけど、ちょっとだけ苦い時間。
今しかできない会話、今だからこそ意味をなす表現、
そういったものが、確実にしっかりと存在していた。

「結婚して子どもができたら、深夜のコンビニに手を繋いでいくことが2人の特別な時間になる」

デートの帰りにコンビニに寄ったとき、ホットカフェラテを作る待ち時間に、彼

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触れてみて。

触れてみて。

先生は言った。

「誰かに恋をする時。その人の顔や性格以外に惚れる要素があるとしたら、どこだと思う?」と。

数十秒悩んだ。
のちに先生は言った。

「文章よ」

と。

「文章には、その人の心が宿る。美しいところも、恥ずかしいところも、汚れたところも、全て現れるのが文章なのよ」

なるほど。
妙に、腑に落ちた。

日頃からnoteをはじめとするSNSや、個人間のチャットなど、私たちは様々な場所で

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あたためた想い

私が「ただの映画好き」から「映画監督未満」になったのは、今から約1年ほど前の話。普段は一晩のうちに2つ以上必ず夢を見る私が一切夢を見なくなったのも、ちょうどその頃の話。映画を作ってみたいという漠然とした願望に脳内が支配された私は、お風呂に入っているとき、歯を磨いているとき、寝支度を済ませ布団に入ったとき、そんな、日常にありふれた何も考えなくてよい瞬間でさえも、答えの出ない問いを永遠に巡らせていた。

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始まりの始まり

始まりの始まり

2021年4月1日

私は、今後きっと幾度となく、今日という日を思い出すだろう。

ぱきっとしたスーツに身を包み、おろしたてのネクタイを締め、ピカピカの靴を履いて、入社式の会場へと向かう。

それは、私が経験しなかった、もう一つの日常だ。

就活中。満員電車に揉まれながら、説明会の会場に向かうときの気持ちを思い出す。

都内を走る電車の広告の大半は転職に関するものばかりで、それ以外は、大体が自己啓

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キラキラ

キラキラ

高3のとき。物理の授業は大嫌いだったが、先生が余談で話したAIロボットの話には妙に食いついたのを覚えている。
それからずっと、私は人工知能の研究や先端医療について学びたいと思っていたし、無事その勉強ができる大学に入ることもできた。

でも、私は周りのレベルに全然追いつけなかった。

なんで?こんなにも好きなのに?

ずっと思っていたけど、いくら頑張ったところで、努力したところで、こんなもんかって思

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プチプライスレスな私

プチプライスレスな私

通販で頼んだ本の帯部分が少し汚れていた。

やかんを火にかけるのを忘れて1時間待っていた。

ネイルが乾く前に頭を搔いてしまい、崩れた。

日常に転がっている、誰にでも起こりうる小さな悲劇たち。

私は、これらを全部経験した。今日、午前中の3時間くらいの間に。

普通の人たちなら、どう思うのだろう。

似たような呟きをツイッターなどで見かけたときは、大体の人が怒りマークをつけたりして投稿している。

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新しい旅

新しい旅

「泣きながら飯を食ったことがある人間は、きっとこの先、どんな困難も乗り越えられる。」

高校時代、親しくしていた先生が私に教えてくれた言葉だ。

当時の私も、昨日までの私も、きっとそんな日が訪れることなどないだろう。漠然と、そう思っていた。

しかし、そんな矢先。

「泣きながら飯を食う日」は、唐突に訪れた。

そう。まさに今日だ。

今日は、初めて泣きながら飯を食った記念日だ。

正直、涙の味で

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