見出し画像

東京女子図鑑に見る、綾が東京で得たもの

少し前、「東京女子図鑑」を見た。
東京に憧れる地方出身の女の子が、社会人になって上京してからの20年間を描く物語。

予約のとれないレストラン、代理店の彼氏、やりがいのある仕事、六本木ヒルズ、バージンシネマのレイトショー、一泊二日の箱根旅行、ハリー・ウインストンの婚約指輪、幸せな結婚。
彼女の頭の中にある憧れの東京を、東京のOLを6年やってきた私は3つしか経験していない。
*ここから先ネタバレも含むので、これから見る方はご了承ください。

主人公の綾は自分の頑張りも運も周りの人間関係も含めて、物事をある程度手に入れることができる境遇にいたけれど、それでも彼女が東京で本当に得たものって、とっても少ないように思った。

初めての東京暮らし、三軒茶屋の賃貸。
アパレルの仕事、周りを囲む人は会社の同期・先輩、近所に住んでいる東京でできた彼氏。
シャワー浴びたあとでも呼ばれたら出かけていくあの感じは、大学時代を思い出す。
でもそれがすごく円満な人間関係なわけではなくて、関わる先輩二人はバチバチな関係にあったりもする。

アラサーになって恵比寿に引っ越した綾は、特に大きな不満のなかった彼氏を捨て、"代理店の彼氏"を手に入れる。(商社マンだったかもしれない)
洗練された町にすみ、"やりがいのある仕事"を任される。
家柄のいい彼は、綾の誕生日に"予約のとれないレストラン"に連れて行ってくれようとしたものの、もう一人いた彼女と結婚することになり当日ドタキャンされてしまう。
この頃は同期からも「どうして綾があの仕事を・・・あの男と・・・」と言われることもあり、完全に心が許せる存在というものが存在していないように見えた。

30代に入り外資系企業に転職した綾は、京橋に住み不倫関係の男ができる。
新しく入った会社の同僚ともそこそこ仲良くやっていそうで、上司ともプライベートな話ができるような関係を築けていた。
雑誌に特集されるほど仕事面は順調に進んだけれど、その嬉しいことを「みてみて!」と言えるような相手はいない、そんな孤独も持ち合わせている。
久しぶりに会った以前の同期に見せようとするも、彼女たちの話題は子供の話でもちきり。
話が合わなくなるってこういうことなのかと思ってしまうような、自分を取り巻くものの差はどうしようもないものだけど、寂しくなる出来事にも感じた。

そこから婚活に奔走した綾は、豊洲にマンションを持つあまりぱっとしない商社マンと結婚を決める。
待っていた結婚生活は、共働きでも家事を綾に任せきりな夫との暮らしで、婚活中に言ってくれたいいなと思った言葉も婚活マニュアルの受け売りだったと知ってしまう。
属するのはマンションで知り合った子なしの奥様方とのコミュニティで、過激さも入った話題に愛想笑いを浮かべ続ける。
上手くいかない生活に別居した後、離婚を決めて、また一人暮らしを新しく始める。
ここで夫との苦しい気持ちを相談できる人とか、いないのが現実の生活というものなのかと思ってしまう。

代々木上原で一人暮らしを始めた綾は、20代後半の頃の元彼の元奥さんの経営する花屋のフラワーアレンジメント教室に居場所を得る。
カフェの店員とも仲良くなって、彼が家に入り浸るようにまでなる。
若い彼とは考え方の違いも大きく、フラワーアレンジメント教室の友達は皆、港区出身。
彼女らから港区出身の男を紹介されるものの、癖の強い人で出身地に関しても拘りが強い。
カフェ店員の男の子はフラワーアレンジメント教室の友達になびき、家柄の違いによる目に見えない壁を見せつけられる。
そんなことを話せる相手はいなくて、実家に一度帰省すると、たまたま会った高校時代の担任から「人から羨ましがられる人になりたいって夢叶えたね」と声をかけられ泣いてしまう。
先生は綾が掲載されたものの誰にも見て欲しいと言えず触れてももらえなかった雑誌を、あれから数年経ったその時でも大切に持ち続けていた。

最終的に綾は最初の会社の先輩でたまに相談にのってもらっていた人と再婚を決め、穏やかな暮らしを手に入れる。
ずっといないようにも見えた、本音を話せる相手の存在というのは、きっととてつもなく大きなものなのだと思う。

私は人生豊かにするのは繋がりだと思っているし、複数のコミュニティに属することが心のリスクヘッジになるという考え方に賛成なのだけど、本音で向き合えてぶつかることはあっても飾らず過ごせる相手が一人いることは、何よりも価値のあることのように思えた。
思ったこと、見せたいこと、抱えきれなくなってしまったこと。
そんな話をしても大丈夫と心から思える相手はそうそういるものではなくて、どれだけ同じ時間を共有しても、心の距離が縮まらない人だってたくさんいる。
"今"の自分が持っている少しは飾らなくてはいけないいくつかのコミュニティと、少し心をゆるめて話せる数少ない大切な相手と、その両方があったらきっと、少しだけ強く生きられる明日になる。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

お読みいただきありがとうございます! サポートいただきました分はnoteを続けるエネルギーに変換していきます。