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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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#掌編小説

【短編小説】幸せのかたち

【短編小説】幸せのかたち

3,870文字/目安7分

「幸せに形があるとしたら、きっと三角形だよ」

 口癖のように話す彼女の言葉の意味が、当時小学四年生だった僕には分からなかった。
 住んでいるところは町にもならないような田舎だった。近所に歳の近い子が他にいないからと、ことあるごとに遊びに連れ回された。山へ虫を捕まえに行ったり、知らない細い道をどんどん入って行ったり、お互いの家の敷地全部を使ってかくれんぼをしたり。かくれ

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【短編小説】二人の物語

【短編小説】二人の物語

1,880文字/目安3分

 波の音は静かに、時間の経過を忘れさせる。コンビニでアイスコーヒーを買って、浜辺で海を見ながら過ごすのがわたしたちの定番になっていた。石段に並んで座って、なんでもないことばかり話す。コーヒーを飲み終えても、氷が溶け切っても、日が暮れるまでおしゃべりをする。

「わたしたち、これからどうなるかな」
「そうだなぁ、案外何も変わらないんじゃないか?」
「よくそんなことが言える

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【短編小説】ここにいる理由

【短編小説】ここにいる理由

1,818文字/目安3分

 一年前に事故で死んだはずの彼が突然帰ってきた。どういうわけか全然分からないけれど、確かにそこにいる。話せる。触れる。体温を感じられる。一緒に食事もできる。

 朝起きてリビングに出ると、彼はキッチンに立っていた。やっぱりいる。今までそうしてきたように、そしてこれからも続くように、当たり前のように、確かにそこにいる。
 彼は食パンをトースターにセットしていた。一緒に暮ら

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【短編小説】ここにいる、ここにいて

【短編小説】ここにいる、ここにいて

1,807文字/目安3分

 仕事から帰って、晩ごはんの支度を始めようとしたら、彼が突然帰ってきた。
「ただいま」
 そう言っていつもやっているかのように、傘を置いて、上着を脱いで、部屋へ着替えに行った。
「あ、おかえり」
 遅れてその後ろ姿に声をかけたけど、間抜けな声しか出てこなかった。
 平静を装って、料理の準備に戻る。今日は二人分作らなくちゃ。

 彼が部屋から出てきて、わたしの隣に立つ。ふ

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【短編小説】承認欲求ロボ

【短編小説】承認欲求ロボ

3,101文字/目安6分

 ボクはロボットの『ウィーン』
 大好きな博士につくってもらった。

 好きな食べ物はウィンナー。
 ロボットだけど、博士が食べられるようにしてくれた。食べると体の中で栄養が分けられて、肥料になる。これがなかなか評判いいんだ。農家のハルカさんとアキオさんが喜んで使ってくれる。
 高い値段で買ってくれるからボクも喜ぶ。これで生活に必要なものを揃えて、博士が研究に集中できる

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【短編小説】くらげになる

【短編小説】くらげになる

2,592文字/目安5分

 雨はしとしと、この町を灰色に染める。分厚い雲は喧騒すらも覆い隠した。すごく静かだ。まるで海の中にいるみたい。息が詰まりそう。
 雨は嫌い、傘は好き。
 傘を差していると、世界から遠ざけられたような、そんな気がしてくる。赤だったり青だったり、黒や透明もある。いくつもの傘が同じようにぷかぷかと浮かんでいる。
 人の声、車の音。それらすべてを雨が飲み込む。町の中を歩いている

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【短編小説】旅立ちの時に

1,735文字/目安3分

 公園の隅っこにある木は、わたしがまだ小さな頃に父と植えたものだ。

 どこかから貰ってきた木なのだけれど、家の庭だとせまいから、育っていくとやがて窮屈になってしまうし、かと言ってそのまま捨てるのはあまりにも悲しい。成長すればそこそこ大きくなるこの木をどうするかすごく困ったわけだけど、幼いわたしは植えると言って聞かなかったらしい。それで、近所の公園を使った。

 公園と

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