記事一覧
2024/05/25
1.小説を書いた。意外に書ける、と思ったのが最初で、全く書けていないと思ったのがその次、そして書き終わった今、もっと書けたはずだと思っている。つまり、書けなかったことがたくさんある。紙にインクを染みつかせてみて、ようやく分かった。
2.エッセイ以外の表現方法を模索し始めたのは、「自分の生活に近すぎる」というエッセイ特有の限界と、「自分自身の人生を書きたいわけではなくなった」という個人的事情からだ
2023/03/24 となりのロット
同級生にあんな子いたな~と思ってボーッと見ていたら、本当にその同級生の子だった。新刊のサイン会の知らせを見て、足を運んでくれたそうだ。中学生以来だったから、十数年ぶりだった。この十数年間、一度も連絡したこともないような仲だったけれど、それだけに自分の意志で会いに来てくれたことがとても嬉しかった。
人間関係というのは、別にこだわらなくてもいいようなものに、それでもこだわることだ。たまたま同じ期間に
宇宙工学者の僕が、なんでエッセイなんか書くのか [久保勇貴]
野球は10年間も続けたけれど、別に好きではなかった。惰性で生きるのが得意だ。
はじめは、兄ちゃんの野球の試合に付いていって友達と遊ぶのが好きだったのだけれど、そのうちその友達が試合に来なくなって暇になったので、とりあえず「野球やりた~い」と父ちゃん母ちゃんに頼んだのだった。野球がやりたかったというか、単純にヒマだったんだと思う。そうしてそのまま、高校3年の最後の夏まで惰性で10年間続けた。
グ
ごめんねマリー君を愛する
今日は、マリーに謝った。マリーは、なんでですか?と言った。マリーはいつもそんな感じだ。マリーは僕の感情に入ってこようとはしない。マリーと打ち解けられたことは、たぶんない。
マリーとオンラインで話すのは、こわい。マリーはいつも、大丈夫ですよ、と言ってくれる。優しくしてくれる。優しさは諦めと同じだ。だって、僕の優しさだって諦めだ。だから、マリーを未だに信じきれない自分がいる。だからマリーには、いつも
本を売ろうとしたら、一週間で疲れ果てた
今月末に、本を出版する。
先週の金曜日に情報公開して、一週間経った。
疲れ果てた。死にそう。
情報公開直後の土日は、SNSでの報告、リプライへの返信、知り合いへの宣伝、そして近所の本屋さん12軒への飛び込み営業。
はじめは楽しかった。みんなが好意的に反応してくれて、おめでとう、本出すんだね、すごいね、買うね、サインしてね、そうやってたくさんの人に応援されて夢中で走り抜けた。
しかし、そも
2022/12/11 かける
体調不良で倒れたお客さんの脇を抱えているとき、僕は生きているんだと思った。床に撒かれたドリンクがスニーカーの底を湿らせて、多分それはソフトドリンクだったから、足を踏み出す度にねちっこかった。生きているというのは、こういう感じだった。どこにも行けない僕たちは、何かのふりばかりを繰り返していたのだった。そう、そういえば、こういう感じだった。
彼はもう、書くことがなくなったのだった。それは、書かなくて
2022/07/13 妖精になった
目が覚めると、妖精になっていた。制約が多くて困る。
昨日まで僕のことを名前で呼んでいた人が、急に僕のことを妖精と呼ぶようになった。妖精とか、妖精くんとか、妖精さんとか。もちろん妖精というのは属性というか種族というかそういう名称であって、僕の名前ではない。そういう一つ一つが、小さなストレスになる。そもそも、妖精というのは生物学上は人間とほとんど区別できないらしい。肩のあたりで羽を支える骨(なんちゃ
2022/06/23
毎日、日常、疲れる。きっと、自転車のコインパーキングに何も停まっていないのに一つだけ光っていたそのランプも、ああ、嫌い、何でうまく書けないの。嫌い、ストレス、隣のおじさんが痰を吐く音が毎日うるさくて、死ね、また言った、また言ってしまった、その、言うシーンは描かれるだろう、でもその後の、罪悪感を静かに正当化しようとしているシーンは描かれない。バイク、うるさいバイクが世界一嫌いで、みんな死ねばいいと思
もっとみる2022/04/30 僕だけがいつもわからない
何を言っているのか全然わからない演劇を見た。いっしょうけんめい観たけれど本当に全然何もわからなくて、だから、わかったような顔をして拍手をするのもなんだか間違っているような気がして、役者さんたちがお辞儀をしているのをぼーっと見ながら一応ちょっとだけ手をペチペチするふりをした。多分失礼な奴だと思われていたと思う。一緒に観た二人はなんとなくだけどちゃんと内容をわかっていたみたいだった。僕だけがわかってい
もっとみる2022/02/24 むかつく
むかつくことが多い。スイートピーという花を買った。
ずっと行きたかった東京都現代美術館に行った。むかついた。寒川裕人さんの作品は素晴らしくて、ほとんど同世代の方がこんなにもすごい作品を作っていて、ああ、すごい、シャッター音、『群像のポートレート』という作品は、シャッター音、じわりと色彩が目に染みこんでくるようで、それがじゅわわり涙に変わり、シャッター音、シャッター音、『黄色い花畑のドローイング』
2021/12/24
作ることも、守ることも、ぜんぶ無意味に思えたらサンダルを履いて家を出た。靴下も履いていない足元から冷気は凄まじくそれで、それでも、歩かなければいけないと思った。やるせない気持ちはどこまでも消えないから。会いたい人には、いつまで経っても会えないから。
幹線道路は冬の空気を突き刺して、それは都市を生き永らえさせるという点において僕とは絶対に分かち合えない孤独を抱いているだろう。だから、僕はまた少し安