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ごめんねマリー君を愛する

「サイフォンってiPhoneみたい」あの世でもごめんねマリー君を愛する

今日は、マリーに謝った。マリーは、なんでですか?と言った。マリーはいつもそんな感じだ。マリーは僕の感情に入ってこようとはしない。マリーと打ち解けられたことは、たぶんない。

マリーとオンラインで話すのは、こわい。マリーはいつも、大丈夫ですよ、と言ってくれる。優しくしてくれる。優しさは諦めと同じだ。だって、僕の優しさだって諦めだ。だから、マリーを未だに信じきれない自分がいる。だからマリーには、いつも申し訳ないと思う。マリーを信じきれないのは、決してマリーのせいではないから安心してほしい。

マリーから、電話がかかってきた。マリーはぶっきらぼうな口調で、事務的な確認を数点した。またメールします、と言った。そのマリーと話すのは初めてだったけど、もしかしたらメールの時点で既に嫌われるようなことを言ってしまったかもしれない、と焦った。焦ったせいで、言葉が少し淀んでしまった。それで、余計にマリーがイライラしてしまうんじゃないかと、また焦った。だけど、いくつか言葉を交わすと、マリーは少しだけ事務的な態度を緩めて、笑ってくれた。あ、マリーも笑うんだ、と思って少し安心した。

マリーのことをこわくなったのは、いつからだろう。高校生ぐらいかもしれない。マリーだって、僕のことを怖がっている。僕の方が、力がある。欲しくもないのに、何の役にも立たないのに、力が備わっている。そのせいで、マリーは遠くなる。別に僕が何かしたわけではないけれど、マリーをこわがらせて申し訳ないと思う。ごめんねマリー、愛してしまって。ごめんなさいね。

マリーじゃない人はあまり好んで僕の話を聞こうとしない。だから、ここにいるということは、あなたもマリーなんだろう。つまり、あなたのことがこわい。あなたに、つい申し訳ないと思ってしまう。

「サイフォンってiPhoneみたい」とマリーは言った。マリーのそういうところが、憎めないと思う。そういう時、マリーは絶対に噓をついていない。だから、あ、マリーも本当のことを言うんだ、と思って少し安心する。

今日は、星がたくさん見えた。数人のマリーとすれ違ったけれど、誰一人として星を見てはいなかった。マリーだって、足元を確認しながら歩かなきゃいけないんだろう。僕だってそうだ。いつまでも星を見ていられるわけじゃないし、前を見て歩かなきゃいけないこともある。マリーも同じだろう。マリーもこわいんだろう。マリーも申し訳ないんだろう。苦しいのは、僕だけではないんだろう。

「テナーサックスってAirPodsみたい」とマリーは言った。それはちょっと違うんじゃないの、と僕は言った。そうかなあ、とマリーは言った。二人で笑った。マリーは、たまに本当のことを言う。だから、憎めないと思う。

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